【映画感想】札幌国際短編映画祭|債務者/結局、私たちはみんな音楽だ/ハート・オブ・ストーン
🎦札幌国際短編映画祭
どれかのプログラムは見たいな~と思っていたのですが、一覧を見ていちばん気になったI-A(インターナショナル・プログラム/アートとドラマ)のプログラムを見てきました!
チェックしていて気になったのは「債務者 DEBTORS」(アンジェイ・ダニス)と「ハート・オブ・ストーン HEARTS OF STONE」(トム・ヴァン・アバルマエト)。
とくに「債務者」はポーランド映画ということで、本当に見たくて今回のお目当てでした。
私は元々ポーランドが好きで、以前札幌で開催されていたポーランド映画祭にも観賞しに行ったことがあるのですが、ポーランド映画ってなかなか見る機会がなくてこういうイベントでもないと見れないんですよね……
プログラムであらすじを確認したくらいで全然前情報を入れていなかったのですが、驚いたことにプログラム終了後、気になっていた「債務者」と「ハート・オブ・ストーン」それぞれの監督が来場していて、登壇・軽いトークイベントがありました。
ピンポイントであまりにもびっくりすぎる。
退場時、一度壇上からはけたアンジェイ監督がまた後ろから入場してくるところに出くわしたので、思わず声をかけて「I like your film! Dziękuję🙏 Sorry, thank-you~✋💦」と言い捨ててくる不審者になってしまいました。
ちょっとびっくりしてましたがアンジェイ監督も「Dziękuję!」と返してくれたので、多分通じてはいるはず……
せっかく日本にまで来てくれてるんだから、感謝の意は伝えたい!と思って……言わない感想より言う感想だと自分に言い聞かせておきます。言えてよかったはず。
また日本に来てくれるといいなあ。
🎦印象に残った作品の感想など
⚠️ネタバレありますので、これから見る予定がある方はお気をつけください!
11/1~11/17にはオンライン上映もあるそうなので、気になっている方はぜひどうぞ。
🎬️債務者 DEBTORS(アンジェイ・ダニス Andrzej Danis)
ポーランドの学生監督作品。
養育費の不払いをテーマにしたドキュメンタリーに近い作品でした。
おおまかに、①監督が高校生に「自分(アンジェイ監督)のことを養育費の不払いに応じない人間だと思って、説得するように台詞を読んでみて」とオーディションをする場面、②自分の母親に離婚当時の心境をインタビューする場面、③実際に養育費の問題を抱えている人やオーディションの参加者に養育費の不払いについてどう思うかインタビューする場面、④高校生と母親を役者として法廷劇を撮影する場面の4つで構成されています。
インタビューの中では、実の親に「自分の子供ではない」「縁が切れて清々した」と言われ、それがどれだけ子供の心を傷つけるかということを語っている人もいました。
自分が傷ついていることを示すために途中で支払いの受け取りを拒否し、信心深い父親に向かって「罪を犯した。地獄に落ちろ」と言ってやったと話す男性がいて、カトリック色が強いポーランドらしいエピソードだなと思うと同時に、信心深くても子供に対して不当な扱いを行うことがあるのかと矛盾を感じたりもしました。
母親へのインタビューで、離婚してすぐのある日、椅子と詩集を買った、というエピソードがありました。
「今目に入ったから思い出した」という言葉で、家で撮っているんだな、いつも近くに飾ってあるんだな、というのが分かるし、朗読を初めてすぐに「あの頃を思い出してしまう」と泣いていたのが心に迫る感じで印象的でした。
"素敵な家を作る"という内容の詩だったのですが、幼い子供を持って一人で家を支えていかなければならない親の心に、詩はよく響いただろうなと思ったし、「少しは成功したし、失敗したこともあった」と話す母親の言葉がまたよかったです。
弁護人や裁判官の役に高校生を当て、母親が養育費の内訳について陳述する場面の歪さもなんだかよかった。
だって母親はすでに成長した監督の母親なんだから、「語学教室代」や「スイミング代」って今要求するものじゃない。
