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『日向坂で会いましょう』ヒットキャンペーンで描く日向坂46のモザイクアート
今回も『日向坂で会いましょう』おもしろかったですね。
こうして長い間番組を見ているとメンバーだけでなく企画の変化に気づくことがあり、最新回の記事を書く際にわたしの過去の記事が役に立ったりすることがあります。主軸がかたく決まっている企画ほどコンセプトやモチーフ、収録参加メンバーなどの横軸によって同じ構造でもその時々の世相を見せてくれます。
そういう点においては新曲リリース時にかならず行われるヒット祈願企画はその時の日向坂46の世相をよく表しています。そしてそれらを連続して見つめてみると世相によって企画が少しずつ訂正されていく様子もうかがうことができます。それを踏まえて今回の【13thシングル「卒業写真だけが知ってる」ヒットキャンペーン!】はどういう世相を映していたのか、わたしなりに見ていきたいと思います。
まずはヒット祈願企画の軌跡をおおまかに振り返ってみましょう。さかのぼること前身番組『ひらがな推し』から『日向坂で会いましょう』初期。バンジージャンプや駅伝やドラゴンボートなど、体当たりチャレンジが続きました。肉体的に過酷なチャレンジングに直面した彼女たちの相互扶助の温かみは彼女たちのアイデンティティの地盤となりました。
3rdシングルのヒット祈願では1カット撮影でメンバーの挑戦を連続成功させていくオリジナルPVを撮影しました。ひとつの目標へ敢行する彼女たちを応援しながら一方で、アイドル番組を見てこなかったわたしはヒット祈願企画が茶番という意識はありました。
そもそもこの番組を見ているほとんどの人はファンであり、CD予約の手を多少力ませることができるくらいで、売り上げ貢献としては微々たるものだとしか思えませんでした。当時の日向坂46の上り調子はルックスやテレビ露出によるもので、つまりこれは人気の上昇気流に乗せた「アイドルの頑張り=CDが売れた」という図式付けであり、実質的な効果を望むものではない茶番だと、そう思っていました。テレビショーだからそうであって当然だとは思いますが、彼女たちの頑張りが浪費される(ように見える)ことにどうしても納得はできませんでした。
つぎの4thシングルで転機が訪れました。今日のスタンダードになった「ヒットキャンペーン」という概念がここで初めて登場したのです。想い人を肯定する歌詞になぞらえて、日向坂46がとある高校に直接赴き、昼休みの校内放送でお悩み解決ラジオを放送。放課後には生徒の前で「ソンナコトナイヨ」をパフォーマンスするキャンペーンを行いました。
より具体的で効果を望めそうなこのヒットキャンペーンはわたしの不満を吹き飛ばしてくれました。過度な負担を強いることをよしとしない社会情勢によるものか、彼女たちのグループカラーにふさわしいものを選択した結果なのか、ともかくここから『日向坂で会いましょう』のヒット祈願企画はヒットキャンペーンへと訂正されることになりました。(物議を醸したチアリーディングなどのヒット祈願の数々はここでは省略します。)
時は現在に戻って。東京都内にあるラジオ局に営業回りをした「ラジオオブトーキョーPR大作戦」と銘打たれた今回のヒットキャンペーンは凝りに凝った映像で演出されていましたが、ソニーの営業担当者が実際に取り組んでいそうなダイレクトマーケティングのそれだったと思います。
ここで日向坂46のメンバーの立場についてひとつ当たり前のことを押さえ直したい。彼女たちは自分自身が商品であり、かつ自分自身を売る営業でもあるということを。
サブスクで音楽を聴くことがメインストリームの現代で、日向坂46は交流イベントを特典にすることでCDを販売している状況です。死語かもしれませんが、AKB48全盛期世代なのでイベント参加券をここでは握手券とさせてください。
この握手券のなかでも、個別握手会への参加券はあらかじめメンバーを指定して購入することになっています。オンラインのミート&グリート(ミーグリ)に参加したことがないので少し違うかもしれませんが、だいたい合ってるはずです。
おそらくですがこの個別握手券の売り上げによって個人の評価が行われており、少なくともファンにとってこの個別握手券の売れ行きが彼女たちの今後に直結していると考えられています。少なくともこの売上がフォーメーションにおけるポジション決めなどに全く影響してないとは言えないでしょう。
それを彼女たちも十二分に意識しているため、新曲リリースの時期には必ず個別握手会のお知らせが各自盛んに行われます。実際、わたしが購読している高瀬愛奈のメッセージ(アイドル個人のメルマガを読めるサービス)でもそういった発信がなされてきます。
彼女たちがこの時代にナンセンスなCD販売をするのは、日向坂46が所属する合同会社seeds&flowerがソニー・ミュージックエンタテインメントのグループ会社であることが要因として考えられます。要するにソニーの会社員としてソニーが発売するCDを販売する業務をしている、ということが考えられます。日向坂46メンバーは日向坂46のアイドルとしての自分を会社員として自分を売り込んでいる、そういう二面性を持っていることになります。
さて、その性質を『日向坂で会いましょう』の今回のヒットキャンペーン企画に沿わせてみると、実に現実的な企画内容だったようにも思えてきます。「レコード会社の営業担当が実際に取り組んでいるダイレクトマーケティングのそれ」と先述しましたが、まさしくそうだといえそうです。実効的な企画を目指したヒットキャンペーンの1つの究極でした。
ここまでヒットキャンペーンを通じて社会人としての彼女たちを考えてました。偶像を崩壊させかねない事を言ってきましたが、実直な営業活動の現実味のなかで、それでも感じ取ってしまうのは彼女たちのアイデンティティだったことでしょう。
ダイレクトマーケティング、交流によってひとに直接売り込むことです。アイドルが自ら直接放送局や生放送の現場へ突撃する強引な手法だったけれど、今回彼女たちが売ったのは新曲であり彼女たち自身でもあったと思います。残念ながら聞けずじまいでしたが、ラジオを通じてパーソナリティやリスナーに歌声だけでなく、アイデンティティをのせた肉声を届けてきたのではないでしょうか。
今回のキャンペーンで日向坂46が売り込んだのは、新曲が入ったCDだけにはとどまらず彼女たち自身でもあったのかもしれません。ファンが交流イベントを通じて感じていた感触のような、もしかしたら日向坂46という人物を売り込んだキャンペーンになったのかもしれません。
ヒット祈願企画では常に日向坂46(けやき坂46)という人物像を描いてきました。それを踏まえてさいごの、突如あらわれた卒業する1期生3名が描かれたモザイクアートを考えてみると、1期生から始まり今回のキャンペーンや『ひなたフェス』などで長い年月をかけておおきく行きわたった日向坂46の温かみによって出来上がった結晶、というコンセプトが読み取れそうです。まったく予想だにしてなかったモザイクアートに笑ってしまったけどそういうことなら大変素敵な作品だったと思えます。
今回のヒットキャンペーンはとてもおもしろかったです。どうか彼女たちの努力が報われますように。
(おしまい)