9.「滝のおトイレ」ってどんなトイレ? ――トイレの名前からバリフリーを考える

 ずっと耳だけで聞いていたコトバについて、意味や当てる漢字を間違えていたということがたまにあります。

 例えば「滝のおトイレ」について。

 駅のトイレに行くと「右は女子トイレです。左は男子トイレです。その先は滝のおトイレです」といったアナウンスがよく流れています。

 「滝のおトイレって何だろう?」とそのたびに不思議に思っていました。それが「多機能トイレ」だったと気がついたのは、実はわりと最近です。

 こんな勘違いは自分だけかなと、おそるおそるネット検索をしてみたら、仲間が沢山いました。日本語の非ネイティブもネイティブも。

 でもどうして「滝のおトイレ」と聞いてしまったのでしょう。

 「多機能トイレ」をローマ字表記にしてみると「takinō toire」(※ō:訓令式ローマ字で長音を表す)になります。
 「滝のおトイレ」は「takino otoire」です。
 「多機能 takinō」の「ō」は長音ですが、「トイレ」の前では長音ではなく「oo」と「o」が二つ連続した音になり「滝のおトイレ」に聞こえるということでしょうか。 

 でも「多機能ベッド」や「多機能電話」では「多機能トイレ」のように「滝の/おベッド」や「滝の/お電話」に聞こえるという現象は起こりません。少なくとも私は「多機能電話」は「多機能/電話」と聞きます。

 そこで「多機能トイレ」と「多機能ベッド」を自分で発話して違いを比べてみました。
 「多機能トイレ」では、「ト」の前で唇が丸まります。しかし「多機能ベッド」の「べ」の前では唇は緩んでいます。

 つまり母音「o」を伴う「ト」の前では「多機能」の長音「ō」は「oo」になり、その間に意味の区切りが入り「滝の/おトイレ」と聞こえたのだと考えます。

 でもまだもやもやしています。「滝のおトイレ」ではなく初めから「多機能トイレ」と聞けた人たちがいるからです。

 おそらくその違いは認知の差ではないかと思います。
 非ネイティブの人が聞き間違えたのは「多機能トイレ」という言葉を学んでいないからかもしれません。ネイティブの聞き間違いからは、「多機能トイレ」に対する認知の個人差のほかに、一般に広く話したり書いたりされていない可能性が考えられます。

 音声案内は視覚障害の人などを対象としているので、文字やピクトグラムでわかる人が「滝のおトイレ」と聞こうが関係ないのかもしれません。でも公共の場で流れる音声案内は、誰が聞いても困惑しない、あいまいさを残さない名称の方がいいはずです。

 そもそも「多機能トイレ」ってどんなトイレなのでしょうか?
 「多機能トイレ」って誰でも知って使っている名称なのでしょうか?

 国土交通省のHPで調べると、「多機能トイレ」は「車いす使用者が利用できる広さや手すりなどに加えて、おむつ替えシート、ベビーチェアなどを備えて、車いす使用者だけでなく、高齢者、障害者、子ども連れなど多様な人が利用可能としたトイレのこと(注)」です。バリアフリー法によって設置基準が定められ、駅や建物に作られてきたもの。もともとは一定の建物や施設に車いす使用者用トイレの設置が義務付けられ、そこにおむつ替え用のベッドやオストメイト用の設備が設置されて、子連れや介護の必要な高齢者が介助者と一緒に入れたり、性別問わず使えたりできるよう多機能化してきました。「多目的トイレ」とか「みんなのトイレ」「優先トイレ」「ユニバーサルトイレ」とも呼ばれています。

 多機能化した一方で使う人が増えたため、障害のある人が待たされるといった問題も起き、平成23年度には多機能トイレの利用実態を調査し、今後のトイレ整備の方向性についてとりまとめた報告書が作成されています。そこでは一般の男女用トイレに手すりやベビーチェアを設けるなど、一般トイレを子連れや高齢者に配慮した設計にして多機能トイレの混雑を分散するなど提案されています。(注)

 今後は「多機能トイレ」はより必要とする人たちが利用しやすいものに、また一般の男女トイレも使いやすく進化していくことが期待できそうです。

 でもそうなったとき、「多機能トイレ」の名称はどうなるのでしょうか?
 そんな疑問が湧いていたところに名称の変更について以下の報道がありました。


 国土交通省は、建築物のバリアフリー設計指針を4年ぶりに改定する。   障害者ら向けのトイレは「多目的」「誰でも」といった名称を避け、利用対象を明確化するよう求める。
 (中略)
 改定案は総称を「バリアフリートイレ」とし、施設管理者にも、誰でも使えるような名称から見直すよう求めている。
 (以下略)

 (2021年2月4日 日本経済新聞 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG047XL0U1A200C2000000/ )


 駅の音声案内がどのように変わるか、楽しみに待ちましょう。

(注)国土交通省「多機能トイレへの利用集中の実態把握と今後の方向性について―多様な利用者に配慮したトイレの整備方策に関する調査研究―」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000016.html


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