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なぜ女子学院はところてんの原材料を聞くのか(後編)

ここまで食、部屋、自販機、ゴミ収集と身近にあるものを題材にした問題を紹介し、学校の狙いを推測する手がかりを探ってきました。これらはいずれも身近にありますが、アンテナを張らないと気付かないところを問題にしています。そしてこうした問題を解くためのアンテナを持つことは、世の中に役立つのだということを暗に示しているのだと思います。
 そこで、次に再び食をテーマに、今度は現代社会に関わる問題を紹介し、学校側の狙いを読み取りたいと思います。

3,食に関する問題は現代社会に通じる


(1)ご当地グルメの役割って?


 ところで、みなさんは何を楽しみに旅行に行きますか。観光の名所を回ることも、安らぎを得るためという人もいるでしょう。中にはおいしいものを食べるためという人もいるでしょう。まずはそれに関する問題から紹介します。

問25 最近では、「ご当地グルメ」とよばれる地域の料理が数多く見られます。下の説明文は、「郷土料理」と「ご当地グルメ」の違いについて述べています。以下の例を参考にして、説明文の【   】をうめて文を完成させなさい。

郷土料理の例
・山形の芋煮    ・秋田のきりたんぽ鍋  ・下関のふぐの刺身

ご当地グルメの例
・富士宮やきそば  ・宇都宮餃子      ・富山ブラックラーメン

説明文 郷土料理がその地域で伝統的に食べられてきたものであるのに対し、ご当地グルメは【   】を目的として、地域で料理を新しく開発したり、昔からある料理を再発見したものである。

(麻布中 2021年)

 郷土料理とご当地グルメの違いは何でしょう。問題に載っている具体的な料理を見るとご当地グルメの方が普段から食べる機会が多いと思います。それがご当地グルメを生んだ目的とも言えるかもしれません。
 以前ほどご当地グルメの話題が上がることはないですが、身近にあるご当地グルメを調べてみると面白いと思います。

(2)変わる日本の食生活とその課題


 戦後から75年以上経ち、食生活も様変わりしました。食が多様化する一方、古くから食べられているものへの意識が薄くなっています。これはどちらも取ることが難しいためやむを得ないことではあります。ですが、日本の歴史を見る上で食の歴史を感じたいところですね。
 また、食の多様化により日本で肉食が広がりました。一方で肉食により食糧事情も変わりました。こちらにも関心を持ちたいですね。
 というわけで、この2問です。

問26 日本の食文化について。2011年に日本政府は「和食 日本人の伝統的な食文化」をユネスコ世界無形文化遺産として推薦し、その後登録されました。政府はどのような効果をねらっていたのでしょうか。国内向けのねらいと海外向けのねらいを、それぞれ答えなさい。

(麻布中 2021年)

問27 アメリカでは、植物由来の肉を取り入れる様子が見られます。植物由来の肉についての説明として、まちがっているものを2つ選び、記号で答えなさい。

ア 植物由来の肉に切り替えても、温室効果ガスは減少しない。
イ カロリー面などの点から健康志向に合っている。
ウ ハンバーガーショップなど飲食店でも提供されるようになった。
エ アメリカ人の半分以上が宗教上の理由で牛肉を食べないことが開発のきっかけとなった。
オ 肉だけでなく、牛乳に代わる植物由来のミルクがすでに販売されている。
カ フード(食品)とサイエンス(科学)をかけ合わせた食の技術革新が開発の背景にある。
キ 現在、植物由来の肉の実用化は他国でも進行している。

(女子学院 2021年)

 問26は和食の無形文化遺産に関する問題です。和食が登録された時は入試でも話題になりました。それだけ食に対する意識を学校側が持っているのでしょう。和食は日本の文化や伝統を見ることの出来るものです。改めて和食について考えて欲しいと思います。
 問27は食の多様化による食糧不足の問題です。家畜を育てるためにトウモロコシなどの飼料を用います。そのせいで人間の食べる食料が少なくなるおそれがあります。そこで代用肉が考えられています。代用肉は食糧不足や地球環境問題の対策につながります。もしかしたら近い将来、様々な代用食品が流通するかもしれませんね。

