見出し画像

こうしたいって思ったら行動してみよう ―考え過ぎて動けない若者に伝えたい、鳫子裕司さんの話―


>鳫子(がんこ) 裕司さん(46)のプロフィール
・2007年に京都でパン工房「Mutsu mutsu(ムツムツ)」をオープン。
・2013年に長野県南木曽町に移住。
・2017年に南木曽町で移動販売のパン屋「なつやけ工房 Mutsu mutsu(ムツムツ)」を営む。
なつやけ工房Mutsu mutsu ▶ https://mutsumutsu2007.jimdofree.com/

【ケーキの魔法】

画像3


ー 幼いころからパン屋さんになりたいと思っていらっしゃったんですか。

僕は小学生のときに、ケーキ屋になりたいと思ってたんです。

ー えええ! ケーキ屋さんだったんですか!

小学生のころ、友達の家に遊びに行ったとき、友達のお母さんが生クリームのケーキを作ってくれたんですよ。それまで僕が食べてたのはバタークリームだったから、初めて食べて「なんだこれは!なんておいしい食べ物なんだ!」って感動しちゃって。

友達のお母さんが自宅で作ってはったんで、「僕も一回作ってみよ」思うて自分で作ってみたら、意外と上手いこと作れたんで、「ケーキ屋さんになったら、こういうケーキを毎日食べれるんや~」って思って、ケーキ屋を目指そう思ったのがきっかけですね。

ー 「生クリームケーキ」に衝撃を受けたんですか。そういえば、当時は生クリームが高級品で中々手に入らなかったことや、日持ちしにくいなどの理由から、バタークリームのケーキが主流だったみたいですね。

そうですね。当時はバタークリームのケーキが多かったんで、生クリームのケーキはそのときに初めて食べました。

ー 中学生の頃もケーキ屋さんになることを目指されていたんですか。

いや、中学や高校のときの進路は特に決まってませんでした。
ただ、ケーキをやりたいって気持ちはあって、高校生のときに、製菓の専門学校を見学しました。そこで、やっぱりケーキづくりが面白そうだなと思って、そのまま専門学校へ入学したんですよ。

ー へぇ~、そうだったんですか。それで、その後は…

大阪のケーキ屋に就職して、住み込みで働いてたんですけど、やっぱり職人の世界なので、仕事はとても厳しいんですよね。

ー なんとなく想像できます。

そんなある日、僕の先輩が「ケーキって贅沢品だから毎日食べるものじゃないけど、パンは人によっては毎日食べるし、もし自分で店やるんやったら、パン屋は需要があるぞっ」って言ってくれたんです。だから、ケーキ屋さんを辞めて、パン屋を覗いてみようと思って、専門学校の先生に紹介してもらって京都のパン屋に就職したんです。

ー そのとき既に、自分の店を開きたいって思われていたんですか。
いや、思ってなかったです。まだ、いろいろ遊びたいなって。(笑)

ー そうですよね。(笑)

パン屋に就職してたので、当たり前なんですが、そこで食べるパンがおいしかったんですよね。毎朝、「好きなだけ食べていいよ」って言ってくれはるから、たくさん食べてどんどん太ってしまって。(笑)

ー はははは。(笑)
  幼いころから、ケーキだけでなく、パンもお好きだったんですか。

いえ、それまではまったく。ケーキ屋になりたいって思ってたんで、パンに興味もなかったですし。

ー え、そうなんですか!
  パン屋さんのオーナーさんが、もともとはパンに興味もないって。(笑)

先輩の一言でパン屋を覗いてみようかなゆう感じで就職したので。でも、そっからパンにハマっちゃいましたね。

ー パンにハマってくれたと聞いて、ムツムツパンのお客さんは今ごろきっと一安心ですね。よかったよかった(笑)

【パン作りの魅力】

画像2


ー 鳫子さんにとって、パン作りの魅力ってなんでしょうか。

魅力ですか、難しいですね。(笑)
僕は新しいパンを作るとき、イメージをするんですよ。
これとこれとこれを組み合わせていったらこういう味のパンになるちゃうかなってイメージをして作るんですけど、作ってみて、イメージにピッタリのパンが出来上がると、「あぁ、いいパンができたな~」って思います。

ー イメージが現実になったら嬉しいですね。例えば、どんな組み合わせでどんなパンを作られたんでしょうか。

あるとき、イタドリ※のジャムを頂いたことがありました。それを使ってどんなパンを作ろうかと考えていたときに、クリームチーズとレモンを入れて完成したときの味をイメージして作ったら、ちょうどイメージしていた味とピッタリのパンができたんです。

※イタドリとは、日本中の野山や 道ばた、土手などに生えているタデ科の植物です。非常に繁殖力が強く見た目は野菜のアスパラの様な形をしています。4~5月に採取できる柔らかい新芽は、山菜として古くから煮物や炒めものにして食べられてきました。

