コトバノクズカゴ

校正の仕事をしながら、本や新聞を読みながら、電車の中の会話を聞きながら、気になる言葉の今を「コトバノクズカゴ」に拾い集めてみました。ライターを目指す方、企業広報の現場で校正作業に悩まれている方のお役に立てば幸いです。 *2020年8月「満洲引揚三世の備忘録」も始めました。

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校正の仕事をしながら、本や新聞を読みながら、電車の中の会話を聞きながら、気になる言葉の今を「コトバノクズカゴ」に拾い集めてみました。ライターを目指す方、企業広報の現場で校正作業に悩まれている方のお役に立てば幸いです。 *2020年8月「満洲引揚三世の備忘録」も始めました。

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    コトバノクズカゴ――校正校閲の現場から /名コラム「ことばのくずかご」に寄せて。言葉の今、を拾い集めてみました。/校正の仕事をしながら、本や新聞を読みながら、電車の中の会話を聞きながら、気になる言葉の今を「コトバノクズカゴ」に拾い集めてみました。ライターを目指す方、企業広報の現場で校正作業に悩まれている方のお役に立てば幸いです。ライター養成、校正校閲講座で話しきれなかった内容も。

最近の記事

[11] 富山の古書店から届いた満洲引揚体験記の佇まい

 ハードカバーの外カバーをハトロン紙で丁寧に覆った古書が富山の古書店から手元に届きました。  『赤い夕日の満洲で―少年の日の引揚手記』(谷島清郎著、ちばてつや挿絵、新興出版社刊、1997年)。  時々古本マーケットで満洲の体験記を探し少しずつ手元に取り寄せていますが、こんなに大切に扱われていた本は初めてです。  ハトロン紙とカバーの間には、両袖と背の部分を補強するように書店の包装紙を切って挟んであります。その包装紙から書店名の断片が読み取れ、富山の本屋さんだと分かりまし

    • 14. 「碁本」は専門用語か誤植か? 最高裁判所判例集の誤りの原因を考える

       これって「基本」の誤植かな?  初校の校正紙に「碁本」という文字列を見つけて一瞬赤字を入れかけましたが、すぐに手を止めました。  学術書など専門的な本を校正するときは、赤字を入れるのにとても慎重になります。  専門書には、日常的に使っている言葉と同じでも専門的な意味で使われている場合や、よく使っている言葉で置き換えられそうなのに難しそうな漢字熟語が入っていることがあります。でもそれは間違いではなく、その分野独自の意味があったりするので、うっかり赤で直したら大変なことになり

      • 13. オオノさん、オオタニさん、ローマ字でどう綴っていますか?

         文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」。令和2年度の結果が発表され、さっそくメディアも取り上げています。とくにコロナの影響を調べた項目が注目されているようですが、今回気になったのは「ローマ字表記に関する意識」の項目です。  ローマ字は小学校で長音には長音記号を付けると習いました。例えば「オー」は「ō」と書き表します。でも実際には長音記号なしの表記も見かけます。「東京」「大阪」「京都」は「Tokyo」「Osaka」「Kyoto」のように。  昭和29年に内閣告示さ

        • 12. ひらがな名前は不自由? 日本語の名前を中国語の文脈に置くとき

           4月からNHKラジオで「まいにち中国語」を聴いています。  開始早々、発音で振り落とされそうになりながら、どうやら半年の講座を完走できそうです。  そのダイアログのひとつで日本人の鈴木さんの名前が漢字で中国語読みされており、中国では日本人の名前は漢字の中国語読みなのか、では自分の名前を中国語読みしたらどうなるのか調べようとしました。  ところが私の名前にはひらがなが混じっています。音が近い簡体字を当てようと辞書を引いてみましたが、漢字はそもそも意味を持っているので、音だ

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          11本
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          18本

        記事

          [10] 『記憶を拓く 信州 半島 世界』(信濃毎日新聞社編集局編、同社刊、2021年)を読む

           象山に穿たれた地下壕は真夏でもひんやりしていた。掘りかけの壁は荒く、作業をしていた人たちの気配がまだ漂っているかのようだった。  松代大本営地下壕で働いていた朝鮮人労働者は強制連行されてきたという案内板に対し、強制ではないという抗議があってその記述が修正されたという報道があったとき、どうにか事実を突きとめられないものかと思った。  どんな人がどのように働いていたか、当時を知る人たちの間では共有されていた記憶かもしれない。けれども年月を経てその人たちが亡くなってしまうと記

