【読書感想】ストレスなくして幸福なし『GO WILD 野生の体を取り戻せ!』
啓発本の1つと思って読みはじめた本が、かなり刺さる内容だったため、言いたいことを一気にまとめ上げてしまった。
はじめに、野生とは何かを列挙してみよう。
著者曰く―――――――――
野生は、糖分を摂らない。
野生は、よく走る。
野生は、よく眠る。
野生は、今ここに集中する。
野生は、仲間を大事にする。
野生は、見晴らしの良い自然を好む。
野生は、冒険する。
以上の項目はこの本のチャプターに相当するものであり、と同時に要約にもなっている。以下、これらを野生の項目と呼ぶ。賢明な皆様には、結論だけ見ても、著者が言いたいことが分かってしまうだろう。ハイハイ、野生の項目通りに生きるのが健康に良いと言いたいんでしょうと。これは、概ねその通りである。
ただ、この本は生物学をベースにした啓発本かと思いきや、真面目に幸福論を語った本であると思う。精神的な徳を語った本ではない。誰もが持つ人の肉体の性質を語った本である。よってこの本の要旨は精神論ではあり得ない。
人間がどのようにデザインされているか、進化の過程から帰納的に考えて幸せになる方法を導き出している。その説明と納得させるストーリーに、全てが割かれている。本書に書いてある通りのことを実生活に落とし込んで実践出来れば、QOL向上は間違いない。それだけでも十分有用な書物である。
しかし、それだけでは読み方としてもったいない。ここに私は、本書を貫くキーワードを提示したい。それは、「ストレス」である。この本の一節にこんな文章がある。
私はこの部分にこそ、全ての説明の核があると見る。
人の脳は短時間のストレスを受けるとドーパミンが放出され、そのストレスが解消されると更に多くのドーパミンが放出される。やっかいなことに、人はストレスが無いと幸福を実感できない。
「そんな大袈裟な、幸福は単独で存在しているはずだ」と思うだろうか?幸福感を全て脳内物質に置き換える単純さは置いておくにしても、皆様にも経験があるだろう。
働いた後のビールは美味しい。筋トレ後の筋肉痛に喜びを感じる。長時間かけてクリアしたRPGに感動する……
全てストレスを乗り越えた先にあるはずである。ストレスが無い状態ではなく、ストレスからの解放が幸福への道だと著者は説く。
野生の項目は、人間にとって全てストレスであると言い換えられる。節制する、体を動かす、集中して物事に取り組む、人と会う、自然の中に出かける、新しいことを始める、そして寝ることすらわれわれには小さなストレスになる。何故かというと、全ての項目で他者(の目線)が絡むからである。
ただし、それは福音となるストレスである。言い換えると、報われることが確定しているストレスである。適切に鍛えた(ストレスを与えた)肉体は、超回復により確実に強くなるように。
※ちなみに、筋トレで結果が表れない場合は、何かが間違っている。負荷が強すぎる(または弱すぎる)、休息が足りていない、栄養が足りていない、のいずれかである。この文脈では野生味が足りていないと言えるかもしれない。
ストレスをルールと置き換えて考えてみると分かりやすいかもしれない。例えば、スポーツを極めていくことは、ルールを守るれるように体の動かし方を学ぶことである。そのルールに精通するほど、自由に競技を楽しむことが出来るようになる。あるいは、仕事のことを考えてみよう。はじめは、組織特有のルール、礼儀、文化に自分が合わず、不自由に感じるものだ。だが、スポーツと同様、ルールや礼儀を身に付けるほど、ストレス源が減らずともそれを受け流せるようになり、創造性を発揮しながら働けるようになる。
無意味なストレス、過剰なストレスは人間を破壊するが、適度なストレスと解放のセットは人間を豊かにしてくれる。私たちはストレスなしには、充実した生を実感できないが、それはストレスに流されて生きることを意味しない。重要なのはストレス源をコントロールする感覚であり、適切な配分になるように自分に与えることである。
では、そのために一体何をしたら良いのか?著者は、野生の項目のどれから始めても良いと言う。オススメは「食べ物」と「運動」から変えていくこととしている。自分を変えるきっかけが何なのかは誰にも分からない。
ここで、少々個人的な話をさせてもらいたい。私にとってのきっかけは仲間を大事にすること(同族意識)だったと思う。この本を読む2年半前から、私は友人とルームシェアを続けてきた。今にして思えば、そのことが自分の人生をより健康的な方向に変えるきっかけになっていたと今なら分かる。
ルームシェアをきっかけに、運動習慣を再開できたし、隣人を大切にする感覚を磨くことが出来たと思っている。身近に人がいる環境は、常に適度なストレスを与える。昔はそれが鬱陶しいことで、とてもポジティブな面があるとは信じられなかった。家族以外の誰かと生活することは、文化的な要素であり育むものと知れた。
繰り返しになるが、自分の体を労わり、他者を気にかけ、自然と向き合うことは面倒なものだ。だが、私たちの祖先はそうして過酷な環境を生き延びてきた確かな実績がある。
私たちの体は、祖先の人たちが生きて来た通りに動くと、ポジティブな反応を返してくれる。現代人には究極的には不可能な生き方の中にこそ、生き甲斐が見つかるかもしれない。
最後に2つ注意点を書く。
1つ目。本書はやや極端な書き方も目立つ。例えば、野菜は食べても食べなくても良く、とにかく肉を食べることを推奨している。
ランニングと水分の関係を描写する項目では、水分は出来るだけ取らない方が良い、としている。これらの食事方法は受け入れがたいものだろう。
研究論文が参照されているわけではないので、鵜呑みにするには注意が必要だと思う。自分の体を実験台にして取り入れられる所から徐々にはじめてみることを勧める。これを書いている現在、私は糖質を極力抑えた食事とランニングを1年弱続けている。糖質制限は流行りのダイエット方法で賛否あるが、今のところ健康に不調はない。
2つ目。私はストレスを賛美する勢いで文章を書いたが、ストレスはあくまで肉体にかかる外圧であってそれ自体に善も悪もない。ストレスを受け入れ、積極的に活用していく姿勢が重要だと解釈している。しかし、世の中には肉体を破壊しかねない程の強烈なストレスが存在していることは百も承知のつもりである。そんなストレス源に出会った時は、躊躇いなく逃げて、休息を取ってほしいと願う。