ー クリームとレモン、イタドリのジャムを組み合わせたんですね。イメージしていた味はどんな味だったんですか。
イメージは、、うーん。

ー 難しいですよね。すみません。(笑)
  例えば、クリームチーズとレモンがイタドリのジャムと、どのように合いそうだと思われたんですか。

イタドリのジャムは爽やかな酸味があったんで、そのさっぱりしたジャムと、同じようにさっぱりしたレモンを足していって、最後にもったりとした油っぽいクリームを入れると、さっぱり感ともったり感がちょうどよく合わさって、食べたときに爽快感をだせるかなと。

ー あぁ~、なるほど。

これから夏になるので、暑いときにも食べられそうな感じのパンにしたくて。
イメージを伝えるって難しいですね。

ー そうですよね。パンを作るときにイメージを言葉にはしませんもんね。

そうですね。できたものがイメージしていたものなので。

ー 新商品を作る際に、パンの形はイメージしますか。

イタドリを使ったパンを考えたときは、バターロールの形をイメージしていました。イタドリのジャムをもらったときに、こういう形がよさそうかな~とかいろいろ考えながら。

ー あ、ジャムを頂いているときからイメージされているんですね。

そうですね。そこでイメージしとかないと、いざ作るってときに作れないと困るので。
イメージ通りに作れたパンを売って、お客さんが「すごいおいしいわ~」ってゆうてくれはったときは、もう「よかった~」思いますね。

ー うんうん。それは嬉しいですね。

【あかんかったら、そんとき考える】

画像1


ー 何を仕事にするかという話なんですが、好きなことを仕事にするほうがいいと思う方や、好きなことは嫌になっちゃうから、好きじゃないことを仕事にするほうがいいと思う方がいらっしゃると思います。鳫子さんはどんなことを仕事にするとよさそうだと思われますか。

僕自身は、好きなものを仕事にするほうがいいと思います。

ー なるほど。どうしてそう思いますか。

いやぁ~。だって、毎日毎日それこそ365日、同じようことをずーっとやってるけど、「やっぱりパンづくりは飽きひん」と思うからかな。僕、パン屋をするまで別の職種も経験してるんですけど、でもやっぱり最後に戻っちゃうのはパンづくりやったんですよね。

ー あぁ、なるほど。たしかに、24時間の中でも、仕事をしている時間が一番長いですもんね。ちなみに、パン屋以外にどんなお仕事をご経験されたんですか。

他には、運送業をやったり。

ー あ、もうパン屋さんとは全然別のお仕事ですね。

そうですね。自分で店を開きたいと思っていて、店をやるためにはお金を貯めなあかんということでいろいろな仕事をやってたんですよ。
そうそう、僕、おもうとすぐに行動しちゃうタイプなんですよ。

ー あ、そうなんですか。思ったらすぐにやっちゃうんですね。

そうなんです。
あんまり考えずにやっちゃうんです。それがいいんか悪いんかわかんないんですけど。(笑)
それこそ、パン屋を始めてあかんかったらどうしようとかそんなん全然思わずにここ(長野県南木曽町)に移住しちゃいましたし。

ー え、そうなんですか!

そうなんです。とりあえずここに移住してパン屋をやってみよ、って思って来たんで。

ー 移住を考えてるときから、パン屋をやりたいと思われていたんですか。

そうですね。移住する前から京都でパン屋をやってたので、ここにきてもパン屋をやろうってことは思ってはったんですよ。もしパンが売れへんかったら、ま、そのときはそのとき考えようって。(笑)

ー ははははは。(笑)いやぁ~、その楽観的な考え方ができるのがうらやましいです。関西人特有なんでしょうかね。(笑)

こうなったらどうしようとか、そんなん全然思わへんタイプやったから。

ー あかんかったらどうしようって、1ミリも思わないんですか。

いや、そりゃ、思いますよ。(笑)

ー ははははは。(笑) さすがに。(笑)

でもそれを考えちゃうと、やっぱり動けんようになるんですよね。

ー あぁ~、たしかに。

僕らが京都にいたときから、いつかは田舎でパン屋をやりたいと思っていたので、休みの日に、京都の亀岡みたいなちょっと田舎の地域に足を運んでたんですけど、そのとき、南木曽町に住んでた伯母さんが亡くなってしまって。それからここに遊びにくるようになったんです。でも、ここに来てパンが売れるかどうかってのは正直、全くわからんかったですね。

ー それでも、南木曽町に来てみようと思われたんですね。

そうそう。身体も動けるうちに来た方が、修正が効くじゃないですか。

ー そうですね。

ま、でも計画はしないとあかんと思いますよ。
ほんまになんも考えずにぽーんと来ちゃっても、どうしようもないと思うし。

ー 計画、ですか。

ここ(南木曽町)でパン屋をするには、まず何が必要かってことから、ここに業者さんが来れるんかってことも考えなあかんし。南木曽町に移住したはいいけど、業者さんがここまで来れへんってなったらね。

ー 肝心なパン、出せませんもんね。

【5年間の目標とフルマラソン】

画像4


ー パン屋さんをやりたいと思って実際に行動し始めたのはいつ頃だったんですか。

本気で店をやりたいと思うたのは27歳くらいやったかな。

ー 何かきっかけがあったんですか。

きっかけは、勤めてたパン屋がリニューアルすることになって、その立ち上げに関わったことです。自分らで商品開発するんがすごい面白い思うて。そのとき、自分で店やってみたいなって思って。

