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◆遠吠えコラム・豚はおだてなければ木に登らない~石丸伸二、地域政党設立記者会見を巡って(写真は最近行ったカフェで食べたアップルパイ)

 最後の更新から大分間が空いてしまった。仕事や私事で忙しくてすっかり更新が億劫になっていてたが、今回は一度当ブログでも取り上げたことのあるあの男について、どうしても言いたいことがあり、筆を執っている。

 東京都知事選で小池百合子氏に次ぐ約165万票を獲得してからというもの、浪人中の身でありながら話題に事欠かない男、石丸伸二前安芸高田市長。1月15日に地域政党「再生の道」の設立を記者会見で発表し、今夏に行われる東京都議選へ候補を擁立する意向を示した。

 話題に事欠かない男ではあるが、正直、この男のことをもうできれば今後あまり話題にはしたくはない。可能ならば、このコラムで最後にしたいくらいである。それくらい、不愉快極まりない男が開いた先日の記者会見については、どうしても言っておかねばならないことがある。

 動画投稿サイトで配信されている会見の様子を一覧したが、突っ込み出したら切りがないほど、ひどい内容だった。石丸氏が一度口を開き、舌を回せば回すほど、突っ込みどころは際限なく増えて行く。そんな地獄のような会見で、石丸氏が立ち上げる新党とはつまるところ、(議員選における党員の多選の制限という綱領はあったものの)特筆すべき政策を掲げない組織と言える。

 そんな、およそ政党とも言い難い組織について、紙幅を割いて語るに足ることなど何もない。むしろ、私が今回の件で語らねばならないと思ったのは、新党設立を発表した会見で出席する記者を制限したことについてだ。

 石丸氏は当初、都庁記者クラブ主催で会見を都庁で開催しようとしていた。注目されていた会見なので、クラブ側はフリーランスの記者も含めて会見への参加を容認し、参加資格には特に制限を設けなかった。しかし、会見の日時や場所の情報がSNSで出回ると、石丸氏は当初の方針を転換。都庁記者クラブでの会見の中止を発表。直後に、都内の別の場所で自身が主催する形での会見の開催を発表した。

 石丸氏は、「出席を制限しない」としたクラブ側の方針を問題視。SNS上で会見の情報が出回ったことで、「ジャーナリスト」を自称する人間が際限なく参加する可能性を懸念し、会見への出席者は、「登録者数100万人等、発信力のある媒体」との制限を設けた。石丸氏はことあるごとに新聞社やテレビ局などに対して「オールドメディア」などと激しく批判してきたが、石丸氏の会見は、石丸自身が批判していた「オールドメディア」が主催する記者会見よりも、結果的に閉鎖的だったというのは、何とも皮肉なことだ。

 会見の冒頭、石丸氏は記者会見の情報がSNS上に出回ったことについて、都庁クラブの幹事社である時事通信の記者に「情報漏洩だ」などと問いただした。だが、よくよく考えたら、記者クラブ側としては、クラブ加盟者以外の参加も広く呼び掛けているので、フリーランスの記者も含め一般市民でも何らかの形で会見の情報が閲覧できる状態だったとしても何ら違和感はない。参加者に特段の制限を設けていない以上、会見の情報がSNS上に出回ろうが、時事通信の記者からしたら、情報漏洩などとキレられる筋合いはない。

 ちなみに、参加できなかった記者たちの中には開高健ノンフィクション賞を受賞した選挙ライター畠山理仁氏や、旧統一教会を長年取材し日本ジャーナリスト会議賞や石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞したジャーナリスト鈴木エイト氏などが含まれている。ユーチューブの登録者は100万人には遠く及ばないにしても、実績と知名度に基づく発信力を有している。そもそも石丸氏はこうした人たちがメディア業界で高く評価されていることを知らないのだろうか。開高健とか、石橋湛山とか言われても、ピンとこないのだろうな。教養がなさそうだし。

