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三木三奈「アイスネルワイゼン」
単行本化されているが、『文學界』2023年10月号掲載分で読んだ。
できるだけ内容には触れないように書いたつもりだが、本編を読んでからの方がいいと思う。
フリーのピアノ講師である主人公と、周りの人々との摩擦を描く。
体感で8割ほどは会話で進行し、電話(スマホ)とLINEも欠かせない要素として機能する。
だんだんと主人公の状況が見えてくるにつれ、隠しきれない苛立ちや焦燥感が伝わってくる。
心の底では他人に興味がないのか、突然に距離感がおかしくなったりもする。
自分の気持ち、とりわけ怒りをうまく表現できないからかもしれない。
それもこれも、今の自分自身を認めるのが恐い、直視できないからではないか。
でも、クリスマス・プレゼントに欲しいものを書いた紙を一度は胸の内にしまえたように、本当は気遣いもできる人なのだと思う。
なのに、自らを虐め傷つける悪い欲望に負けてしまうのはなぜか。
それは、あまりにも悲しいことがあったからだろう。
「アイスネルワイゼン」を作曲した旧友に、自分は完全に音楽的才能で負けていた。
そこには、妬みもあったはず。
本来なら、音楽で生きていくべきは半端な自分ではなく友人の方だったのに、という後ろめたさも。
これは鎮魂の物語なのだ。私はそう解釈した。
だからこそ、この題名なのだろう。
同時に、主人公にとっては夢の挫折でもある。
一つの終わり。
でもね、とも思う。
泣くほどに感情が生きているならば、この先はきっと大丈夫だよ。
言いたくないけど私の方がよっぽど酷い面もあるし、もっと酷い人たちもいっぱい見てきた。
だから心配するなよ、と主人公に声をかけてあげたくなった。
今作は第170回芥川賞候補作に選ばれたという。
そしてまたもやラジオ番組「BOOK READING CLUB」で紹介されていて手に取ったのだった。