5.栄養を「取る」だけでは不十分? 摂取しないといけない業界
フリーランスになって、特に最近はWEB制作会社さんや事業会社さんと直接お仕事をさせていただくようになってから、美容や健康、グルメなど今まであまりご縁がなかったジャンルの校正校閲を扱うようになりました。
分野が違うとよく使われる単語も異なり、漢字表記にも独特の使い方が見られます。
例えば食品や化粧品を販売する企業のオウンドメディでは
「食事を摂る」
のように「摂」をよく使います。
「食事を摂る」はほかに「とる」「取る」の表記も可能です。
常用漢字表では「とる」と読むのは「取る」「執る」「捕る」「撮る」があります。「摂」は「セツ」のみで「とる」の訓読の記載はありません。よって「摂る」は常用外になるので、常用漢字表に従って漢字で表記すると「食事を取る」となります。
現場でよく参照される『記者ハンドブック(第13版)』(共同通信社)でも、「摂取する」の意味では「取る」で統一されています。
しかし美容や健康に関する商品やサービスを提供する業界では、食事や栄養を摂取することを特別に大事にしています。そのこだわりが「摂る」という漢字遣いに表れているのでしょう。
漢字の使用を一定範囲に定めたり、表記を統一したりすることは、情報を正確に、速やかに伝えるための作業です。一方で、その情報の中には、企業の思いや消費者に向けたメッセージも含まれます。「摂る」の表記にもそれがこめられているなら、堂々と使ってよいのではないでしょうか。
『記者ハンドブック』を調べた企業の広報担当者から、「『摂る』は間違いで、『取る』を使わなくてはいけないのでしょうか」という質問を受けたので、ちょっと考えてみました。
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