デーモット・ウィーラン「私の母のためのエンパシー」 (Dermot Whelan, "Empathy for My Mother")
「やっぱりね。あいつら、私のものを取っていくんだよ」
私たちはあなたのソファの上に並んで座っている。あなたの手の上に私の手を重ねる。
「深呼吸しようか」私は言う。あなたは深呼吸しようとするけれど、呼吸は弱く浅い。
あなたの目は何かを求めて部屋をさまよう。あなたは手を握り締める。
「深呼吸を続けよう。そう。おなかをふくらませて」
あなたの視界には夕暮れが迫るように違和感が広がっている。それがどのような感覚か想像してみる。断片的には分かる。分かる気がするけれど、すぐに消え去っていく。
あなたはとても不安を感じている。そして私の心は張り裂ける。あなたに届かない。暴風の中で話しているかのよう。絶望が海のように広がる。最後に陸を見たのはいつだったか。
「ママのものは全部ここにあるから。脳がちゃんと動いていないから忘れてしまうだけなんだよ」その言葉は耳障りで子供っぽくて残酷だ。
あなたは一瞬、穏やかにすべてを受け入れたかのような顔をする。けれど次の瞬間には不安が戻る。あなたの目はまたさまよい呼吸は早まる。
「さあ深呼吸しようか。ゆっくり、深く息をして、おなかをふくらませよう。ゆっくり息を出して。そう、それでいい」
あなたの手は暖かい。
あまりに多くが消えていった。あまりに多くが失われていった。あまりに多くが溶けていった。
けれどあなたの呼吸はまだここにある。それがすべてを覚えている。
※訳者注:デーモット・ウィーランはコメディアンでラジオDJ。
※訳者注:デーモット・ウィーランの認知症のお母さんのことを書いた詩。
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