◆不確かな約束◆しめじ編 第8章 上 遊園地


私達は女子3人で遊園地に来ていた。山梨県内にある、絶叫マシンで有名なとこだ。

一緒にいるのは同じ牧場で働いている、先輩のシオリさんと、同期のリコちゃん。シオリさんが、「たまには女子だけで遊びに行こうよ」って誘ってくれた。

シオリさんは面倒見のいい先輩で、わからない事があると大抵シオリさんに訊くことにしている。おじさん達はぶっきらぼうなので、訊いても「パッと」とか「シューっと」みたいな感じで、擬音で答えるのでよくわからない。その点シオリさんは、丁寧にわかりやすい言葉で教えてくれるし、実際にやって見せてくれたりする。とても頼りになる先輩だ。来年30歳になってしまうと嘆いている。

同期のリコちゃんは、受付や案内、それから事務作業などをしている。地元の高校を卒業したばかりのピチピチの18歳。背は低めで、ホントに可愛らしい女の子なのだ。

私達は午前のうちに既に4つの絶叫アトラクションに乗っていたので、声はガラガラ。小学2年生の頃に私の家族とシュウの家族で一緒に来た時には、子供用のアトラクションしか乗れなくて、シュウが「あっちのおっきいジェットコースターに乗りたい」なんて駄々をこねて、みんなを困らせたりしてたっけ。その後、スケートして帰ったんだったかな。


今は施設内のレストランでランチタイム。

「ここの絶叫マシン、まじで怖いよね。しかも一つや二つじゃないし。私もう腰が抜けるかと思ったよ」

「フフフ シオリさんって案外怖がりなんですね。一番大きな声で叫んでましたよ」

「ハハハ 確かに。シオリさんたらメチャクチャ怖い顔してましたよ。リコちゃんも叫んでたけど、顔はすごく嬉しそうなんだよね」

「だって私、ホントは高い所苦手なんだもん。リコちゃん、私の顔見て笑ってたでしょ」

「だってシオリさん 普段、仕事している時とのギャップが。可愛らしかったですよ。私は地元だからここの遊園地、何回も来てるので慣れてるんです」

「シオリさん 帰りは私が運転しますから、良かったらビール呑んじゃってください」

「えっ いいのー。ユキちゃんありがとー。やっぱ持つべきはカワイイ後輩だな。じゃあ遠慮なく」

シオリさんは大のビール党らしい。ビールなら永遠に飲み続けられると言ってた。早速、シオリさんは弾むようにビールを買いにいくと、席に着くなりグビグビっと半分くらい一気に呑んでしまった。