(3)料理を作るのも大変です


 食生活の変化とともに人々の生活の変化も見られるようになりました。そのため、料理についてもこれまでとは違う工夫が見られるようになりました。それが次の問題です。

問28 大型スーパーやコンビニのプライベートブランド商品として、袋入りの便利なカット野菜が増えてきたのはなぜですか。下の写真を参考にして、購入する消費者にとっての理由と、スーパーやコンビニと契約する農家にとっての理由を、それぞれ答えなさい。


カット野菜

規格外野菜

※ 写真は実際の問題のとは異なります。

(麻布中 2021年)

 料理は出来た方がいいと思います。また、スーパーの買い物なども親子で一緒に行くと色々学べます。是非勉強に専念させるのではなく、日常の買い物に子どもも関わって欲しいです。
 それが出来ているとこの問の半分は確実に出来ます。より理解を深めさせたければ実際に野菜を切らせるといいでしょう。そうするといかに手間のかかる作業か分かるでしょう。
 また、スーパーの野菜コーナーに行くと同じ形のものばかりです。それにも理由があります。その理由が分かればもう半分も答えられると思います。
 麻布中は観察力など日常への関心を深く求めます。本当に面白い学校だと思います。

(4)日本の食の問題


 一方で食と貧困に関する問題があります。そうした問題に関心を向け、取り組んでいく必要があると思います。それに関しての問題が以下の3つです。

問29 「食事がとれない児童」に関して、戦後、アメリカから給食用物資が日本に提供されたことをきっかけに、学校給食が広まりました。学校給食の説明としてまちがっているものを2つ選び、記号で答えなさい。

ア 戦後、海外からの脱脂粉乳の支援があり、のちに学校給食で牛乳が出されるようになった。
イ 給食の普及は、子どもたちの栄養状態の改善を目指して進められた。
ウ 戦後、アメリカから日本に小麦粉が提供され、パンの給食が始まった。
エ 米飯が給食で頻繁に出されるようになったのは、輸入小麦粉が不足したからである。
オ 学校給食は全国的な制度であるが、各地で郷土料理が献立に取り入れられている。
カ 学校給食は費用を安く抑える必要があるため、地元の産物ではなく安価な輸入食材がほとんどを占めている。

(女子学院 2021年)

問32 企業や家庭などが廃棄しようとしている食品を寄付してもらい、必要としている人に提供する民間の活動をフードバンクと言います。フードバンクのようなしくみが必要とされているのは、憲法に書かれている何という制度が不十分だからですか。

(女子学院 2021年)

問31 「健全な食生活を実践することが出来る人間を育てる食育を推進」することを目的とした食育基本法の理念とは合わない取り組みを1つ選び、記号で答えなさい。
ア 家庭で朝食をとることが難しい児童に対し、学校で朝食の提供を行う。
イ 小学校に栄養教諭を設置し、食育指導に当たる。
ウ 栄養や食事マナーに関する親子教室を開き、食育への取り組みを保護者に奨励する。
エ 給食を残さず食べてもらうため、素早く食べられる人気のハンバーガーを取り入れる。

(女子学院 2021年)

 問29は戦後の日本の食糧難に関する問題です。食糧難という言葉にピンと来ないかもしれませんが、問30で出たフードバンクのような取り組みが現在の日本では非常に重要なテーマになっているのです。フードバンクは問題文にもあるとおり廃棄しようとする食品を集め生活に苦しんでいる人に提供する取り組みです。
「生活に苦しんでいる人」と聞くと、貧困に苦しむ開発途上国の人を思い浮かべるかもしれませんが、日本国内でもそうした人々がいるからこそフードバンクが重要になるのです。自分には関係ないと思わず、一度よく考えて欲しいと思います。
 そして問31は食育の取り組みです。食育では十分な栄養を摂ることもそうですが、箸の使い方などのマナーに関するものもあります。マナーを含む正しい食生活が健康的な生活につながることも覚えておいて下さい。

(5)食の問題からよりよい社会を目指すには?