          [10] 『記憶を拓く 信州 半島 世界』(信濃毎日新聞社編集局編、同社刊、2021年)を読む

          [9] 満蒙開拓青少年義勇軍の母

           戦時中の写真集の中に、実家の近くにあった小学校(当時は国民学校)の前で、村の満蒙開拓義勇軍父兄会の人たちが並んだ写真を見つけた。  最前列には母親と思われる8人の女性が座っており、兄弟なのか小さな子もいる。  農村では召集されていく男性が増えたため人手不足となり、満蒙開拓団の送り出し計画が政府の思うようには進んでいなかった。その穴を埋めるように、高等科を卒業する子どもたちをターゲットにして村や学校にノルマを課した青少年義勇軍への勧誘活動が行われた。  高等科の卒業生は今

          [9] 満蒙開拓青少年義勇軍の母

          11. 東京五輪の開催で意味が拡大? 「コロナ禍」から「コロナ下」へ

           連日、東京オリンピックの報道に触れていて気になっていたのが「このコロナかで開催された東京五輪……」といったアナウンサーなどの言葉です。  「コロナか」は「コロナ禍」か「コロナ下」か。  (1)コロナ禍で開催された東京五輪  (2)コロナ下で開催された東京五輪 「コロナ」は新型コロナウイルスまたはそれによる感染症の略として使われてきました。  「コロナ禍」は、「コロナ」によって引き起こされる個人や社会への負の影響を端的に表した造語として定着しています。  (1)では「

          11. 東京五輪の開催で意味が拡大? 「コロナ禍」から「コロナ下」へ

          [8] 重慶爆撃を知っていますか?

           戦時中の信濃毎日新聞は、一面に戦況が大きく載っていた。  1938年から1943年頃まで、大々的に報じられていたのが「重慶爆撃」だった。  数年にわたって一つの都市が跡形もなくなってしまったのではないと思うくらい、執拗に繰り返されている。  そして1943年の新春座談会では、「容易に参らぬ重慶 屈服の方途は如何」と見出しがあり、軍の幹部に重慶はいつ降伏するのかといったような質問がぶつけられていた。  私は重慶爆撃を知らなかった。  戦時中、国民の誰もが注視していたできごと

          [8] 重慶爆撃を知っていますか?

          10.「人流」? 「人狼」と間違えるから「人の流れ」と言って

           「人狼」を止めないといけない?  コロナウイルス感染症が拡大したため、首長が市民に外出自粛を呼びかけた映像がテレビで流れています。  ああ「人流(じんりゅう)」か、「人狼(じんろう)」ってどういうことかと思っちゃった。「人の流れ」と言ってね―― と、ついテレビに向かってひとり言をつぶやいていました。  昨年から、コロナウイルス感染症にまつわる数々の耳慣れない用語や造語が世の中に流れています。  「コロナ禍」のように状況を端的に表して定着した言葉もあれば、うたかたの

          10.「人流」? 「人狼」と間違えるから「人の流れ」と言って

          9.「滝のおトイレ」ってどんなトイレ? ――トイレの名前からバリフリーを考える

           ずっと耳だけで聞いていたコトバについて、意味や当てる漢字を間違えていたということがたまにあります。  例えば「滝のおトイレ」について。  駅のトイレに行くと「右は女子トイレです。左は男子トイレです。その先は滝のおトイレです」といったアナウンスがよく流れています。  「滝のおトイレって何だろう?」とそのたびに不思議に思っていました。それが「多機能トイレ」だったと気がついたのは、実はわりと最近です。  こんな勘違いは自分だけかなと、おそるおそるネット検索をしてみたら、仲

