『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』(2018年の映画)
5億点。2021年ベストムービー候補。AmazonPrimeレンタルで鑑賞。
あらすじ
カナダの田舎町で静かに暮らす老人・カルヴィンの元にカナダ警察と米国FBIが訪れる。彼らは、ビッグフットが出現したことを説明し、それを老人にハントして欲しいと依頼をする。
「それが俺に何の関係が?」
「ビッグフットは厄介な伝染病を媒介していて何人も死んでいる。軍隊は伝染病で近づけないのでビッグフットが森を出そうになったら核を投下する予定だ。伝染病への抗体を持ち、かつてヒトラーを殺したを貴方でなければビッグフットを殺すことはできない。世界は滅亡する!!」
「」
めちゃくちゃ面白かった
ふざけた題名に見えるけど「かつて世界を救おうとした老人が再び世界を救うために立ち上がる」姿を描くシリアスな物語。カルヴァンには、かつて魔王ヒトラーを殺したが戦争を止めることができなかったという苦悩があり、ビッグフットのハントには消極的だ。俺ひとりがどれだけ頑張っても歴史を変えることなんてできない、そのような諦念と共に何十年も孤独に過ごしてきた男なのだ。
静かだが誠実なアクション
本作では「殺す前」と「殺した後」の老人の姿を主眼に置いているため、ハードなアクションは少ない。それらはあくまで控えめでクールに描写されるに留まる。
老人を狙うゴロツキを一瞬にして叩きのめす「舐めてた老人がヒトラーを殺した男」シークエンスは素晴らしい。カルヴァンに越えてはならない一線が存在することを強調している。近代装備を拒否してナイフとライフルだけを手にする戦闘準備シークエンスや中盤のビッグフット狙撃のジャンプカットは完璧だし、格闘シーンや友情の火葬シーンも素晴らしい。
予告編ではSE盛り盛りですが、非常に静かな作品です。ご安心ください。
強さの畳みかけが上手すぎる
カルヴァンの自宅を訪れるFBI。
彼らはカナダ周辺での死亡事故を語る。
死亡者は複数名に及びその被害地域は拡大している。
原因は伝染病を運ぶ妖怪ビッグフットなのだ!
伝染病は致死率100%!!
ゆえに米軍は核兵器の投下を決定した!
怪物が包囲を抜ければ北米大陸は崩壊!
核兵器が投下されれば周辺一帯は壊滅!
つまり、伝染病への抗体を持つ貴方が、ビッグフットを殺さなければ世界は滅亡する!
何しろ貴方は、ヒトラーをいや何人ものヒトラーを殺しつづけた神話兵士。
貴方ならビッグフットを殺すことができる! 当然、殺してくれますよね?
この調子である。ビッグフットのスケールも大きいが、老人の伝説がもっとすごい。伝説と伝承の相互作用で全世界滅亡のカウントダウンの引き金が引かれてしまった。パルプ的クライマックスの乗算が上手すぎる。
とはいえ、老人は魔王を倒したのに世界を救えなかった勇者失格者である。諦念の果てに世界の滅亡を許容し、ビッグフットをハントすることを拒絶するのである。
クライマックスは狩りではない。
それでも物語は題名通りに進行する。
つまり、カルヴァンはヒトラーを殺し、その後ビッグフットも殺す。
老人は、ビッグフットとどのように対峙し、どのような結末を迎えるのか。非常に静かに、丁寧に綴られていく姿を見守ってほしい。
最高なのは、友人を科学的に弄ばれないように火葬するシーンです。
『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』
非常に穏やかに楽しめる、おすすめの作品です。