 ここまで食を題材にした問題を見てきました。世の中にはさまざまな問題があることが分かったと思います。ですが、こうした問題は当然解決しなければなりません。では、どうやって解決すればよいでしょう。
 そのヒントが今年の麻布中の最後の問題にあると思います。

問32 現代は共食(一緒に食事をとること)が行われにくい社会になっていますが、多くの小学校では給食という共食が行われています。君は、学校給食にかかわる問題点にどのようなものがあると考えますか。また、給食をどのように改善すれば、より意味のある共食となるのでしょうか。君が考える問題点とその改善策を80字以上120字以内で書きなさい。

(麻布中 2021年)

 個人的には麻布中の真骨頂が出た問題だと思います。まずテーマが給食という受験生にとって身近なテーマである。次にそのテーマが現代社会の問題と結びつくものである。そして自分で課題を発見し解決するというこれからの教育で求められるアクティブラーニング(AL)にも踏み込んだものである。という点です。
 この問題の解答は様々です。これを採点する、麻布中の先生は大変でしたでしょうし、とても楽しい時間を過ごしたのではないかと思います。

4,終わりに


 以上、2021年の中学入試の問題を通して学校が一見教養とも思える問題をなぜ出すかについて考えてきました。そして32問紹介しましたが、そこから私が考えたことは以下の通りです。
 まず、学校側は受験生に限らず若い子たちに広い視点・観察力を持ってほしいのだと思います。中学入試の問題の多くは学校の教科書で扱う内容です。実際に以前ツイートしたとおり、今回採り上げた問題が出来なくても合格点を取ることが出来ます。しかし、それでは視野が狭くなり、世の中を広く捉えることが出来ません。広い視野を持つには普段からの姿勢が重要です。学校や塾の勉強だけでなく社会全体にアンテナを広げて欲しい、そうしたメッセージが含まれているのだと思います。
 また、社会全体にアンテナを張ることが出来ると、社会にあるさまざまな問題に関心を向けることが出来ます。今回取り上げた食に関することでも様々な問題があります。また、食以外にも問題があります。そうした問題に気付くためにも社会に関心を持ってほしい。その意識付けをさせるために問題に出しているのかもしれません。
 そして、こうした問題に関心を持つだけでは社会はよくなりません。その問題にどう取り組み、解決すればよいか考える力を持ってほしいというメッセージなのかもしれません。これは入試改革と関係することではありますが、近年の中学入試では課題を発見し解決するアクティブラーニングに関する問題が見られるようになりました。しかし、麻布中は以前からこうした問題を出しています。つまり、難関校ほどそのような傾向になりやすいとも言えるのです
 以上は私の推測であり、学校側と見解が異なるかもしれません。しかし、いずれにしても以上のような意識を持つことは重要です。若い子たちには早い時期からそうした考えを身につけて欲しいと思います。そしてそれが志望校合格、自身の成長につながるはずです。

解答

問25 例:多くの観光客に来てもらい地域振興をすすめること

問26 
国内向け:日本の食文化の理解を深めることで、和食を次の世代に受け継ぐため。
海外向け:和食の魅力を伝えることで、インバウンド需要を高めるため。

問27 ア・エ(ア、植物由来のものは基本的に二酸化炭素などの温室効果ガスを発生しません。エ、牛肉を食べない人の多くは菜食主義者やヒンズー教徒ですが、人口の半分以上は占めません)

問28
消費者:仕事で忙しい中、野菜を切る時間を省くことが出来るため
農家:店頭に並ぶことの出来ない規格外野菜を販売することが出来るから。

問29 エ・カ(エ、輸入小麦粉の不足ではなく、米の生産量が増えたからです。カ、オと矛盾することに気付けば答えられると思います。地産地消や食育の観点から地元の産物を給食に取り入れています)

問30 社会保障制度

問31 エ

問32
例1:ご飯を食べ方は子どもによって異なり、ゆっくりでしか食べられない子は給食の時間に全てを食べきるのに無理するおそれがある。そのため、給食の時間を長くとることで、子ども達が落ち着いて給食をとれるようにした方がよい。(104字)

例2:クラスの人数が学年に関わらずあまり変わらず、低学年が重い給食を持ち運ぶのは大変な作業である。そこで、学年に関わらず一緒に給食をとり、高学年が率先して低学年の給食を手伝うことで、学校全体で仲間意識を持てるようにした方がよい。(111字)
(別解を期待します。)

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