あくまでも過去の養育費について、あの時起こさなかった裁判(作品中で語られますが、監督の母親は裁判を起こすことを考えなかったそうです)のリベンジをさせることで、親とその子供に対しての一種のセラピーめいているなと感じました。
作品は母親が台詞を言い終えたあと、ビデオカメラの中で「だめね、次はもっと上手くやって(演じて)みせるわ」と言い小休憩に入る場面で終わるのですが、その言い方が朗らかで、前向きな感じがして終わるのがいいなと思いました。
現実を取り巻く問題はたくさんあるし、辛い思いをしている人がいることは変わらないけど、みんな向き合って生きているんだなあと思って。
個人的には、ポーランド語が聞けて嬉しかったです。
日本語字幕と英語字幕が同時についているのも嬉しいし。
アンジェイ監督にはこれからも頑張って欲しいです。
あとワイダ監督と同じお名前ですねって死ぬほど言われてそう。
🎬️結局、私たちはみんな音楽だ IN THE END WE'RE ALL MUSIC(カタリーナ・シュネケンビュール Katharina Schnekenbühl)
話の筋はあるようであんまりない。
老女のフリーダ、実業家のキラ、父親と一緒にプールに来た8歳のリロが、プールで過ごす時間の話。
ドイツの学生監督作品です。
フリーダがプールにやって来て、入場券を買おうとするリロと目が合う。
キラは仕事相手と電話をしながら着替えている最中、ロッカーの鍵を上手く手首につけられないフリーダを見る。
泳ぐキラを、リロはレーンを分けるロープに掴まって眺めている。
3人はお互いを認識するけど、とくに会話を交わさない。居合わせただけの関係。
けど、フリーダは手首にロッカーの鍵をつけられない、キラは退勤後なのに仕事先に呼び出されている、リロは浮き輪なしで泳げない、というモヤモヤを抱えている。
とくにキラは、フリーダが手首にロッカーの鍵をつけられないことを、リロが泳げないことを知ることができるシーンがあって、それについてキラの心情は語られないのだけど、絶対に心の片隅にひっかかっているんだろうな、と感じさせる。
反対に、フリーダの感情は少なくとも私にはまったく読み解けない。
フリーダはキラとリロを視認するけど、それだけで、自分の世界に没頭しているように見える。
フリーダはロッカーの鍵を手首につけられないけど、それを荷物と一緒にプールの脇に置いておく。
シャワーの栓を閉めずにシャワー室を出ていくけど、そのシャワーはその後入ってきた他の利用客にも止められることがない。
ただフリーダは、飛び込み台を見つめ、ぽてぽてと飛び込み台に向かっていく。
リロが浮き輪なしで泳ごうとしたことをきっかけに、キラは「忘れ物よ」とリロに声をかけ、浮き輪を腕につけて見せる。
そのとき、キラとリロを含めたプールの利用客全員の目が飛び込み台に吸い寄せられる。
一番高い飛び込み台の上に、フリーダがいる。
フリーダはそのままピョンと飛び込み台からジャンプする。
足からまっすぐプールに落ちていく。
ロッカーの鍵も、シャワーも、飛び込みも、フリーダの「何もしない」ことの自由さを表しているように感じました。
良い意味で力が抜けているというか、泳げないから帰りたいリロ、多分息抜きに来たのに仕事に追われているキラのストレスを解放するような気持ちよさがあって、プールから上がったフリーダのすっきりした顔と、なぜか突然全員でフリーダを讃えるようにコーラスし出す利用客の気楽な感じも、スタッフロールに合わせて様々な(体型、水着を含む)スタイルの出演者の立ち姿のショットが連続するのも、すごく抜け感があって好きでした。
キラが最後に「やっぱり今日は行けません」と仕事先に電話しているのが全てだと思う。
自然体で行こうぜっていうメッセージだと受け取りました。
本当に、私はこういう話が好きだ……
映像も良いんですよね、ドイツにはあんなにでかい市民プール(?)があるのかな。
🎬️ハート・オブ・ストーン HEARTS OF STONE(トム・ヴァン・アバルマエト Tom van Avermaet)
今回のプログラムの中では一番ストーリーが説明しやすい!
