教授のプロジェクト~被験者④冬音~
夏樹と文秋がプロジェクトに参加してから半年後、1人の女学生が加わった。春に入学してきた学生じゃ。ワシは彼女に冬音と名付けた。冬音はひと言で言ってしまえば、ふしぎちゃんじゃった。
志望理由を訊ねると、「あそこにはこびとさんがいるの」と答えたのじゃ。ワシはえらく驚いたぞい。こびとに会いたいからこのプロジェクトに参加したいなんぞと言いよったのじゃ。ふぉっふぉっふぉ。あれにはえらくたまげたのう。
ワシは今回も新加入メンバーのお祝いでプレゼントを用意した。色んな柄の布じゃ。元のメンバーはもう、くたくたに着古した服しか持っていなかったからのう。特に小春は可哀想なくらいに服がぼろぼろになっておった。余った布は好きに使えば良いと思っての、少し多めにくれてやったのじゃ。
冬音の背は150センチあるかないかと言ったところかのう。その小さな体に不思議なオーラを纏った彼女には、猫やら蝶やらバッタやら色んな生き物が寄ってきた。彼女なら本当にこびとでも寄りつきそうだと思わされたほどなのじゃ。
そして2人の男子も同じじゃった。男どもはまるで吸い寄せられるように彼女のまわりをうろつき、ご機嫌をとるのじゃった。
夏樹はともかく文秋よ、お前は小春に気があるんじゃなかったのか!と、モニターの画面に向かって叫んでしまったほどじゃ。
じゃが、ただひとり小春だけは違ったのじゃ。そんな男どもの急変した態度が気に入らなかったのか、他の3人とは距離を置くようにして、過ごし始めたのじゃった。
時が経つにつれ、ワシには小春以外のメンバーの行いが、宗教じみて見えてきたのじゃった。冬音のために食料を確保し、献上する男たち。冬音は他の皆が作業をしているのをよそに、猫や蝶などの生き物と戯れて過ごしていたのじゃ。こびととも話をしていたのかもしれんなぁ。ふぉっふぉっふぉ。
そして夏樹と文秋の関係は、以前の友人どうしという関係ではなくなってしまったようじゃった。冬音に気に入られようとお互いが懸命になっていた。
ああ、忘れとった。冬音に近づこうとしなかったのは小春だけではなかった。小春に可愛がられていた柴犬も同じじゃった。柴犬は冬音が近づくと歯を剥き出しにして唸り声をあげておったのう。あれはどういうわけじゃろうか。
こうして冬音が参加する前の良好だった3人のバランスは、冬音という4人目の存在によって脆くも崩れていったのじゃった。
このあとの事も、君たち諸君も観察して知っておろう。まさかあんな風にして、このプロジェクトが終わりを迎えようとはのう。
さて、このあたりでワシからの講義は終わりとしようかのう。このプロジェクトでワシは世には発表できなかったものの、個人としては収穫が多かったぞ。なんでも試してみるべきじゃのう。しかし、人間とは実に興味深い生き物じゃよ。ふぉっふぉっふぉ。
ではワシの講義を受講してくれた諸君、ワシからの次の連絡を待っていてくれたまえ。それではごきげんよう。