ー なるほど。パン屋をリニューアルするとなって、商品開発やら何やらが必要になったんですね。

そうです。自分らでパン屋を一つ作っていくのが、もう「おもろいわ~」って思いました。

ー リニューアルがきっかけで、パン屋をやるぞ、と。

そうですね。そこから自分で計画しました。何歳でパン屋をやりたいのかや、やるからにはなんぼお金が必要かとか。それまではなんにも考えずにお金使ってましたから、お金が全然手元になかったんで。(笑)

ー そうですかぁ。
  パン屋を開くために、どのくらいの期間ご準備されていたんですか。

パン屋で働いて、その後は、夕方から夜までアルバイトする生活を5年間くらいやってました。

ー 5年計画だったんですか。パン屋を開くとなると、パン作りの職人としての技術に加えて、経営についての知識も必要ですよね。経営についてはどのように学ばれたんですか。

そうですね。僕は、本で学びました。暇さえあれば、開業の本をたくさん読んでましたね。

ー 本で学ばれた後、すぐに実践されたんですか。

そうですね。立ち上げてしまったら、あとは自分でどういうふうにやっていくかを考えいていくことが大事だと思ったので。

ー パン屋を開業すると決めて、その準備期間を5年にしたのはどのような理由だったんですか。

40歳からパン屋やろう思たら、27歳から換算して、10年以上もあるじゃないですか。
10年間となると、どっかで「もうええかな」って諦めちゃうんじゃないかと思ったんですよ。でも、5年やったら、続けることができるかな、って。

ーあぁ、なるほど。確かに、10年先までは、頑張れそうにないかもしれませんが5年ならまだなんとかなりそうな気もしますね。

あとは、必要な資金と収入を計算して、今からどんだけ貯まるかってことを考えて5年間にしょうと。

ー パン屋をやりたいという気持ちと、それに向けての具体的な計画を立てて実現されたんですね。

そうですね。やりたい気持ちだけでなく、計画まで立てるのが重要かもしれませんね。
でも、学生のころは、こんなんやりたいなみたいなイメージだけでもいいと思いますよ。

ー パン屋開業までの5年間は、目標のある楽しい日々を過ごされていたんですか。それとも、目標はあるけど、大変だという気持ちの方が先行してたんですか。

とても充実してました。
自分の立てた目標に向かって過ごしてるときの方が健康的ゆうか。
仕事の合間にマラソン始めてみて、「フルマラソンに出たい」なんて目標が出てきちゃって。(笑)

ー え、マラソンですか!(笑)しかもフルマラソンに出られたんですか。

はい、出ました。

ー すごい!(笑)
  「僕、自分でパン屋開きたい思うて、フルマラソン出ててん」って聞いたら、「足鍛えてどないすんねん。完全にやり方間違えてるで。」ってツッコミ入りますね。
あ、みなさん、ここ笑うとこですよー(笑)
続き、聞きますね。

目標を作っちゃうとね、面倒でもやるか、って気持ちになっちゃうんですよね。

ー 確かに、目標があるから頑張れますね。ただその一方で、立てた目標に対して、「やらなきゃな」と義務感を感じることはありませんか。
いつまでって決めちゃってるから、やっぱり、そういう気持ちになることはありますね。でも、そんな切羽詰まってやっちゃうとね、しんどいから。

ー その力の抜き加減ってどうやってやってるんでしょうか。例えば、フルマラソンに出るという目標を立てたら、頑張ろうと思って頑張るけど、無理して頑張っても、もたないじゃないですか。特に意図せずに、頑張れちゃうんですか。

そうですね。そんときは、もう何も考えんかった。ただマラソン出よう思って、練習では毎回の目標タイムが切れてたらおっけい!みたいな感じでやってたから。

ただ、フルマラソン走ったときはさすがにしんどかったですよ。(笑)

ー 42.195キロですからね、想像するだけでもきつくなってきます。(笑)

でもその5年間はすごい充実してたと思います。

ー 充実感かぁ。仕事のやりがいも同じ感じなんでしょうね。

ー 最後に、中高生へ向けて伝えたいことはありますか。

自分はこうしたいってものがあるんやったら、考えてるんじゃなくて、「行動した方がいいよ」って伝えたいです。行動を起こしたら、何かしらの結果は出ると思います。
最後に決めるのは自分ですからね。何かしら、行動を起こしてみてください。

ー 自分が何かに興味をもって、それをやろうと決めて、目標を立ててひたすら行動する。何かを実現することを、こんなにもシンプルに考えたことはなかったかもしれません。
好きなことを仕事にできるんだろうかと考えてしまうなら、やろうと決めて、目標立てて、やってみる、すると、どうすればいいのかが具体化されて以前よりもはっきりと、自分はどうすればいいのかがわかるんだな、と思いました。
鳫子さん、本日はどうもありがとうございました。