「プハーッ 最高ですな。夏の終わりに遊園地でビール。幸せの極致でござる」

「ハハハハッ シオリさん、ござるっていつの時代の人ですかー」

上機嫌のシオリさんは、2杯目のビールも飲み干した。

「じゃあそろそろ次、いってみようかー」

シオリさんの号令で一斉に席を立つと、私達は予め決めていたアトラクションへと向かった。

「ちょっと私、これだけはいつもスルーしてるんです。こっち系のスリルは全くダメで」

午前中は一番楽しそうにしていたリコちゃんが、急に怖じ気づいてきた。

私達がやって来たのは、病棟が舞台のお化け屋敷の前。

「私も出来ればこれ、パスしたいです」

そんな私達の言葉を無視して、ほろ酔いのシオリさんは躊躇なく、入口へと向かって行く。

「あんた達、もたもたしてないで、サッサと行くよ。大丈夫。何かあったら拙者がお守りするでござる」

アルコールの入ったシオリさんは、どうやら侍キャラになってしまったようだ。私とリコちゃんは腕を組みながら、恐る恐る入口へと向かった。

「うわー 何ここ」

「薄暗いよー」

「もうっ こわいーっ」

「帰りたいよー」

「あれっ シオリさんは」

「えっ いない。先に行っちゃったみたい」

「シオリさーーん」

「守ってくれるって言ってたのに。ひどい」

「キャーっ」

「ワーッ」

「来ないでっ」

「いやーっ」

「オシッコ漏れそう」

「ギャーっ」

「ここから出してー」

「いやっ もう歩けない」

「うえーん」

「もうやだよー」

「立てなくなっちゃった」

「リコちゃん、もう少しだから頑張って」

「えーん お母さーんたすけてー」

「えっ まぶしいっ」


やっと外に出られた。私とリコちゃんは腕を組んだまま、その場に座りこんでしまった。先に出たシオリさんは男性3人と楽しそうにお喋りしている。

「おー 姫方、やっと出て来られたであるか。拙者は早々に化け物達を退治し、この殿方らに武勇伝をお伝えしていたところじゃ。ハッハッハッハッハー」

「もーっ、シオリさんたら酷いです。私達を置いてきぼりにするなんてー」

リコちゃんは泣きながらシオリさんに抗議した。

「いやーっ それはスマン事をした。お詫びと言ってはなんだが、この殿方達が、この後の道中をご一緒してくれるそうじゃぞ。どうだっ 喜べ喜べハッハッハッハッハー」

「シオリさん、とりあえず私達は厠へ行って参ります。リコちゃん さっ 行こう」


トイレから戻ると、シオリさんと男性3人は、直ぐに歩き始めた。

「ちょっと待ってくださいよー」

「リコちゃん 大丈夫? 俺、リュウヘイ よろしくね」

「ユキちゃんも早くおいでよ。俺がナオキで、シオリちゃんの隣に居るのがマサル先輩。よろしく。俺がユキちゃん担当に決まったから」

「えっ 担当って。もーっ シオリさんたらもう私達の事も紹介して、勝手に担当とか決めちゃってー」

「まあ良いではないか。細かい事は気にせず、先を急ぐぞ。この殿方らは駿河の国から遠路遥々お越しなのじゃ。失礼のないようにおもてなし致せよ」

「ハハハハっ シオリちゃんて面白いキャラしてるよね。もう大好きだわ」

そう言って、マサルと紹介された彼はシオリさんの手をとって恋人繋ぎをした。


シオリさんがナンパした彼らは、静岡から来た高校時代からの友達同士で、年齢は27歳だそうだ。マサル君はノリのいい感じの見るからに体育会系のガッシリした体形。リュウヘイ君は、眼鏡をかけた秀才タイプで、背は高いが細身の優しそうな感じの人。そして、ナオキ君は中肉中背で、ニコニコしてはいるが、ちょっとなんだか人を踏み込ませないような、心の中にバリアを張ってるようなタイプ。


一通りのアトラクションをまわり終えると、最後に観覧車に乗ろうという事になった。勿論、予め勝手に決められていた担当ごとに。

最初の観覧車にシオリさんとマサル君。相変わらず恋人繋ぎをしたままだ。次にリコちゃんとリュウヘイ君。さすがに歳が離れているせいか、リュウヘイ君が妹を優しく誘導している感じ。時折、頭を撫でてあげたりなんかしてるけど。

一番最後に私とナオキ君が乗り込んだ。ナオキ君は皆に順番を譲ってあげていた。けっこうジェントルな人なのかなって思った。

観覧車に乗り込むと、ナオキ君は矢継ぎ早に私に質問してきた。彼氏はいるの? いつくらいまで付き合ってたの? 生まれはどこ? とか。質問はするけど、私が正直に返事をしても、まるで興味が無さそうだった。

ところが観覧車が全体の3分の1くらいまで来たところで、ナオキ君が口を開かなくなった。

「ナオキ君、トイレでも行きたいの?」

「いやっ みんなの前で言うの恥ずかしかったから言わなかったんだけどさ、俺、高所恐怖症で、観覧車が一番ダメなんだよ」

「えっ そうなの? それは意外ですねぇ」

「意外ですねぇ じゃないのよ。本当に怖いんだから。ねえちょっとユキちゃん こっちに来て手を握っててくれる?」

一瞬、そういう作戦なのかとも思ったが、そうでもないらしい。ナオキ君は目を固く瞑って、体を縮こめている。

「へー こんなにいい景色なのに。ほら富士山もこんなに大きく見えるよ」

「いや無理。目を開けられない」

「もーっ しょうがないなぁ。観覧車が下に降りる前までだけだよ。みんなに冷やかされたりするの好きじゃないんだから」

「大丈夫。4分の3くらいのとこまでいったら平気だから」

私は、ナオキ君の正面の席から、腰を屈めたまま、隣の席へと移動した。

「あーっ ゆっくり。ゆっくりね。揺らさないで。そーっと」

私は極力、揺らさないように気をつけながら座り、ナオキ君の右手を両手で包むように握ってあげた。席の幅が狭く、自然とナオキ君の右足の太ももが、私の左足の太ももから膝にかけて密着した。

ナオキ君は、一度深呼吸するみたいに、大きく息を吐き出した。

「ありがとう。こうしてもらってると、少しはマシになる。なんでもいいから、話しをしていて」

私は少し考えた後、帯広での馬のハナコとのエピソードを簡単に話し始めた。その話しが終わると、ナオキ君はまたひとつ大きく息を吐き、目を開けた。

「ユキちゃんありがとう。ホントに助かったわ。随分久しぶりに乗ったから、もう大丈夫になってるかと思ったけど、全然ダメだった。それより、そのユキちゃんとハナコとの話し、凄くいいね。なんていうか、言葉が無くても通じちゃうコミュニケーションが」

私は元の席に戻りながら話した。

「ありがと。そうでしょ。動物とだと結構通じ会えてるなって時が結構あるのよ。人間とでもそうできるといいんだけどね」

そうこうしているうちに、観覧車は元の位置に戻ってきた。


「なんかユキちゃんとナオキ君、いい感じにまっちゃったんじゃない」

シオリさんにやっぱり冷やかされた。シオリさんはやっと酔いが冷めてきたようだ。

「シオリちゃんは、観覧車の中でずっと叫びっぱなしで、大変だったよ。観覧車が昇りはじめてから、私、高所恐怖症で、観覧車苦手だったーってさ」

シオリさんは少ししおらしく「ごめんなさい。だって苦手なんだもん」と可愛く言った。

シオリさんとマサル君は、まだしっかり手を繋いだままだった。



山の陰にお日様が隠れ始めていた。この辺は四方を山に囲まれているので、日が沈み始めると、真っ暗になるまでが早い。

私達は遊園地を出ると、折角だからと、夕飯を一緒に食べて行く事にした。



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