13. オオノさん、オオタニさん、ローマ字でどう綴っていますか?
文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」。令和2年度の結果が発表され、さっそくメディアも取り上げています。とくにコロナの影響を調べた項目が注目されているようですが、今回気になったのは「ローマ字表記に関する意識」の項目です。
ローマ字は小学校で長音には長音記号を付けると習いました。例えば「オー」は「ō」と書き表します。でも実際には長音記号なしの表記も見かけます。「東京」「大阪」「京都」は「Tokyo」「Osaka」「Kyoto」のように。
昭和29年に内閣告示された「ローマ字のつづり方」は、行政の文書や学校の授業で習うローマ字の拠り所です。そこでは訓令式が原則で、長音は長音記号で表すことになっています。ただし大文字の場合は母音字を並べてもOKです。
現在は実際にローマ字が使われているものでは、人名や地名などで長音記号がない表記や、訓令式ではなくヘボン式で綴られたものを多く見かけるようになりました。
自分の名前を学校でローマ字を教わった時は訓令式で書いたけれど、今はヘボン式で書いているというケースは少なくないのではないでしょうか。
「国語に関する世論調査」では、長音のローマ字表記について調査を行っており、
「きちんと区別が付く方法を考えたほうが良い」が7割台半ば
という結果になっています。
例に出されたのが名字の「小野」と「大野」。どちらも「ONO」と表記されて区別がつかない場合があります。
内閣告示では長音記号を使うことになっており、「大野」は「ŌNO」となります。
ところがパスポートでは原則として「大野」は「ONO」と綴らなければなりません。ただし一定の要件のもとでヘボン式によらないローマ字氏名表記も可能で、「大野」は「OHNO」または「OONO」と表記することもできます。
規則とはいえ「大野」さんが「ONO」では別人のようです。ほかにも「ゆうか」さんは「YUKA」で「ゆか」さんと区別がつきません。日本語にとって長音は不可欠な要素です。
「大」についていえば、パスポートの表記はわかりませんが、少なくともメディアでは、テニスの大坂なおみ選手は「OSAKA」で、野球の大谷翔平選手は「OHTANI」と表記されています。学術分野では論文の著者が「OONO」となっているのを見たことがあります。
パスポートの場合、「パスポートへの氏名の表音が国際的に最も広く通用する英語を母国語とする人々が発音するときに最も日本語の発音に近い表記であるべき」(外務省HP「こんな時、パスポートQ&A」より)という理由でヘボン式を優先しています。もっともヘボン式のもとを作ったアメリア人宣教師ヘボンは長音記号を使っています。
ヘボン式は、日本語を英語の発音と綴りに基づいてローマ字で表したものなので英語を母語とする人にとっては発音しやすいものです。ヘボン以降、ヘボン式にもいくつかバリエーションがあるようです。
一方訓令式は、明治時代にローマ字を日本の国字にしようと五十音図に基づいて提唱された日本式と、ヘボン式の長所を取り入れて昭和12年に内閣訓令によって公布されたものです。昭和29年に告示されたのはこれを改定したものです。
日本語のローマ字表記をめぐっては、外国語との関係や日本語の文字表記のあり方などと絡まり合って議論されてきた長い歴史があります。
ローマ字学習は学習指導要領で小学4年生から3年生に移行されました。理由として街中でローマ字の標識や案内板が増えたことやPCを学習で利用するようになったことが挙げられています。
日本語に母音と子音があることを初めて意識するのはローマ字学習の時ではないかと思います。日本語の音声と音韻を理解するための最初の一歩といえるかもしれません。それは外国語学習にもつながっていきます。
ことばの理解と実用面の両方で、ローマ字学習は有用だろうと思います。
一方でヘボン式が普及しているのは、英語が世界で共通語化していることが影響していると思われます。
だったら英語を学べばローマ字を学ばなくてもいいのではないかという意見があるかもしれません。
だとしても「三日月(みかづき)」の「づ」を、いくら英語圏の人が同じ音だといっても、「づ」と仮名書きし「zu」ではなく「du」とローマ字で書くことは個人的には譲れそうにありません。
(参考)
・令和2年度「国語に関する世論調査」の結果の概要:
https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/93398901_01.pdf
・ローマ字のつづり方:
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/roma/index.html