          9.「滝のおトイレ」ってどんなトイレ? ――トイレの名前からバリフリーを考える

          [7]集団自決で女性や子どもを介錯した人は犯罪者か?――『麻山事件』読後感想

           『麻山事件』(中村雪子著、草思社、2011年(1983年刊の文庫版))読了。  1945年8月、北満の麻山で避難中の400名余りの女性や子どもたちが自決した。自らも引揚者でもある著者は、愛知県庁引揚援護課に一年間通い詰めて資料を書き写し、生存者たちに会って話を聞き手紙でやりとりしながら、13年かけて麻山事件の全容を明らかにしようとした。  そのとてつもない執念のおかげで、麻山の集団自決事件の経過と生存者たちの戦後を知ることができる。  これまで読んだ満蒙開拓団の引揚者の

          [7]集団自決で女性や子どもを介錯した人は犯罪者か?――『麻山事件』読後感想

          8.幼馴染に会ったら、童心に「帰る」のか「返る」のか?

          「あれ? 私、間違って使っていたのかな」  校正作業中に、自分が普段使っている漢字表記と異なる使い方が出てくるとヒヤッとします。 「童心に帰る」。  いや、「返る」のはず。と思ったものの、思い込みは校正者には禁物。ここは調べる場面です。  まずは国語辞典。  『精選版日本語大辞典』では「事物や事柄が、もとの場所、状態などにもどる」の意味で「返・帰・還」を載せています。『広辞苑(第6版)』も同様ですが、「童心」を引くと「童心に返る」の例が出ています。『明鏡』では「もと

          8.幼馴染に会ったら、童心に「帰る」のか「返る」のか?

          7.「湧く」と「沸く」。アスリートの言葉は深い

           スポーツ報道は速報性が優先するという事情もあるのでしょうか、WEB版はちょいちょい赤字を入れたくなることがあります。  「自信になります」が「自身になります」になっているのは、単純な変換ミスなのでわかりやすいのですが、アスリートの発言を記事にしたものは、言葉のひとつひとつに特別な意味が込められているので、誤りと言い切れないなあと考えてしまうこともあります。  例えばさっき見た記事:   羽生はSP新プログラムについて「何か沸き上がるような感情があれば、うれしいです」と

          7.「湧く」と「沸く」。アスリートの言葉は深い

          [6] 中国残留日本人孤児の帰国をめぐり、「終わりなき旅」のまだ終わらないことについて

          ――赤ん坊の時に中国人家庭に引き取られ、中国語を話し中国の文化に育ち、教師や医師になった人まで永住帰国を望むのはなぜだろう。  ――あの年齢で一から日本語を学び、職を得て生きていくことができるのだろうか。  ――中国に残された養父母はどうなるのだろう。  中国残留孤児の肉親捜しが始まった時、まだ自分につながっていると気づかず、ぼんやりと肉親との対面をテレビ画面で眺めてこんな疑問が湧いてきた。  結局日本語を充分習得することができず、仕事に就くこともままならず、経済的に

          [6] 中国残留日本人孤児の帰国をめぐり、「終わりなき旅」のまだ終わらないことについて

          [5]国民が支持したから戦争をしたのか

           社会科の授業で「対華二十一カ条の要求」について学んだ時、あんなに不平等条約に苦しんだ日本が、どうして同じ苦しみを中国に与えるようなことをしたのか、不思議に思った。けれども授業からそれてしまう気がして、先生には質問しなかった。  1930年代から40年代のファミリーヒストリーを調べる中で、ずっと忘れていたその疑問を思い出した。  大人は「自分がされて嫌なことを他人にしてはいけない」と子どもに教えるのになぜだろう、と。  疑問は次々と湧いてくる。  そもそもなぜ、日本は戦

          [5]国民が支持したから戦争をしたのか

          再会!『オオカミに冬なし』

           背後の書棚から何十年ぶりかで『オオカミに冬なし』を取り出したのは、日経新聞(2020年10月31日付)に「ウィズコロナを生きる読書から学ぶ知恵」というシンポジウムの記事で、作家の池澤夏樹さんが推薦していた本のリストで見つけたからだ。  雪と氷に閉ざされた灰色の世界で進む物語だった。粗筋も登場人物も思い出せないが、「オオカミにゃァ冬なしでさァ!」――この最後の一言だけずっと覚えていた。  リュートゲン作、中野重治訳、岩波書店刊。記事には絵本とあったが、300ページを超える

          再会!『オオカミに冬なし』