銅像になりきるパフォーマンスをしているストリートアーティストのポーラが、石像のアガサと恋に落ちるローファンタジー百合映画です。
低俗な紹介の仕方をしてしまい申し訳ない。
最優秀美術賞を取った、ベルギーの作品です。
でも多分言語は英語だった……はず。
とにかく石像のアガサちゃんが可愛い。
公園の整備によってアガサちゃんは撤去されそうになっているんですが、ポーラのキスで力を得た(?)アガサちゃんは動き出し、彫像パフォーマーの集いの夜会へポーラに会いに出掛けていくというシンデレラみたいな展開になります。
パキパキと石の体がほぐれていくように、指先から腕、肩と少しずつ体が動き出す表現が本当に綺麗。
歩くたびに足音がゴトンゴトンと重たいのも良い。
夜会に出掛けたアガサちゃんがポーラを探してうろうろしているのに気付いて、ポーラが「アガサね? 本当にそっくり! 右目の上のヒビまである!」とアガサの再現アーティストだと思って話しかけるのですが、アガサが「ヒビ!?」と驚いて右目の上を触るのが本当に可愛い。
触ってすぐ石の感触にアガサ本人だと気付くのですが、ポーラはすぐに受け入れます。順応早……
「みんなが何を見ているのか気になってたの」とスマホに興味津々のアガサも可愛い。
「驚いたことにみんな持ってるのよ」「隣にいる人と話すより、遠く離れた大勢と話す方が楽なことがあるの」というポーラの台詞がなんとなく今っぽくて、言われてみれば不思議だなあと思いました。
アガサのモデルになったのは高級娼婦でしたが、製作者はアガサに「君を見たらきっと彼女は僕を好きになる」と言っていたそうです。
結局好きにはなってくれなかったそうですが、アガサが「私ばかり愛されて悪い気がして」と言う台詞がなんとなく好きでした。
撤去される石像も愛されている。
あと、「夜が明けるときの太陽の光は冷えた私を温めてくれる」「でも鳩は嫌い」「雨は好き。涙を流せるって素敵ね」という石像っぽい台詞も好きだった。
終始台詞回しが綺麗で、小説読んでるみたいな穏やかさがありました。
夜会で踊っている最中にアガサの期限が来てしまい、再び体が元のポーズに固まっていってしまうアガサを抱えてポーラは海辺までやって来ます。
何度キスをしても動かないアガサにポーラは絶望して、そのまま海に身を投げてしまうのか……と思いきや、泣いて顔をしわくちゃにしたアガサが再び動き出し、ポーラと抱き合ってキスをします。
そのまま夜が明け、スマホを向ける大勢の人々の前には抱き合ったまま一つの石像と化したポーラとアガサがいたのでした……
なんだそれ、お伽噺か。
石像をきっかけに二人の男女が出会いいい感じに自己紹介してるのも、なんか幸運の石像になったみたいじゃないか。
二人にとってはハッピーエンド。見方によってはメリーバッドエンド。でもなんかずっと可愛くてほのかな癒しがあって優しい物語でした。
あと本筋にはまったく関係ないのですが、彫像アーティストの夜会の場面で、エキストラの皆さんも彫像の格好をしているのですが、1組全然彫像に見えない白と青の衣裳を着たコンビが画面の目立つ位置にい続けてるのが絶妙にゆるく、ちょっとリアルでいいなと思いました。
ダンスの中に「彫像のように止まる」という振り付けが盛り込まれていて、3回くらい全員停止する場面があるのですが、そのコンビは止まるのも遅れていたりして可愛かった。
全員が完璧でない方が、本当にこういうイベントがあるみたいな気がする。
🎦総括
札幌国際短編映画祭を見に行ったのは初めてでしたが、とても楽しかったです!
しかし朝イチのプログラムでギリギリに向かって時間がない中、JCB決済できない&Suica非対応で焦り、大慌てで5分前くらいに入場、気持ちが落ち着かないまま見始めてしまったのが心残りです。
急遽現金決済で対応してくださったスタッフさんに感謝……朝起きられるか不安だったのと、1プログラム券の値段が前売りと当日で変わらなかったからいいやと思ってのこのこ行ってしまった私が悪かったです。申し訳ない。強い意志を持ってチケット買っておくべきでした。
短編とはいえどれも見応えがあって、1500円で何本も見れて監督トークまで聞けちゃうの大変お得だなと思いました。
もう今週は行く予定がないのですが、来年とかまた行くことがあったら1日通しで見てもいいかもしれないな~と思いました。
このあと、ついでだったので突発で「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」も見に行きました。
昨日は「chime」も見たし、思いがけず映画ウィークになってます。
↓「chime」の感想noteです
映画、楽しい~~
そろそろ寒くなってきて趣味のお散歩が辛くなってくるので、映画たくさん見に行こうと思います!
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