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読書感想「火星の人」

久々に読んだので感想書いておきます。
おそらく読むのは3年ぶり3回目くらいだと思われる。改めて読んでみると、内容は相当曖昧にしか覚えておらず、初めて読むような感覚で楽しかった。

全体のあらすじはなんとなく覚えていて、あぁこんなだった。ここでまた困難が起きるんだよね!!みたいな感覚。ただ、細部の描写やラスト部分はほぼ記憶から運よく抜け落ちていて最後まですごく楽しく読めました。

どこが面白いのか?

これは色々な人が散々言っていると思いますが、あらためて。ちなみに自分は他の人の読書感想はあまり読まないので、実際どの程度「火星の人」の面白さに言及している人がいるのかは分かりません。最近、ゆる言語学ラジオのどこかの回を聴いていた時に話題に挙がったので、確かに面白い本だった!と思い出して読み直しをした次第。

ということで、

ポイントその1 軽妙な文体

主人公ワトニー(火星に取り残されるNASAの宇宙飛行士)の生存ログとして一人称で書かれた文章が本文のほぼ8~9割を占めてます。残りはトラブルの描写だったり地球側の描写でこちらは対照的な3人称と群像劇。とはいえ、あくまで主体は主人公の活動ログ。これが軽快で軽妙で読んでいてニヤっとさせてくる感じ。「日本語に訳された英語のSF文体」という文章のモデルがある(と僕は思っている)のですが、それよりはだいぶ現代の日本語感覚に近い訳がされてます。実際、NASAでメンバーに選ばれる人材ならこういうタフネスとポジティブ、困難を乗り越えるアイデアを出せるイメージがあるので、終始良い意味で期待を裏切らない感じ。

ポイントその2 適度なリアリティ

SFの基本とも言えるが、リアリティの度合いが他のSFよりも現代人が義務教育~高校レベルで勉強する科学・化学知識で理解が及ぶギリギリの線を攻めてきます。水素から水を作る。逆に水から水素を作る…など。なんとなく理屈は分かるから止まったり読み返したりせずに読める。これが、皆がまとまった時間の取れない現代でこの本が売れた理由の一つかもしれないな、と思う。

ポイントその3 ポジティブ

まずは物語がポジティブ。
圧倒的に、全般的にポジティブ。主人公の生還を真正面から邪魔する人物が出てこない。あくまで危機が起きるのは自然現象や主人公のミスだったりを原因にしていて、人同士の醜い争いの描写がない。人間同士は最後までずっと連帯している。実際こうはいかんだろ、と思う部分は多々あるものの「そんなのいいや!」と感じてしまうポジティブな勢いがある。

そして、困難に対処するワトニーの姿勢がポジティブ。

ひとつずつ準備していこう。まずは酸素から

3章 ログエントリー:ソル30

困難を認識したあと、一度騒いだりして発散したあとにスッと冷静になるんですよ。で、一つずつ対処する。対処してる間は山積みの他の課題はサッパリ忘れる。切り替えの速さというより、訓練されたメンタルコントロールな感じなんですよ。優秀だけど愛着が持てる人としてのポジティブな描き方が気持ちいい。これがまた終始気持ちいい。

さらに付け加えると、ポジティブな主人公を見守る側がむしろ悲壮感を持ってる。地球で安全に生きてる側と心理的な立場がよく逆転する。この感じも良いです。

補足

作中で主人公が説明しているし、小説としては当たり前なんですが、ストーリーありきの組み立ての上に設定を持ってきている(おそらく全体の着想まではリアリティを基軸にしてたが書き進める中で早々に逆転したものかと)ので、一定の注意と寛容さを持って読むのがいいと思います。

以上

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