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少年達を照らす光 中編


テツヤが寝てしまったあと、ツヨシとナオキは暇をもて余していた。本当は2人とも、外で野球などをして遊びたかったのだが、祖母に止められた。アクシデントがあったおかげでもう夕方近くなっていた。あと1時間ちょっとすれば陽が暮れ始める時間だ。仕方なく祖母の家にあったトランプをして遊ぶことにした。

2人で神経衰弱を始めると、カードが一枚足りない事に気がついた。クローバーのJがない。そしてナオキはぼやき始めた。

「てっちゃんはさぁ、注意力がないんだよな。足元に注意して歩かないからこんな事になるんだよ。どぶ板なんてさ、所々すき間が空いてるんだから普通、気をつけるでしょ。そもそもどぶ板の上なんか歩かなければいいのに。俺、そういうの気にしないで生きてるヤツに腹が立つんだよね。周りの状況とか確認しないで無謀な事するヤツ。とりあえず目の前に塀があったら塀の上を歩き出しちゃうのとか、水溜まりにジャンプして飛び込んで水を飛び散らして喜んでるヤツとか。あーもう腹が立つ。てっちゃんのせいで予定狂ったわ。計画通りに進まないのってすごくイライラする」

「まあ、まあ、なおちゃん、そんなに怒らないで。てっちゃんだってわざわざ自分から好きでどぶに足をつっこんだ訳じゃないんだし。あんな怪我しちゃって可哀想でしょ。それに俺も目の前に塀があったらのぼっちゃうタイプだし。でも俺は塀から落ちた事はないけどね」

「でもさぁ……」

「まあ、いいからいいから。気をとりなおして、じじ抜きでもやろうよ。じじ抜きならカード1枚無くても丁度いいでしょ」

「そうだけどさぁ、じじ抜きを2人でやっても面白くないでしょ」

ナオキがブツブツ言っている間にも既にツヨシはカードを分け始めていて、ナオキもそれ以上は何も言わず、自分の前に置かれたカードを集めた。


台所からカレーの匂いが漂ってきた頃、叔父が帰って来た。娘のマユミも一緒だった。マユミはまだ4才。ただいまーの声が元気でかわいい。

「あっ、つうちゃんとなおちゃんだー」

そう言って80センチくらいの段差のある土間からよじ登った。この家は、古い家が建ち並ぶこの地域の中でもとても古い、木造の住宅なのだ。台所も玄関からつながった土間にあるし、風呂は、台所の隣で薪をくべて沸かしていた。トイレは外にあり、掘られた穴の両端に板を渡してあって、その間へ向かって用を足す。簡単な作りのその小屋の中には薄暗い電球が1つぶら下がっているだけで、大きな蜘蛛の棲みかとなっているのだ。

叔父がパチンコの土産の板チョコを2人に渡した。

「てっちゃんは寝てるのか。足を怪我したんだって、可哀想だったな。あっ、チョコレートは明日にしなよ。これからもう夕飯だからな」

そこへ祖父も帰って来た。ゆっくりと土間を歩いている。

「つうちゃんとなおちゃん、2人でおじいさんが上がるの手伝ってやってくれ」

2人が祖父に近づくと、祖父は酒臭い息を放っていた。近所の家で呑んでいたようだ。ナオキが祖父の手を引っ張り、ツヨシは土間に降りて祖父のお尻を押し上げた。

居間に戻ると食卓に料理が運ばれているところだった。知らない間に叔母も別棟の部屋から来て、手伝っていたようだ。マユミも料理を運ぶ手伝いを始めた。

この家ではまだ古いしきたりで、男が台所に立ったり、家事を手伝う事はなかった。反対に女性であれば、マユミのような小さい子供でも手伝いをしなければならない。この家ではジュース1杯欲しい時でも、女性の誰かが代わりに動く。男どもはまるで殿様扱いなのだ。

食卓にはカレーライスの他にビンチョウ鮪の刺身と、それより大きな皿にナスやキュウリやハクサイなどのぬか漬けが並んだ。この家の食卓には必ずと言っていい程の確率で、ビンチョウ鮪と大盛りのぬか漬けが並ぶ。

テツヤも目を覚まして、炬燵から抜け出し食卓へついた。

「お腹すいたー」

「てっちゃん、痛かったでしょう。もう大丈夫?」

叔母が声をかける。

「うん。まだ痛いけど大丈夫」

「じゃあ、食べましょう」

祖父の前にはカレーライスは置かれず、小さなコップがポツンと置かれた。マユミが酒の一升瓶を抱えて祖父の座る横へと置いていく。祖父はその安酒の蓋をはずしてコップに並々と注ぎ、コップに口をもっていき酒を啜る。祖父は無口な人だ。食事の間だけではなく、一日中殆ど喋らない。あー、とか、おい、とかしか言わない。祖母や叔母がそれで察してあげないと、途端に機嫌が悪くなる。

ツヨシとナオキとテツヤはカレーライスをおかわりして、満腹になった。

祖母と叔母は風呂の薪に火をくべてから、やっと食事を始めた。その間にも叔父のウイスキーの仕度などで動かされる。

「おじいさん、お風呂が沸きましたけど、先に入ります?」

叔母の問いに祖父は黙って首を降る。

「じゃあ、つうちゃんとなおちゃん、眠くなる前に先に入っちゃいなさい。てっちゃんは今日はお風呂、やめとこうね」

テツヤはおとなしくそれに従った。ツヨシとナオキは居間で服を脱ぎ、急いで土間へ降りてスリッパで風呂へ向かう。

「私も一緒に入るー」

マユミが言ったが、叔母に止められる。

「マユミはあとでお母さんと一緒に入ろうね」

しばらくマユミはダダをこねたが、諦めた。


ツヨシとナオキは洗い場へ登る段差を順番に駆け上がる。壁で仕切られていないので、この季節はとても寒いのだ。早く湯に入りたくて、2人で大急ぎで体を洗い、湯舟に飛び込んだ。

「あっぢー」

2人で同時に叫ぶ。2人は風呂の淵に股がり、ツヨシが水の蛇口を思い切り開けた。

マユミが駆けて来て、2人を指差し笑っている。

「お母さーん、お兄ちゃん達、お風呂の上でチンチンぶらぶらさせてるよー」

ツヨシとナオキは慌てて風呂に飛び込んだ。




《中編おわり》



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