14. 「碁本」は専門用語か誤植か? 最高裁判所判例集の誤りの原因を考える
これって「基本」の誤植かな?
初校の校正紙に「碁本」という文字列を見つけて一瞬赤字を入れかけましたが、すぐに手を止めました。
学術書など専門的な本を校正するときは、赤字を入れるのにとても慎重になります。
専門書には、日常的に使っている言葉と同じでも専門的な意味で使われている場合や、よく使っている言葉で置き換えられそうなのに難しそうな漢字熟語が入っていることがあります。でもそれは間違いではなく、その分野独自の意味があったりするので、うっかり赤で直したら大変なことになります。
鉛筆でチェックを入れて先に進むと今度は「墓本」「甚本」という文字が出てきます。いずれも文脈から「基本」ではないかと思われました。
さらに原稿引き合わせをしていくとほかにも数か所、別の漢字で誤植の可能性があるものが見つかりました。
編集者からは、疑問な点があれば著者に確認するので鉛筆で疑問出しをしておいてほしいと指示が出ていましたのでその通りにして戻しました。
「基本」が「碁本」「墓本」となるような誤植は、PCへの手入力で起きるとは考えにくいことです。おそらく著者が紙原稿をOCRでデータにして、そこにPCで加筆修正していったとか、著者から原稿が紙で届いたので編集者か印刷所がOCRでデータ化したためだと思われます。
初校を戻して一夜明けたら新聞に最高裁判所の判例集で間違いが119か所見つかったという記事が出ていました。
職業上、活字の誤植とか誤りといったニュースはとても気になります。
すでに裁判所のホームページには誤りの箇所をまとめた正誤表のPDFが掲載されていました。
※裁判所ホームページ
「判所ウェブサイト及び最高裁民事・刑事判例集に掲載されている裁判例における記載の違いについて」
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/hanrei/index.html
たとえば「大学の自治」を「大学の目治」、「検察官」を検祭官」といった誤りはOCRの認識違いかなと推測します。また読点の位置の間違いや脱字は手入力のミスだと思います。
ただ複数の文にかかるような誤りがなかったのは、携わった方々がそれなりに十分注意をして作業をしたからでしょう。
人のすることに誤りは付きものとはいえ、判例集はその影響の大きさから完璧を求められるものです。
誤りの原因は裁判所でも調べていることでしょう。
外から推察すると、
(1)原本との引き合わせ作業がなかったか甘かったこと
(2)校了前に裁判官など専門家の素読み校正がなかったか甘かったこと
の2つが考えられます。
校正漏れは校正者個人に起因することもありますが、人員配置や制作工程の組み方次第でもミスが増えたり減ったりします。
出版社や編集プロダクションには校正ミスが起きないような工夫が蓄積されてきました。WEBコンテンツの制作現場や公的機関、事業会社のオウンドメディア制作部署にこうした技術や経験が移植できないものかなあと、このごろ増えたWEBの仕事をするたびに考えます。