河童60
グサッ、グサッと娘が腕を振り下ろす度に音がする。
先程まで昆虫のように苦しみもがいていた生き物は、事が切れ、ただ、生臭い物になっていた。
それでもまだ、その頭を押さえつけ腕を下ろす。
下ろす腕は勢いは消え、カラクリで動いているだけのように、淡々と打ちおろしている。
地獄絵図
大きな蛙を無造作に解体しているように見える。
生き物への恐怖より、娘の行いの気持ち悪さに、康介は吐くものがなくなった胃の腑から、その奥の贓物を喉につまらせる。
もう、動く気になれない目も開けたくない。
このまま事切れてもいい。耳にはいるのは、グサリの音からクチャッと生臭いものがよれる音だった。
25
微かな風の音。
ほかの音もする。
坊主は軋む首を少し動かし音に耳を傾ける。
ゆるりと目を開ける。
まぶたは重く体液で下まぶたにくっついているようだ。
目を開けて、軋む首を動かし、音のほうに目を向ける。
目に見えるのは、木の枝と動きの速い、ちぎれた灰色の雲と、その合間から見えるしらみ始めた、薄あおい空だった。
「朝を迎えたか。・・泣き声か」
薄あおい空、先急ぐ灰色のちぎれ雲。その雲に押される泣き声が漂っている。
坊主は音の主を探して身体を動かしてみた。
「痛い」
あちらこちらと痛い。
見える範囲を見回してみる。
ぼやけた視界で人の姿が見える。
「ひと・・。」
「ううっ」
痛みをこらえながら身を起こしてみる。
瞬きをして視点を合わせてみる。
「女・・こども」
離れた場所に女とこども。
こどもは九つか・・もう少し上か。
六人、八人か。女だけで、それぐらいの数が見える
何か不安げに肩よせながらこちらを視ているようだ。
「なんだ」
女たちがここに居る意味を考えながら起き上がり、なんとか地べたに座り込む。
「う・・・様子を見に来たのか、助かった」
安心のため息をつく坊主。
ため息と共に痛みが表に出てくる。
痛みに身体が倒れかけ、支えるために出した腕の為にさらに痛みが身体を襲う。
耐えられずにそのまま倒れ、さらに痛みが増す。
「ううっ」
また、身体を起こそうとする。
痛む腕で身体を起こして、見える辺りの情景に「アッ」驚きの声をあげる。
痛みを少し麻痺させる光景。
ゆるりと身体を起こして辺りを見つめる。
「しっ、死人」
いくつもの死体が横たわっている。
転がる死体。
辺りには鎌や鍬、鉈などの得物が落ちている。
「なに」
何が起きているのか、
何があったのか。
坊主の脳裏には暗いときの事が浮かぶ。
暗闇の出来事、死体のある場所、自分が背にしたであろう大樹。
自分が倒れている場所。
社の位置。
暗いときには見えなかった辺りの様子と自分の動線とが頭のなかで綺麗に繋がった。
自分とか周りの友人知人とか、楽しめるように使います。何ができるかなぁー!(^^)!