 石丸氏は日刊ゲンダイの記者から、フリーランスを排除した会見の在り方について疑問視され、「なるべく多くの人が参加でできるようにすべきではなかったか」と問われた。石丸氏はこの問いに対し、「際限なく参加させるのか?」「自分ができないことを他人に押し付けないでください」などとキレ気味に回答した上で、「できる限り多くの人に効率的、効果的に情報を届ける」ために、チャンネル登録者数100万人等といった発信力のあるメディアに限って参加を許容したというのだ。

 できる限り多くの人に効率的に効果的に情報を届けるのであれば、発信者や発信媒体を多くした方がいいではないか。それこそ、扉一枚隔てて廊下に立たされているメディアを今すぐに部屋に招き入れたらよかろう。そんな簡単なこともわからないほど頭が働いていないのが石丸伸二という間抜けな男である。

 加えて、「際限なく参加させろ」という、記者が問うてもない理屈を持ち出して自己正当化を図ろうとしていたが、そもそも、記者会見の日時と場所はあらかじめ特定されている。特定の日時に特定の場所へ行くことが限られる人間は「際限なく」いるわけではないので、石丸の主張は全くの的外れだ。

 会場に訪れた人が会場のキャパシティーが許す限り会見に参加できる形を模索することもせず、手前勝手な線引きをして、質問を受け付ける人間とそうでない人間とを「選別」したことこそが、問題なのである。石丸氏は新党を今後立ち上げ、公党の代表として有権者の意見に広く耳を傾け、情報発信をしていかなければならない。その入り口である新党設立記者会見の場で、早くも質問を受け付ける人間とそうでない人間とを「選別」する。こんな人間に、有権者の意見を広く聞いてさまざまな政策を実現していくことなどこれっぽちも期待できない。

 石丸氏が会見を行った同じ週、フジテレビが、中居正広による女性社員への性加害疑惑問題について説明する会見を開いた。会見の参加者は「ラジオ・テレビ記者会」という放送業界を取材するメディアが加盟する団体の記者のみに限られた。しかも参加する記者はペン記者のみに限定し、映像媒体での報道を規制。テレビ各社がその日の夜に放映した会見の報道は、会見の静止画像に音声をかぶせるという、まるでボラギノールのコマーシャルのような内容だった。

 程度の差こそあれ、会見に招く人間とそうでない人間を「選別」するという点は皮肉にも、石丸氏と共通する。石丸氏は、自身が日頃口汚く批判している「オールドメディア」と同じことをしていることを恥ずかしいと思わないのか。石丸氏を信奉する者たちは、彼のことをまるで新時代の寵児であるかのように持て囃すが、やっていることは、古典的な政治家や老獪な辣腕企業経営者と何ら変わらない。

 そんな石丸氏は会見の中で「日本がヤバい。どうにかしないといけない」と自信満々に口にし、そんな「ヤバい日本」を「再生」させるための組織として「再生の道」なる政党を立ち上げたと語った。だが、記者たちからその「ヤバい日本」をどう「再生」させるのか、「再生」させるための政策は何なのかを問われても、「政策はここでは語らない」などと頓珍漢なことを、これまた恥ずかしげもなく放言した。ふたを開けてみれば全く中身のない会見だったのだ。

 そんな会見に抜け抜けと足を運び、目の前で記者の「選別」が行われているのをしり目に淡々と仕事をこなす記者たちの姿勢も、厳しく問われるべきだと思う。何なら途中ででもいいから退出するなどしてボイコットするくらいの意地を見せてもいいくらいだ。あんな中身のない会見にしがみつく価値などこれっぽっちもない。

 日刊ゲンダイは、フリーランスを排除した会見のあり方について石丸氏を厳しく問い詰めた挙句、「次から日刊ゲンダイは排除しようと思いました。(会場が静まり返る)…冗談ですけどね」と口撃を受けている。今回、晴れて会見に参加できた側の記者だって、いつ排除される側になるかわからない。目の前で記者を「選別」するような人間の横暴を許してしまったことを反省すべきである。

 豚はおだてれば木にも登る。石丸氏のようななめ腐った「豚」が木に登らないよう、激烈に批判し、政治の世界から「締め出す」ことこそが、あの会見で締め出されることがなかったいい大人たちができることではなかったか。
(了)

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