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毎年全国で開催されるエスカレーターの安全についてのキャンペーンとは?~埼玉県の取り組みも紹介~

毎日の仕事や家事、様々なことに追われ、そしてスピード感重視の世の中でせわしなく生きる私たち。

生活の中で当たり前に移動手段として利用するエスカレーターですが、普段片側を歩くことは多いですか?
それとも、ゆっくり立ち止まって乗ることが多いですか?

昨今、エスカレーターの片側空けについて議論がなされることも増えてきました。
悲しいことにエスカレーターの事故は年間1,500件と毎年増加傾向にあります。
(エスカレーターにおける利用者災害の調査報告(第9回)、一般社団法人日本エレベーター協会(2020年10月号)より引用

弊社としてもエスカレーターの事故に対して少しでも世の中の意識を変えていくため、今回は官民合同で行っている、『エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーン』について紹介させていただきます。
さらにそれに付随し、2021年に新しく制定された埼玉県の条例についても紹介いたします。


1.全国規模で開催される『エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーン』とは

1-1. エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーンについて

2009年から毎年約1か月ほどの期間を決めて、国土交通省、消費者庁の後援の元、全国の鉄道事業者や商業ビル、空港施設、各県・主要都市、関連団体などが合同でエスカレーターの安全利用のために、『エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーン(年により「エスカレーター手すりにつかまろうキャンペーン」など名称の変更はあった)』を実施しております。

各方面にプレスをリリースし、駅構内などにも印象に残るようなポスターを大々的に掲げ、省庁だけでなく、民間の企業も巻き込んだ一大プロジェクトを毎年展開しております。
(東京地下鉄株式会社WEBより引用)

こちらが今までに掲出されたポスターの一例です。

今年(2023年12月現在)は2023年7月24日(月)から約1か月間、全国の鉄道事業社がなんと「56社局・4団体など計69団体」が合同でキャンペーンを実施しました。

今までの長いキャンペーン開催の中で最も参加団体が多いの見ると、各社でバリアフリーや安全についての検討がなされている証拠だと感じます。
(東京都交通局WEBより引用

ちなみに今年参画する団体の一覧はこちらです。全国各地の主要な鉄道会社が一堂に会していますよね。

このキャンペーンは、利用者ががエスカレーターを利用する際に、自身でバランスを崩して転倒したり、駆け上がったり駆け下りたりする際に他の利用者と衝突し転倒させたりするなどの事象が発生しており、事故を少しでも防ごうという目的です。

エスカレーターで歩行用に片側をあける習慣は、左右いずれかの手すりにしか摑まることのできない利用者にとって危険な事故につながる場合もあります。
全ての利用者が安心してエスカレーターを使用できるようにすることが、このキャンペーンの一番の観点になります。

非常に大切なテーマであると同時に、常日頃から考えていかなくてはならない難しい課題でもあります。
さらに筆者自身、このキャンペーンが継続して実施されるにあたり、国も自治体もエスカレーター関連の事故や片側空けの文化に対して、社会問題として取り扱っている証拠だと感じました。

1-2. 新田教授らの取り組みについて

また、こちらは2020年より採用されているキャンペーンポスターです。
駅構内で見かけたことのあるかたも多いのではないでしょうか。

(東日本旅客鉄道株式会社ではこちらの動画でも動きをつけて紹介しています)

実はこのポスターですが、文京学院大学の経営学部の新田教授(流通・マーケティングの研究をされている)を中心として、実際に学生たちが手掛けたデザインになります。

東日本旅客鉄道株式会社より今後のキャンペーンの発展のために新田教授が意見を求められ、キャンペーンポスターのコンセプトやデザインについて、経営学部のマーケティングの観点とこれまでの研究成果をふまえつつ、こちらのデザインを提案したそうです。

さらに、新田教授のゼミでは2017年度より、「誰もがエスカレーターを立ち止まって乗る社会を実現する」ことを1つの研究目的として、啓発活動を行っているそうです。
(トレンドニュースサイト STRAIGHT PRESS【 ストレートプレス 】より引用

2.埼玉県で日本初のエスカレーターの乗りかたに関する条例が施行

そして、このエスカレーターに関する安全についてより注目が集まっているさなか、2021年10月に埼玉県が国内初の「エスカレーターを立ち止まって乗車する」という旨の条例を施行しました。
世界を見てもエスカレーターの乗り方に関する法律や条例を制定している地域は、類を見ません。
(埼玉県公式WEBより引用

条例では、すべてのエスカレーターの利用者に立ち止まって乗ることを求めています。
エスカレーターの管理者が利用者に乗車方法について周知することを求めたうえで、さらに知事は周知が不十分な管理者に指導や助言、勧告ができるとしています。本条例に罰則はありません。

また条例が制定されて半年が経過した、2022年3月8日には、この日がエスカレーターの日であることもあり、JR浦和駅において、梅澤佳一議長、岡地優副議長をはじめ県議会議員、大野元裕知事、JR東日本職員が参加し、エスカレーターの安全利用街頭キャンペーンを行ったそうです。
(エスカレーターの日について紹介している弊社コラムはこちら

こちらは当日の写真です。

このように条例制定後も、埼玉県全体でエスカレーターの安全についての啓発活動が行われているようです。
(埼玉県公式WEB埼玉県議会トピックスより引用

また、障害者支援を専門としている筑波大学医学医療系の水野智美准教授は、埼玉県内の2つの駅(JR大宮駅と越谷レイクタウン駅)の計3か所で、条例が施行された前後でエスカレーターの利用者の行動に変化がないか、調査を行いました。

こちらは朝の通勤時間に大宮駅で調査した際の結果です。

グラフの通り、施工前と比較すると、歩行者が減少したことが見て取れます。
水野准教授は、この調査結果を受けて、条例が徐々に浸透してきていると分析しています。
しかし、まだ十分ではないため、条例が浸透していくための新たな施策や、良い一層の周知活動が必要とのことです。
(NHKさいたま放送局特集記事より引用

3.終わりに

今までエスカレーターに関する啓発活動はメーカーをはじめ、定期的に行われてきましたが、都道府県をあげて条例を制定するには至っておりませんでした。

しかし、実際に左右どちらかでしか乗り降りできないかたや弱視のかたなどにとっては画期的な条例であることは間違いありませんし、今までなんとなく乗っていた人々に対して新しい意識を芽生えさせるよい機会であるはずです。

日常当たり前にエスカレーターを歩行していたり、手すりにつかまらないで乗り降りする光景をよく見ることを考えると、全国に安全意識が浸透していくには時間がかかると予想されます。

筆者としては、人々の意識の中に安全な乗り方に関する考えが広まり、多様な人々が利用していることへの理解が深まれば、条例化や法整備までしなくても、安心して利用することができるようになるのではと感じています。

勇気をもって声を上げることはたやすくはありませんが、誰もが住みやすい社会の形成のためにも、このキャンペーンや埼玉県の条例をきっかけに一層エスカレーターの安全に関する注目度が上がることを願ってやみません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

  • 株式会社講談社:コラム記事・現代ビジネス2019年8月16日記事

  • 森ビル株式会社WEBよりPDF参照


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