【視聴感想】PIVOT シリコンバレーの経営者から学べること〜新規事業を成功させる「現場」と「経営」の役割を考えてみました
自分が日々見たり読んだり勉強する中で👍と思ったものを共有しつつ自分の復習材料として感想と考えたことを書いておくことにしました。
初回は、PIVOTの「シリコンバレーの経営者から学べること」について書きます。
この中で「変革を実現するためのリピット・ノスターモデル」というものが出てきます。欧米で有名なフレームワークだそうです。
「新規事業を作りたい」という話は世のどこの会社でもあると思います。放送局も広告収入が減る中で「放送外収入」を稼がないといけないということで既存事業とは違う新規事業を探して試行錯誤しています。文化放送でも僕が入社した26年前から折にふれ、新規事業の指令が出たり新規事業案募集が行われてきました。その際は、発案者がそのまま個人で進めたり、社内の既存部署が担当になったり、社内横断チームが作られたり、新たに部署が作られたり、あるいは製作委員会、匿名組合等にお金を出してみたり(投資)、よその会社と一緒にやったり(共同事業)、新しく会社を作ってみたり(新会社)と色々な形で行ってきました。しかし、新規事業は立ち上げては止めての繰り返しで、持続可能、成長可能な事業として現在まで残っているものはほぼないです。
それでは、なぜ上手くいかないのか(上手くいかなかったのか)。僕は自分が新人、中堅、幹部の時、それぞれの段階で、それまでの経験から漠然と理由・原因を認識していたのですが、上記番組の中でのプロダクトマネージャー曽根原春樹さんの話を聞いて腹落ち(納得、得心)しました。
曽根原さん曰く「経営が現場力任せでは部分最適の集合体となって失敗する」
「全体最適とはビジョンを通して全員が同じ方向を向いている状態」
「ビジョンを示すのは経営者しかできない」とのことでした(要約です)
会社は特に詳細は示さずに「自由な発想でやってほしい。それを会社も全力でサポートする」と言って新規事業をやらせたり、新規事業のタネを探させたりします。(※詳細を示さずに自由にやりなさいと言うのは、自由に任せた方が、よりやる気が引き出せるとか、その人間の柔軟な発想力に期待しているというのもあると思いますが、往々にして経営サイドに案がないので丸投げにしていることもあるかと思います。)そうすると指示された社員は、その人間なりに一生懸命試行錯誤します。(そういう役割には、優秀で実績や経験もある真面目な人間が指名されがちなので、そういう人は会社への忠誠心もあり、はなから無理だと諦めてサボるようなことはできないものです。)
ただ、基本的には、その直接担当に任命された人間以外は新規事業開発の方向を向いていない状況なので、その人間だけが必死に頑張っても、社内の協力は十分には得られないため、結局、一人相撲状態に陥っていき孤軍奮闘するもどこかで力尽きてプロジェクトもいつの間にかなし崩し的に消滅していきます。
言葉を選ばずにいうと、そういう会社(状況、環境)で会社に指名されて新規事業担当になるのは貧乏くじを引くのに近い部分があります。
本来であれば会社の未来を作る仕事なので、その担当者は「スター(会社の希望の星)」であり、社内全体がその人間を支えて成功に辿り着けるようにすべきと思うのですが、そうなっていません。(※個人の感想です)
表向きは、「大幅に権限を付与している」「一定程度、自由な裁量権がある」とされる「現場に任せる」という方針ですが、権限というのが社内のリソースを当該担当者の判断でなんでも自由に活用できるというところまで認めているわけでもなく、あくまでも、その個人、社内横断チーム、新規事業担当部署の「範囲内」での裁量、権限(つまり「部分最適」)なので、新規事業というゼロからイチを作る、基本的に成功確率が高くない難易度の高い挑戦においては、割と早く限界を迎えます。
ここで「現場力任せ」にして担当者をつぶさないように「全体最適」にするための方法、というか条件として、冒頭の「変革を実現する(=既存事業とは違う新規事業を作る)リピットノスターモデル」が出てきます。
「条件」は具体的には下記になります。
①ビジョン=(人を動かす)理想、イメージ(※経営の仕事)
