11. 東京五輪の開催で意味が拡大? 「コロナ禍」から「コロナ下」へ

 連日、東京オリンピックの報道に触れていて気になっていたのが「このコロナで開催された東京五輪……」といったアナウンサーなどの言葉です。

 「コロナ」は「コロナ禍」か「コロナ下」か。

 (1)コロナ禍で開催された東京五輪
 (2)コロナ下で開催された東京五輪

「コロナ」は新型コロナウイルスまたはそれによる感染症の略として使われてきました。
 「コロナ禍」は、「コロナ」によって引き起こされる個人や社会への負の影響を端的に表した造語として定着しています。

 (1)では「コロナ禍で中止になったイベント」のように、新型コロナウイルス感染症の流行が原因で、の意味になり、東京五輪開催という事実と結びつきません。ただ、書き誤りなのか、この事例をたまに見かけます。

 (2)は五輪開幕以降、新聞紙上でも使われるようになりましたが、問題はないのでしょうか。

 「コロナ下で」は

 (3)新型コロナウイルスによる感染症が拡大している状況で

という意味で使われていると思われますが、「インフルエンザ下」「コレラ下」という表現には出会ったことがありません。

 「コロナ下」がOKで「インフルエンザ下」が使われないという違いはどこにあるのでしょうか。

 「コロナ」には単にウイルスや感染症の名称というほかに、パンデミックの状況そのものが含まれていると解釈できます。使い方または意味が広がっているということです。

 つまり「コロナ」の意味(太陽を取り巻くコロナを除いて)は次のように整理できます。

 [1] コロナウイルス
 [2] 新型コロナウイルス感染症。COVID-19。2019年12月に中国の武漢市で確認された。
 [3] [2]の世界的流行(パンデミック)。

 コロナ禍で中止されたイベントもあれば、コロナ下で慎重に対策を取って開催されたイベントもあります。
 「東京オリンピック」「東京五輪」に枕ことばのように「コロナ下で開催された」と付いてまわるのは、開催に賛否さまざまな意見があることが背景になっているからでしょう。

 オリンピック開催が「コロナ」の意味の拡張にも一役買っているともいえそうです。

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