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隔離5日目 二輪整然・カード紛失・兵隊村
依然として隔離期間中だが、きょうも午前中は外に出た。本当は防疫ホテルから目と鼻の先にある超高層ビル「台北101」にのぼってみたい。ただ自主防疫中の入境者は「混み合う場所には出かけてはいけない」(by中央流行疫情指揮中心)ので、しょうがない、「屋内のメジャー観光地NG」という条件のもと、市街地を一望できるという象山に向かった。
二輪整然
街歩きしていて驚かされるのが、道端に停めてある二輪車の、そのあまりに整然とした様子だ。等間隔で、まっすぐで、本当にぴたっと並んでいる。
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↑思わず動画も撮った。すべてのバイクが、道路の白線の内側に見事に収容されきっている。逆に、駐車場の出入り口など駐停車が禁じられている場所は、きれいに空けてある。
アジアの国々、特に1人あたりGDPがまだそこまで高くなくて四輪車が普及していない国では、「二輪が市民の足」っていうのはよくある話。勝手なイメージだが、そういう国では、二輪というのは社会の乱雑さやごちゃごちゃ感、一方でそうであるがゆえの躍動感を象徴する存在だと思っていた。
社会人になってから訪れた都市だけでも、少なくともニューデリー、ハノイ、マニラあたりはごちゃごちゃだった気がする。なんだ、この違いは、すごいぞ台湾。ちなみに12年前に台北を訪れたときに自分が撮っていた写真を探したら、この段階ですでに整然としていた。
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このときは何故この場所でシャッターを押したんだろう。このときもバイクの並ぶ様子の美しさに惹かれたのだろうか。ただ、このころはまだ学生でアジア経験値がいまより低かったから、この二輪車の並びを「美しい」と感じられていない可能性がある。
カード紛失
象山のふもとには、ホテルから徒歩30分足らずで到着した。山といっても海抜181メートルらしいが、それでも階段を下から見上げると結構な勾配だ。台北の気温は35度超。マスクをしているのでさらに暑い、というか熱い(ところで台北の人々はみんな不織布マスクな気がする。布マスクをほとんど見かけない)。
階段は結構きついけれど、ところどころ観光客を応援する標語みたいなのがあって、しかもいちいち格調高い漢文調(←そりゃそうだ)かつ説教くさいのが面白い。
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ほほえむ女性は美しい女性だ
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ゴールに達するより、途中で立ち止まるほうが辛い
おじいちゃんおばあちゃんも結構歩いている。ふもとから歩いて30分弱、頂上近辺にある「六巨岩」のあたりでも、わいわいおしゃべりする姿を見かけた。
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で、六巨岩からもう2〜3分だけ歩いた展望台でiPhoneを手に取ったとき、気づいた。保護ケースのポケットにはさんでいたクレジットカードがなくなっている……。
東京にいるときはクレジットカード2枚+オフィスの入室カードの合計3枚をはさんでいたのが、海外渡航にあたって楽天カード1枚だけを収容するようになって、ちょっとスカスカに。落ちそうだなあ、どうにかしないとなあと思っていた矢先にだった。ばか。
ズボンのポケットから携帯を取り出したときにするっと落ちたのかも、と思い、とりあえずこの象山のふもとまでは目を皿にしてカードを探し探し降りることに。
ない。ホテルまで往路と同じ道を歩いて探しながら帰るか? 一瞬そうも考えたが、面倒になってやめた。楽天の紛失窓口に電話してカードを止めてもらう。
不正利用はなかったようで、ひと安心。これも安全な台湾だったからなのだろうか。他のクレジットカードも持って来ているので、ただちに困ることはないけれど、それにしても渡航1週間たらずで(到着日+最初3日間は外出していないので、実際には渡航2日目みたいなもんだ)こんな大馬鹿をしでかすとは。
兵隊村