②スキル=能力、ノウハウ(cf.社員以外だと生成AIの採用、外資コンサル起用)
③インセンティブ=ボーナス、給与、成功報酬、待遇(※経営の仕事)
④リソース=人手
⑤アクションプラン=何をどうやってやるか、ロードマップ
失敗した事業を見ると、確かに「ビジョン」がない、もしくは甘いことがまま見受けられます。単純に広告収入が減っているからその分をそれ以外の収入で補いたいぐらいでは「ビジョン」としては不十分です。その事業がそのサービスの受け手にとってどのような価値があるのか、たとえば、ラジオ番組でイベントを開催することやグッズを売るということにどういう価値があるのか示せないと、やっても失敗に終わります。
ビジョンを求めると、そんな言葉だけ飾っても仕方ない、具体策の提示のみで良いという意見も聞くのですが、個人的には具体策も必要だけど、指針としてビジョンも言えないようなプロジェクトは、最後まで人がついてこないし、ビジョンを示せば、それを形にするために必要なことが、逆に現場から出てくることもあるので、まず大掴みに何がしたいのか、示すことの方が大事ではと思ってます。
インセンティブは、放送局は基本年功序列なのと、局地的に成果があったからといって全体としての収益状況がかんばしくないと(赤字会社だと)、当該個人の待遇に即反映していくというのは、制度的にも社内感情的にも難しいです。なので基本的には使命感(これをやらないと会社や番組がつぶれる)やモチベーション(この仕事がやりたい、好き)に依存することになります。そして対価関係なく気持ちだけで他の人よりも時間・労力を費やすような人はサラリーマンでは割合は多くはないです。どうしても自分の損得の範囲で動きがちになります。(本来それでいいのですが)
リソースについては、恒常的にどの会社もどの部署も人不足、人材不足かと思います。人を採るとそのコストを将来にわたって会社は負担しないといけないので採用については慎重です。すでに在籍している人でどう仕事を回していくか再構築しようと試みますが、部署ごとの人の取り合い、囲い込み合いで、立場変わると主張も変わり、中々「全体最適」にできないように思います。
アクションプランについては、新規事業となると当然社内でやったことがないので、具体的にどうしたらいいかわかりません。内部にない知見は外部に求める必要があるので、そういう知見を持っていそうな会社にアポ取って話を聞きにいきます。1か所でOKというわけにもいかないので複数社の話を聞こうとするとかなり時間がかかります。また、そういう話を聞くのにも一定の知識、リテラシーがないと理解できないので、並行して色々勉強する必要もあります。そうやっていくと中々スムーズには進んでいかないので。新規事業以外に既存事業にも関わっている場合、だんだん、海のものとも山のものともわからないものに割ける時間に限界が出てきて、途中で新規事業の方を手放してしまいます。担当者を失ったプロジェクトは雲散霧消します。
こうやってみると、リピット・ノスターモデルで示される5つの要素の充足は、現場だけでは実現が難しく、「経営」が大事だとわかります。
私は新規事業を行うのに新会社を作るという方法を選びましたが、これは、その新規事業企画者がフルで「経営」を行える点が良かったんだなと思いました。(実際は、単純に社長カッコいいと思ったのと成果は出すから自由にわがままに仕事やりたい!みたいなやや稚拙な動機でしたが)
*文化放送エクステンドは「ラジオ(コンテンツ)の価値を拡張していく」という「新規事業」をするために設立されました。
既存のしがらみのない、新しい会社の社長だと「ビジョン」について、全体に関係する抽象的な信念や理念、プロジェクトごとの具体的な目的、イメージを社員に向けて自分の言葉で掲げることができ、「スキル」は必要な経験値、技能を持っている人を外部から採用することで会社全体として獲得していきました。また「インセンティブ」も親会社のルールに縛られないで、成果と期待値を踏まえて独自に個々の報酬設定をしています。「リソース」も自由に採用判断ができるので、適時、必要な人員を採用していくことができました。「アクションプラン」については「ラジオ」については当然ありますし(※やりたいプランがあったので、それをスムーズに進めるために会社にしたいと思ったのがそもそもでした)、「ゲーム」についてはゲーム事業部に中途採用した社員が経験も踏まえて立案して実行してくれました。
