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教授のプロジェクト ~被験者①小春~


ああ、そういえばまだワシの名を皆に伝えてはおらんかったのう。

ワシの名は乾勘吉いぬいかんきちじゃ。学生からは普通に乾教授と呼ばれておる。影では狸じじいなんて呼ばれておるようじゃ。まあ、それでも良かろう。ワシもタヌキは好きじゃでな。ふぉっふぉっふぉ。

ワシは人類学について研究している。人類の成り立ちや、行動について興味をもっておるのじゃ。この大学で研究を進めながら、週に2回ほど講義を行っている。

それからプロジェクトの事じゃが、私が今回、知りたかったのは自然と人間の共存についてなのじゃ。今更、大学でこの事について改めて検証する必要があるのかという意見もあった。じゃがな、ワシはこの事について自分のやり方、そして自分の目で確かめたかったのじゃよ。これを実現させるためにワシがどれだけ学長にゴマをったり、したくもない会食をセッティングしたりして疲弊したことか。いや、そんな事はどうでもいい。次に話を進めよう。

プロジェクトの内容としてはこうじゃ。

まず、大学の裏山の敷地内に、東京ドームのグラウンドとスタンドを合わせたくらいの広さの土地を確保する。ワシは東京ドームには言った事がないし、この広さの例え方は好きではないのじゃが、調べたら丁度このくらいだったから仕方ない。その裏山じたい元々、大学の所有する土地で、たいした使い方はされていなかったのじゃ。

その土地のまわりには柵を立てる。小春にやらせたのは、この作業からという事になる。これだけでかなりの日数を要したのう。

次に、被験者の生活の拠点となる小屋を建てる。これについては、元々の計画では敷地内の木を斬り倒して、自分達で一から作ってもらう予定だったが、小春ひとりしか確保できなかったので、仕方なく木材は買い入れ、敷地まで業者に運ばせた。

ここまでの作業期間では、小春には大学の近くにマンスリーアパートを借り、日の出と共に敷地内に入らせて、夕暮れと共にアパートへ帰るという生活を送らせた。

小屋が出来てからは、敷地内でずっと生活をさせた。ここからが本番と言ってもいいじゃろう。

小春はここで、自給自足の生活が始まったのじゃ。自分で食べるための食料を集め、自分だけの力で生活をしてもらう。この点について、小春自身がとても興味をもったようじゃ。実際には思った以上の苦労があったようじゃがな。ふぉっふぉっふぉ。

ここには小川が流れている。それに食べられる草もある。樹木も当然あり、鳥も住みついている。小動物が現れた事もあったなぁ。ワシは小春へのプレゼントとして、番犬用の柴犬1匹と鶏4羽を与えた。そういえば猫も数匹、敷地内にいたなぁ。

勿論、敷地内にはカメラを数十台設置しておいた。小屋のごく一部だけ写らない場所があるが、それは仕方ないじゃろう。ワシは若い女をスケベな目的で観察するつもりではなかったのじゃからのう。ふぉっふぉっふぉ。

小春には最小限の衣服と頑丈なナイフだけを敷地内へと持ち込ませた。スマートフォンを隠し持っていたが、それは没収した。どちらにせよ、充電できないのだから持っていても仕方ない。

そうして小春は他の被験者が入ってくるまでのおおよそ1年間をその敷地内において、ほぼ一人で過ごしたのじゃ。柴犬には名前もつけて、えらい可愛がっておったのう。ワシは犬の名前は忘れてしまったのじゃが。

とにかく小春は最初は火をおこすことに手間取っておったわい。火をおこせないと、安全な飲み水も空腹を満たすことも、そして暖をとることもできんのじゃからな。モニターの前でワシはよくもどかしく見ていたものじゃ。だけどな、それも新しい被験者が来る頃にはだいぶ手慣れた感じになってきよった。ちゃんと人間は成長するもんじゃの。ふぉっふぉっふぉ。

あの新しい二人の被験者が入って来た時の小春の喜びようは、本当に嬉しそうだったのう。あっ、その二人についてはまた次にしよう。それではこの記録を見ている諸君、また次回お会いするとしよう。




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