父親の涙と、コンドームの行方②
さて、コンドームを松の木の枝に引っ掛けて証拠隠滅を終えた僕らは、無事初体験を終えた。これからどんな未来が待っているか気にもせず、松の木は海の浜風に揺られている、コンドームを隠して。
ある日、僕らは遊園地に遊びに行った。初めての遠出だった。緊張していた僕はジェットコースターに酔ってしまい、ランチを全戻ししてしまったが、そこは上手く隠し通し、1日遊園地を楽しんだ。
帰りが少し遅くなってしまった。門限などは特になかったが、まだ中学生、多分怒られるだろうなという予感はしていた。
急いで帰ると、案の定玄関の鍵は閉まっていた。予感は的中と思ったが、それを信じられない角度で上回る激怒が待っていた。インターホンを鳴らすと、今まで見たことがないような母親の顔、家に上がらせてもらう間も無く、使い終わったコンドームのゴミを見せられた。
おやおや、それは記憶に新しい真っ黒のコンドーム、このタイミングで出てくるということは、多分僕のなのだろう。
思考が一瞬にして駆け巡ったが何故?母親が木登りするとは思えない。
・・・「庭に落ちていた。」母親は一言そう告げた。浜風のせいだ。
庭に落ちていた。柿や松ぼっくり、ドングリなど、可愛らしく平和なイメージしかない、庭に落ちていた。という言葉、コンドームに変わるだけで状況はこうも変わるものなのか。
僕は手始めに、知らないよ。というありきたりの言葉で応戦したが母親は堅実で用意周到だ。僕の部屋の中を調べ、僕らの手紙のやりとりを全てチェックしていた。そういえば手紙に初体験は痛かったとか、コンドームはまだある?みたいなことが書いてあったな。試合終了、僕はここから号泣というプランに切り替えるのであった。
2階の部屋に移動した。母親と僕、そこに呼び出された父親が加わり三者面談が始まった。ドラマでよく聞くようなセリフが母親からどんどん飛び出し、母親の絶望加減が胸をえぐる。中学2年生で初体験の何が悪いんだよと思っていたが昭和の割と真面目な母親の受け皿には重すぎたようだ。とにかくこの間も僕は号泣プランを続けている。
母親は言いたいことを全部言い切ったのか、私達の育て方が悪かったという言葉と深い溜息、諦めに近い感情で全てを締め括った。そこで黙っていた父親がカットイン、母親に「お前はもういいから下に行け、2人で話をする。」と言って父と2人きりになった。
父親と2人で真面目な話なんて意外とないからどうするんだろうと思いながら、号泣を小休止、父のセリフを待った。
・・・「俺はわかるよ、男だ。」父親からの想定外のセリフに、号泣の小休止が急発進、再び泣きっ面に。そうだ、父はここぞという時、いつだってそうだった。いつだって味方になって優しく包み込んでくれる人だった。
そこで何故か父も号泣プランに切り替えたのか涙を流しながら、ドラマでよく聞くようなセリフがどんどん飛び出し、男2人抱き合うという展開で無事エンディング。
最後は、「ただ、野球とか勉強とか、今はもっと他にやることがあるから取り返しのつかないことにはならないように。後でいくらでも時間はある。」という綺麗な形で終幕。さすが父親。土木を専門にしているだけあって地均しがお上手。
母親はしばらく不安定だった。磐石の堅実さ。相手の母親に電話をし、うちの息子がお宅の大事なお嬢さんを…みたいなことを話しているのが聞こえた。ウチにはもう来ないようにと、電話で伝えたようだ。
これで終わった、とその時は思ったが
その後僕と彼女の関係は悪化し・・・なんてことにはならなかった。
後日相手の親から
「もうコウタくん家には行かせないけど、ウチに来て会いなさい。」と直接連絡をもらった。お母様大好き。
薬局で買う勇気は無く、もっぱら自販機、時には相手のお宅で相手の親が所持しているコンドームをこっそり拝借することもあった。
そして使ったゴミはゴミ箱に、これは社会の基本的なルールである。