それによって、DGSのようなラジオの領域を飛び越えたコンテンツ展開だったりアドベンチャーゲーム事業などが、新規事業として一定程度「成功」と外部から評価してもらえるところまで持ってくることができたように思います。(今後も引き続き、油断しないで持続させつつ成長させるべく挑戦していく必要ありますが)
あと、個人的には、経験上、新規事業の成功のために「リピット・ノスターモデル」にもう一つ要素(条件)を加えると「運」(タイミング)も大事だと考えています。
(運は基本的にはコントロールできないので、フレームワークにはなじまないのかもしれません。ただ、エンタメでビジネスする人は、運も念頭に置きつつ、コントロールしようと試みているようにも思います。考えられる限りの努力を尽くしてラッキーを待つとか、シンプルにヒット祈願願掛けとか)
*ちなみに、前半は「経営コンサルティング」の話ですが、こちらもすごく腹落ちしました。
文化放送では外部のコンサルタントが入ることはあまりなかったと思いますが、
日本の企業が「挑戦の意思決定よりも失敗して評価が下がることを怖がる」「コストを削っていれば評価される」「現在の延長線上の意思決定しかしていない」「人への投資をしない」「優秀な外資コンサルに任せて安心してしまうことで、自分たちで考える力を失ってしまう」「変化に対してすごくゆっくり。下手したら歩みをとめてしまう」
みたいな話は、結構当てはまると思いました。外資のコンサルはいないけど、外部の有識者、知見のある会社の意見を鵜呑みにしたり、丸投げにすることで、いろいろな事を自らブラックボックス化させてしまっている傾向はあります。
あと、シリコンバレーのプロダクト開発では、「まずはプロダクトビジョンを作ることから始める」「計画的にリスクを冒す」「リスクを冒してない人間=できない人間と評価する」「資本市場のプレッシャーを受ける」「自分の得意技に依存しない」「専門用語を使わない」「物事を多面的にみる」
と言った話も、自分のこれまでの経験と照らし合わせて非常に腑に落ちるし、身につまされる話でした。いずれにしても、やはり上に責任を押し付けるという意味ではなくて、会社においては全ての意思決定の出発点である「経営」が大事だと思いました。経営者はビジネスは「挑戦の繰り返し」であるという前提を持ち、その緊張感のなかで、自分の経験値だけで雰囲気で経営判断をするのではなくて、リピット・ノスターモデルに限らず、歴史的に見出されてきたものや最新の研究結果をはなから机上の空論と馬鹿にせず、ビジネスに必要な知恵や知見、方法を外から積極的に取り込むことで自分自身のビジネス力を強くし、経営を磨いていく必要があると思いました。リスキリングを社員に求めつつ、経営(者)が勉強を怠っているというのも、うまくいってない会社のあるあるだと思います。
曽根原春樹さんは、経営トップではなくて、プロジェクトマネージャーですが、プロジェクトマネージャーが、こういう経営を踏まえて自分の業務領域を語る…というところも見習うべき部分だなと思いました。
*動画内で告知されている曽根原さんも執筆されている本
IT系(Linkedin)のプロジェクトマネージャーの経験からのお話ですが、全く違う業界(ラジオ)に置き換えても通用する、参考になるお話でした。
「現場の意思を尊重する、いちいち口出ししないで任せる」というのは一見、理解のある上司、任せてくれる会社で良いように見えますが、実際は経営としてすべきことを放棄している場合もあります。
映画「踊る大捜査線 THE MOVIE」(1998年)で「事件は「会議室」で起きてるんじゃない!「現場」で起きてるんだ!!」という有名なセリフ、決め台詞がありますが、会社の「問題」は「現場」ではなくて「会議室(経営)」で起きている‥というのもまた真ではないかと思います。結局、ダメージを負うのが常に現場と言うのは変わらないのですが。
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