![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/114320882/rectangle_large_type_2_0b27455e0079111a6ce988fc74c2cd60.jpeg?width=1200)
「避難所の衛生ストレス解決」プロジェクト最終年度がスタートしました!
こんにちは。 イノベーション・エージェント UCI Lab. の渡辺隆史です。
2023年も6月の台風2号や7月の記録的大雨、お盆休みを襲った台風7号など各地で大規模な水害が発生し続けています。被害に遭われた方には、心よりお見舞い申し上げます。
あらためて「誰もが自然災害に常に備えておく必要がある」ことを意識しながら、私たちが取り組む産学連携プロジェクトが今年度もスタートしています。
このnoteでは、まず「避難所の衛生ストレス解決プロジェクト」(以下、避難所プロジェクト)のこれまでの取り組みとそこで見出された「日常から使い慣れておくことで避難時にも地続きに活用できる使い方をデザインする」という方向性、今年度の目標「現場で役に立つところまでつくり切る」についてご報告します。
少し長いですがお付き合いください。
産と学にとどまらない多様な参加メンバー
まずは、概要について。避難所プロジェクトは、2021年1月に準備を開始し7月から本格的にスタートした産学連携での共同研究です。
当時、コロナ禍でも発生する自然災害の中で、避難や支援がままならない状況が発生していました。そこで、共創デザインと技術の力で新たなイノベーションを生み出し現場に貢献することを目指してプロジェクトがスタートしたのです。
参加しているのは、長くデザイン思考の研究と教育に取り組んでこられた京都工芸繊維大学の櫛 勝彦先生の研究室、ナノイーXなどのクリーンテクノロジーを持つパナソニック、さらに防災士として各地で支援活動をされている宮本裕子さん、そして生活者起点と対話的協働を掲げる私たちUCI Lab.という、改めて考えると実に多様な立場と専門性を持つ面々。
さらに、プロセスを通じて、被災や支援を経験された方々に何度もお話をお伺いしました。お世話になっている皆さんたちこそ、ある意味でプロジェクトの中心であり最も重要な参加者です。
そして、取り組みの中で浮かび上がってきたのが、避難(所)における衛生に関わるストレスでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1692622460061-pkqDajXvs3.png?width=1200)
「避難所の衛生ストレス」って何ですか?
避難所における衛生ストレスとは、身の回りの衛生について、日常当たり前に出来ていたこと(例えば、歯磨きや洗髪など)が避難所生活においては極めて困難になることや、新型コロナ以降の人と人とのコミュニケーションを妨げる対策から生まれる様々なストレスのこと。
避難(所)生活では、ライフライン等が復旧していても、集団生活の制約や様々な非日常的な不便から、極めてストレスを感じやすい状況にさらされます。しかし「それどころじゃないし、自分だけが不満を言いづらい」と我慢や不満を蓄積しがち。
私たちは、このような緊急事態で見過ごされがちなことにこそ、取り組む価値があるのではないかと考えました。合言葉は「それどころじゃない。けど、それも大切。」です。
3つのプロトタイプと旅に出る
2021年から、私たちは避難という非日常な現場を理解するために、多様な災害を経験された皆さんにお話をお伺いし、可能な限り現地でのフィールドワークを実施。そこから、具体的な技術手段を伴うプロトタイプを構想していきました。
そして、22年度には3つのプロトタイプが完成。秋にはそれらを携えて、お話をお伺いした地域の皆さんに披露してフィードバックをいただきました。
![](https://assets.st-note.com/img/1692622191464-EVt5pLpcRr.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1692622313148-y6iPg5I5MH.png?width=1200)
日常から使い慣れておくという防災デザイン
2年間をかけて、フィールドとプロトタイプの「対話」を何往復も繰り返すなかで見出されてきたのは、以下の2つのことでした。
1)防災の備えは、特別ではなく日常生活とつながっているべきもの
2)多様な事態が起こりうる中で、なんとか工夫できることが大切
そして、防災専用の新商品を開発するのではなく、既存製品にアタッチメントを加えることで、日常からアウトドアのようなハレの日、さらにもしもの避難時まで地続きに活用できる使い方をデザインして提案するというソリューションが浮かび上がってきました。
緊急事態から見出されたナノイーXの新しい可能性
そこから、議論や実験を進めて3つのプロトタイプから1つの方向性に絞っていきました。それは、パナソニックのナノイーXの効果を、大きな空間ではなく、あえて限定した空間の中で活用するというアプローチ。
これまでの粘り強い対話から徐々に生まれてきたこの着眼点は、ナノイーX(エックス)によるナノイーBOX(ボックス)といったところでしょうか。
そして、備えを意識しない日常での楽しい用途と避難現場での臨機応変な対応を、ひと続きの体験として、より具体的にデザインしていくことになりました。
2023年4月には仮説に基づく技術的な検証をパナソニック様社内での実施。7月からは大学研究室でナノイーXの実機を使ったプロトタイピングを開始しています。
現場で役に立つところまでつくり切る
プロジェクトの最終年度に私たちが目指しているのは「現場で実際に備えられて役に立つところまでつくり切る」こと。
共創デザインやUCI(User Centered Innovation)は、現場の当事者を起点に、共に対話することを通じて新しい何かを創造していきます。しかし「避難所生活」という緊急かつ一時的な現場(もちろん長期化することもあります)を経験していない私たちが「わかる」に近づくためには、当初大きな困難が予想されました。
そんな中で、防災士 宮本裕子さんのこれまでの活動や信頼関係のおかげで、想像をはるかに超えた避難時の多様な状況をお伺いすることができたのです。
皆さんからの被災経験やプロトタイプに対するフィードバックはあまりにも膨大でした。すべてが単なるヒアリングやアイデアのソースとして処理や取捨や消費など決してできないもので、いわばギフトやバトンを受け取ったような感覚を覚えました。
この大きな何かに応えるには、まず現場に実装できるものをつくり切ること。避難時に起きる困りごとと制約条件を踏まえて、現場で機能する使い勝手で、現場が使おうと思える効果を発揮するソリューションまで到達したいと思っています。私たちが受け取ったたくさんのバトンを、また違うカタチのバトンに変えて現場や社会に戻してつないでいきたい。
そのプロセスは、このnoteを通じて随時オープンにしていく予定です。関心を持っていただいた皆さんには、ぜひマガジンをフォローいただくか、時折チェックしてもらえるととても嬉しいです。
防災をもう一歩自分ごとにするきっかけに
そしてさらに、より多くの方々にプロジェクトを知ってもらうことを通じて、防災を自分ごととして考えるきっかけにしてもらうことも、私たちがプロジェクトを通じてできることのひとつだと考えるようになりました。
100年前の1923年9月1日午前11時58分、関東大震災が発生しました。もしもあなたが明日、避難が必要な状況に直面するとしたら。あともうひとつ、どんな対策をしておけばいいと思いますか?
私たちがプロジェクトで取り組んでいる「避難所の衛生ストレス」も、備えておくべきことのひとつ。
ぜひ、避難所の衛生ストレスについてより広く議論し深く理解していくために、あなたが避難所での衛生ストレスについて気になることや実際に困ったことを、コメントやSNSを通じて教えてください。
私たちが現場の皆さんから受け取ったバトンが、具体的に役立つアイテムと、もっと広い意味での、誰かの「助かった!」につながっていくことを願って。
【補足】プロジェクトの詳細はこちら
プロジェクトの詳細については、ホームページも是非ご覧ください。
22年度までの活動プロセスについては、こちらのnoteをご覧ください。
(23年度は、UCI Lab.のnoteで継続連載していきます)