きょうは象山のほかにもう1カ所、ホテル近くの「四四南村」というスポットにも立ち寄った。レトロな雰囲気の家屋にカフェや雑貨屋さんが入居していて、なにも知らなければよくある「リノベおしゃれ観光地」くらいに思ってスルーしてたかも。思わず立ち止まったのは「眷村」と書かれた看板が目に止まったからだ。
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ちょうど昨晩読んでいた新井一二三『台湾物語』に、この眷村(けんそん)が紹介されていた。すこしだけ引用すると、
日本の敗戦時、台湾の人口は600万前後。そこに150万もの外省人が中国から渡って来た。反対に、台湾から引き揚げて行った日本人は軍民合わせて50万弱。その家屋や宿舎をすべて接収しても、まだ100万人分の住居が不足していた。国民党政府が建設した簡便な住宅もあり、特に軍関係者の多くは「眷村(兵隊家族村)」と呼ばれた区画内で、一般の台湾社会から隔絶された集団生活を営んだ
眷族という言葉は日本語にもあるが、中国語では主として軍人の家族を指す。眷村は軍人の家族が集まって住んだ場所のことである。ただし軍人といっても将軍家族は大きな屋敷に住んだので、眷村に住むのは下級兵士の家族。したがって軍人村というよりは兵隊村、それも兵隊家族村と言った方が、正しいニュアンスを伝えられると思う。
台北で最も古い眷村とされる四四南村の場合、山東省青島市にあった四四兵工廠という武器の製造や修理を担う工場の関係者が住人だった。四四兵工廠の労働者やその家族が、台湾到着後に割り当てられたのは、もと日本陸軍の倉庫だった建物である。雨露をしのぐ屋根と壁こそあれ、元来倉庫だったので台所や便所はなく、住民たちは共同炊事場と公衆便所を使わなければならなかった。
要するに終戦後に国民党vs共産党のごたごたのなかで大陸から流れてきた人々が暮らした、やや極端な言い方をすればスラムみたいな街区の跡地ということか(さすがにスラムは極端すぎるか)。いずれにせよ台湾人でもない、それでいて中国人でもない、微妙な立ち位置の人々が、長く暮らした場所ということだ。
興味深いのは、ちょうど小学校低学年くらいの子たちが遠足でこの場所を訪れていたこと。まだまだ勉強不足だが、台湾って、政治的にざっくり分けると、
▼国民党:主に「いつかは中国と統一を果たしたい」と考える外省人が支持(外省人というのは主に戦後に大陸からやってきた人々)
▼民進党:主に「台湾は台湾として独立すべき」と考える本省人が支持(本省人というのは主に明朝・清朝くらいに大陸からやってきた人々)
という二大陣営があって、まだいろいろと論争が続いているわけでしょう?
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引率の先生は中国語でいろいろと説明していたみたいだったけれど、子どもたちのなかには本省人ルーツの子も外省人ルーツの子もいるわけで、こういう、やや政治・歴史的にいろんな受け止め方のできる施設に足を運んだとき、台湾の子たちって一体どのような教育を受けるんだろう。
それとも、こういうふうにおしゃれスポットに変わったいま、あんまりそういうことは気にしないのか。本省人vs外省人という二項対立も、戦後80年が近づくいま、もう古いのかもしれないし。
引率の先生の話す中国語が聞き取れたら、もうちょっと面白い発見もあったのかもしれない。残念ながらまだそんな実力はないのであった。勉強しなきゃ。
【2022/08/26の日記】
象山の帰りに喉が渇いてセブンイレブンに寄ってスポーツドリンクを買った。会計のときに店員さんに何か言われたが、聞き取れない。きのうのスーパーでも「会员吗?」と聞かれた気もするけれど、自信がない。
午後、部屋では北京の大学のオンライン留学で勉強したことの総復習。
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今年2月以降はこうやって新出単語やら文法のポイントやらを逐一ノートにまとめて音読して記憶してたんだけれど、果たして繁体字で授業を受けるようになったら、この手法は通用するんだろうか。
日本にいるときに人づてで紹介してもらった台南にいる学生さんに「台北→台南はどうやって移動するのがおすすめ?」と質問する。新幹線一択だと思っていたけれど、新幹線の台南駅は街の中心部からかなり離れているらしい。迷う。
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