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カバラとタロット
カバラ(Kabbalah)とタロットの関係は、タロット占いの歴史において非常に重要なテーマです。
この二つが結びついたことで、タロットは単なる占いの道具を超え、深遠な哲学的・神秘的な意味を持つシステムとして発展しました。
以下に、その繋がりの歴史や仕組みを詳しく説明します。
### 1. **カバラとは?**
カバラは、ユダヤ教の神秘主義の一派で、神の宇宙創造の秘密や人間の魂の進化を解き明かす思想体系です。
特に「生命の樹(Tree of Life)」と呼ばれる10のセフィロト(Sefirot、神の属性を表す10の球体)と、それをつなぐ22のパス(道)が核心的な図式です。
カバラは中世ヨーロッパで発展し、ルネサンス期にはキリスト教神秘主義者やオカルティストにも影響を与えました。
この「22」という数字が、後にタロットの大アルカナと結びつく鍵となります。
### 2. **タロットとカバラの出会い**
タロットとカバラが明確に結びついたのは、18世紀後半から19世紀のオカルティズムの時代です。
それ以前のタロットは、主にゲーム用や初期の占い用として使われていましたが、カバラとの関連は後付けで発展したものと考えられています。
- **エリファス・レヴィ(Eliphas Lévi)**: 19世紀のフランスのオカルティストであるレヴィは、タロットとカバラを体系的に結びつけた最初の人物として知られています。
1856年の著書『高等魔術の教義と儀式(Dogme et Rituel de la Haute Magie)』の中で、彼はタロットの大アルカナ22枚が生命の樹の22のパスに対応すると主張しました。
また、タロットの象徴をヘブライ文字(22文字)と関連づけ、神秘学的な解釈を加えました。たとえば、「愚者(The Fool)」を最初のヘブライ文字「アレフ(Aleph)」に、「魔術師(The Magician)」を「ベート(Beth)」に結びつけるなどです。
- **黄金の夜明け団(Golden Dawn)**: 19世紀末にイギリスで成立した秘密結社「黄金の夜明け団(Hermetic Order of the Golden Dawn)」は、カバラとタロットの関係をさらに深化させました。
この団体のメンバー(サミュエル・リデル・マグレガー・メイザースやアーサー・エドワード・ウェイトなど)は、タロットをカバラ、占星術、錬金術と統合した体系を構築。
生命の樹のセフィロトに小アルカナの4つのスート(ワンド、カップ、ソード、ペンタクル)を対応させ、大アルカナを22のパスに割り当てました。
これが現代タロットの解釈の基礎となっています。
### 3. **具体的な対応関係**
黄金の夜明け団の体系を基に、タロットとカバラの対応を一部挙げると以下のようになります:
- **大アルカナと22のパス**:
- 0. 愚者(The Fool) → アレフ(Aleph) → セフィラ1(ケテル)から2(コクマー)へのパス
- 1. 魔術師(The Magician) → ベート(Beth) → ケテルからビナーへのパス
- 2. 女教皇(The High Priestess) → ギメル(Gimel) → ケテルからティファレトへのパス
(以下、順に22枚が対応)
- **小アルカナとセフィロト**:
- ワンド(火):創造の領域(アツィルト界)
- カップ(水):形成の領域(イェツィラー界)
- ソード(風):活動の領域(アッシャー界)
- ペンタクル(地):物質の領域(マールクト界)
- 各スートのエースから10までが、生命の樹の10のセフィロトに割り当てられます。
- **コートカード(人物カード)**: 王、女王、騎士、王子は、セフィロトや四元素の組み合わせで解釈されます。
この対応関係は、タロットリーディングに深みを与え、単なる運勢占いを超えた宇宙論的・精神的洞察を可能にしました。
### 4. **カバラがタロットに与えた影響**
カバラとの結びつきにより、タロットは以下の点で進化しました:
- **象徴の深化**: カード1枚1枚に哲学的・神秘的な意味が付与され、単なる絵柄から「魂の旅路」を表すツールに。
- **体系化**: 占星術や四元素、カバラの生命の樹が統合され、タロットは論理的かつ包括的なシステムに。
- **スピリチュアルな用途**: 自己探求や瞑想、神との対話の手段として使われるようになりました。
### 5. **現代におけるカバラとタロット**
現代のタロット占い師や研究者の多くは、黄金の夜明け団の体系を引き継いでいます。
特に「ライダー・ウェイト・タロット」や「トート・タロット」(アレイスター・クロウリー作)は、カバラの影響が色濃く反映されたデッキです。
一方で、カバラを知らなくてもタロットを楽しむ人も多く、必ずしも神秘学の知識が必須ではありません。
ただし、カバラを学ぶことで、タロットの隠された層を読み解く力が格段に上がるとされています。
### まとめ
カバラとタロットの関係は、19世紀のオカルティズムを通じて確立され、タロットを単なる占いから、宇宙や人間の精神を映す鏡へと変貌させました。
生命の樹の22のパスと大アルカナ、10のセフィロトと小アルカナの対応は、その象徴性を体系化し、現代タロットの基盤を築いたのです。