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人生で初めての『おはぎが食べたい日』
古賀及子さんのエッセイ「好きな食べ物がみつからない」を読んでいたら、おはぎが食べたくなった。
宮城県まで行って食べていたごまのおはぎが、どうにもおいしそうで仕方がなかったのだ。
これは完全におはぎの口。仕事中、おはぎに想いを馳せる。
おはぎが食べたいなんて、人生で一度でも思ったことがあっただろうか。
目の前に出されたとて、そこまでそそられなかった食べ物であるおはぎを、わたしはいま!無性に!食べたくて仕方がない!!
仕事を終えたあとも気持ちは冷めやらず、さっそく駅のデパ地下に向かう。
行先は道民御用達のお惣菜屋さんサザエ。天むすなどのおにぎりがメインで売られていて、おはぎやおやきが売られているのも知っていた。
というか、これまでの人生であまり気にしたことがなかったので、おはぎが売っているところがここ以外にわからない。
正直、サザエのおはぎでさえ食べたことがあるのか怪しい。それくらい、おはぎとは縁遠い生活を送ってきた。
お店につくと、思ったよりもおはぎが並んでいない。メインはおにぎりのようで、様々な具材のおにぎりがショーケースにずらっと並んでいる。おはぎが見当たらなくてちょっと探したが、横の方にしおらしく佇んでいた。
妙にデカいおはぎと普通サイズがあって、せっかくならとデカい方にした。
でかいほうのおはぎは「とみのおはぎ」といって創業者の野村とみさんが作るおはぎがデカかったことに由来した商品らしい。でかい。拳くらいある。
本当はエッセイに登場したようなごまのおはぎが食べたかったのだけど、お店には置いていなかった。少し残念がってお店のホームページをみると、なんと!あるではないか!ごまのおはぎ!きなこも!
ここの店舗にないだけか!と近くにあるもう一店舗に向かう。こういうとき、どうしても見に行ってみないと気が済まない自分がいる。
結果は、同じおはぎが並んでいるだけで、ラインナップにプラスしておやきが並んでいただけだった。
仕方がないが、当初の目的は果たされた。
2個入りのデカいおはぎはずっしりとしてとてもうまそう。
家に帰って、ダイニングテーブルに置いたおはぎに妻がいち早く気づく。
「何買ってきたのー?」とニヤニヤしている。
妻はこういう、美味しそうなものの察知能力が異様に高い。そして、彼女はとてもおはぎ好きだったことも思い出す。以前、どこかのおはぎを買ってきてくれたことがあったっけ。
晩御飯を食べた後で、満を持しておはぎのパックを開ける。
正直、食後に食べていいサイズではない。大人の拳くらいあるおはぎは、3食のうちの1食分と言われても遜色ない。昼に一つ食べたら夕方くらいまでは頑張れそうなサイズである。
妻がおはぎの成分表示を見て「ほんとにいいの?」とつぶやいた。カロリーが271kcalもある。そりゃそうだ。めちゃくちゃでかいもの。そしてあんこもずっしりびっしりしている。
莫大なカロリーに及び腰になるが、おはぎはずっと食べたかったのだ。こんなことで引くわけにはいかないのである。
どっさりとしたあんこを箸で割って一口。
「うま…!」と思わず声が出る。おはぎってこんなにおいしかった……!?
もち米をびっしり覆っているつぶあんは甘さ控えめ。ほんのり塩味が効いていて、この量を食べていてもしつこくない。甘さ自体も優しくて小豆のうま味みたいなものがしっかり感じられる。中のもち米も程よくモチャモチャしていて、単調なあんこの食感にアクセントを加えてくれる。本当においしい。なんで今まで食べてこなかったんだろう。おはぎ。
でかいほうにして正解だった。このおはぎで口をいっぱいにしたい。
ありがとう、とみさん。ありがとう、サザエ。
おはぎがこんなにおいしかったとは本当にびっくり。
年を重ねた自分が迎合してきたのかわからないが、思わぬところでの大ヒットだった。
お供にいれた緑茶をズズズとすすっておはぎの余韻に浸る。
次は、次こそはごまのおはぎと、きなこのおはぎも食べてみたい。
エッセイに出てきた宮城県のおはぎも食べに行ってみたい。
ああ、おいしかった。新しく好きな食べ物がみつかったよ。
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