ボク、ヤケドしてるんですけど!
昨日の夜、いつものように一人で留守番していて、ママが作っておいてくれた鍋焼うどん(こんな真夏にかよと思ったけれど)を温めるためにカセットコンロに火を点けようとしたんだけどなかなか点かず、何度も点火用のツマミをカチカチ回して、コンロの近くに顔を近付けた途端にボンッて大きく火が点いて、やべって思った時にはもう毛が焦げた臭いがして慌ててキッチンのシンクで水を顔面にかけたんだけど、時間が経つにつれ左目が痛くなってきて、用事がない時には連絡しちゃいけないと言われてたけどそれどころじゃなくて、ママがナースとして働いている病院へ電話したんだ。
頭も痛くなってきていたけど、頑張ってママに事情を話すと、直ぐには帰れないけどなるべく早く帰るようにするからアイスノンにタオルを巻いてそれで冷やして寝てなさいって言われたからその通りにして寝て待ってた。
朝に近いくらいの夜中にママが帰ってきて、具合を見ようとアイスノンをどかそうとしたら、巻き付けたタオルがボクの左目のまわりに引っ付いていて、ビリビリいいながら剥がれて思わずイタッて叫んでしまったよ。
それからママが左目を開けて見せてと言うので開こうとするんだけど瞼も上と下がくっついて開かねーでやんの。
目のまわりがヒクヒクして全く力が入らなくて笑けてきちゃって、無理無理くっついてぜんぜん開きませーん、って言ったらママが膝枕をしてくれて、目のまわりとおでこに軟膏を塗って左目が隠れるようにガーゼを貼ってくれた。
ママが膝枕なんかしてくれたの何年ぶりかで結構うれしくてヤケドも悪くないかもなんて思ったりもしたけど、やっぱりヒリヒリ痛くてヤだな。
それからもう一度寝てお昼に起きて、昨日食べれなかった鍋焼うどんを食べてから駅へ向かった。
駅にはナゼかママの友達のオジサン(もう友達だなんて嘘だって事はわかっているけど)が居て、隣街の眼科専門の病院へ行くために電車に乗った。
病院に着いて目薬を注してもらったら、くっついていた左目の瞼が簡単に開いた。そして別の目薬を注してもらって薬を3種類もらって終了した。
生まれて初めて眼帯をしてちょっとカッコいいんじゃないかなんて考えたりしたけど、左側の眉毛は焦げてハゲてるんだったと思い出してだいぶ落ち込んだ。
病院は駅ビルの中にあって一つ下の階に下りると本屋さんがあった。オジサンに好きな本を買ってあげるからゆっくり選んでなさいと言われてボクはそこに置いていかれた。
ママとオジサンは二人でどっかに行ってしまった。
普段だったら本屋さんで好きなの買ってくれると言われたらめちゃくちゃ喜んだだろうけど、さすがに片目のボクをこんな所に置いて行くだなんてイカれてるぜって思ったよホントにマジで。
案の定、暫くしたら右目が疲れ過ぎて頭がガンガンしてきて、気持ち悪くなって急いでトイレに駆け込んで吐いた。
30分くらい個室に籠って目を瞑り休んでから本屋に戻ると、10分くらいしてオジサンがやって来た。
オジサンはムカつくくらいの笑顔で、ごめんごめん遅くなっちゃったね、欲しい本はきまったかい、なんて言ってきて、それどころではなかったボクは近くにあった雑誌を適当に掴んで渡した。
選んだのはベースボールなんとかって雑誌で、目が治ったとしても絶対に読まないなって思った。
ママはお菓子売り場に居てボクとオジサンが歩いて来るのを見つけると大きく手を振ってみせた。
ママの中の女が見えてキモいって一瞬思ったけど、ボクも手を振り返してあげた。
ママはバラ売りのキャンディやらチョコレートやらをいっぱい買っていた。
ボクはママの左手と、ママの右手はオジサンと繋いで帰りの電車に乗った。窓の外はもう暗くなっている。
向かいの席にはボクと同じくらいの年齢の女の子が一人で座っていて、なんだかとても疲れているようで、電車が出発すると直ぐに電車の揺れに合わせて頭を揺らしながら寝てしまった。
なんとなくどこかで見たことがあるような気がしたけれど、ボクも相当疲れていたので、どうでもよくなり目を閉じた。
隣でなにやらモゾモゾと動く気配がしたけれど、もう目を開けることなど出来ずに意識は遠退いた。