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◆不確かな約束◆しめじ編 第12章 待ち焦がれた再会


「ちぇっ どういうことだよ」

手帳を破った切れ端には、〈会いたい〉とは書かれていたものの、何処にいるのか、待っているのか とかは何も書かれていない。

〈もしかして、縦読みとかで文字を隠しているとか?〉

とりあえず、左端の文字を縦に読んでみる。

〔シ 念 事 は な か ん〕

???… 全然、意味のない言葉になった。

〈違うかっ〉

その時、突然うしろから人の気配がした。

首だけまわして振り返った。

「シュウ 会いたかった」

後ろから抱きつかれた。

驚きながらも、誰だか直ぐにわかった。

「ユキ…」

「しっ。黙って。10秒間だけ、こうしていさせて」

いきなりで戸惑ったけど、大人しく言うとおりにした。なんだか気持ち良かった。久しぶりに温もりを感じていた。

しばらくそうしてじっとしていると、ユキはゆっくりと僕の背中から離れた。

「ありがとう。突然、こんなこと許してくれて。ありがとう。シュシュを見つけてくれて。ありがとう。ちゃんと来てくれて。ありがとう。約束を覚えていてくれて。ありがとう。7年前の私のわがままをきいてくれて。ありがとう… ありがとう… …」

ユキは最後の「ありがとう」のあと、泣き崩れ、その場にしゃがみこんでしまった。

「ズルいよ。ユキ。先にそんなにありがとうを連発されたら、文句も言えなくなるだろ!」

「ごめん。そうだよね。シュウには私に言いたい事、山ほどあるよね。ホントにごめんなさい」

「いや、先に謝られても、もっと言いにくいわ!」

「そうだよね。ごめん」

「ほらまたー。それにお前、どこから出て来たんだよ⁉ シュシュに訳のわからないメモなんか一緒に置いちゃってさ」

ユキは僕が持っていたシュシュを奪い取り、それで涙を拭くとゆっくりと立ち上がった。

「フフフ、どこに居たかはナイショ。でも、いいアイディアだったでしょ。それにシュウの困ってる顔、かわいかったよ! 体も逞しくなったじゃない。それにしても、このシュシュはシュウと会えない間、私の涙を拭くために買ってもらったみたいになっちゃったよ」

「バカ野郎っ。いいアイディアなんかじゃねーだろ。第一、お前がビルの前で待ってりゃあ、それで待ち合わせできただろ。それに俺はもういい大人なんだから、カワイイとか言うのやめろ。それからそのシュシュ、だからそんなに黄ばんじゃってんじゃねーのか。それからそれから、お前だって胸、少し大きくなったんじゃねーのか⁉」

「もーっ そんなにカリカリしないの。せっかく久しぶりに会えたんだから。でもシュウ、エッチなのは相変わらずなのね。それより、こんな薄暗いところで立ち話しもなんだから、どっかお店入ろう。シュウはお酒飲める?」

「おう。そうだな。まだ全然言い足りないし、お店探そう。酒なら全然飲めるぜ。なんてったって、大学時代に修行したからな」

「ハハハハ。お酒修行したって何よ。変なとこに見栄はるのも相変わらずね。お店なら、近くで良さそうな所見つけたの。カレーが美味しいバーなんだって」

「ユキは少しキャラ変わったんじゃねーのか? 変な冗談みたいな事するし、そんなにズケズケ言うヤツじゃなかっただろ。泣いたり笑ったり忙しいしさぁ」

「まあいいからいいから。さっ 早く行きましょ! 私もうお腹ペコペコ。今日、緊張しちゃって、あんまりご飯食べられなかったんだから」

ユキは僕の腕を掴むと、スタスタと僕を引っ張りながら、一本裏の通りのバーへと入っていった。腕時計を見ると、時間はちょうど18:30になったところだった。



★★★★★★★★★★★★

私は、手帳を破ったメモをシュシュに巻いてポストに掛けたあと、斜め前のビルの階段を上がった。2階まで上がる階段の中途の踊り場の窓から、〔Promised Place 〕が入っていたビルが見えた。

建物の前で待っていれば、シュウがそこに来てさえくれれば、自ずと会える。でも私は急に、シュウが私の事を探してくれる姿を見てみたくなった。

私がそこでシュウの姿を見逃さないように、じっと見ていると、5分くらいでシュウがやって来るのを見つけた。

一昨年の秋にウチの牧場で見掛けた時と同じだ。間違いない。シュウだ。私の胸は高まった。

シュウは2階の店がもうやっていない事を知って、困っている。

〈シュウ、横の通路よ! そっちの通路にに入って行って〉

もう涙が溢れてきそうだった。

シュウはしばらくその場でキョロキョロしながら考えたあと、ようやく2階へ上がる通路へと入って行った。

〈そうっ。シュウ、そこの奥。ちゃんとシュシュを見つけてね!〉

そろそろ自分もそちらに向かおうとした時、涙が出てきてしまった。シュウが自分の事を探してくれていると思っただけで嬉しかったから。これからシュウと話せると思うとたまらなかった。いくら罵られようと構わないと思った。私はシュウが気の済むまで、ひたすら謝る。話しをして、その後どうしようとか、どうしたいというのは無かった。ただシュウに謝って、話しをしたいだけだった。


私はハンカチで涙を拭って、「しっかりしろ、私」と囁きながら、ほっぺを軽く叩いて気合いをいれると、彼のもとへと急ぎ階段を降りて行った。





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