グラタンでしょうか、いいえ誰でも
弟はブランコに乗るのが好きだ
ひとりで漕ぐのも好きだが
みんなで漕ぐのも好きだ
ただ、いつもとなりの子にぶつかってしまう
そしていつも同じことを言う
「縦に漕ぐんだ」
弟は知らない
カニが横に歩くことも
香車がまっすぐしか進めないことも
おっとっとの塩味は絶妙ってことも
調理実習というものがある
そこはピーマンと肉が
無差別級の試合をするわけでもなく
ハゲワシに頭をつつかれるわけでもなく
抱きしめ合う世界だ
この日、弟はパフェを考えていた
「こりゃフーディンも匙を投げるぞ」
そう思ったときにはもう
フルーツが肩でバウンドしていた
こういうときの弟は怖い
弟はキレるとグラタンを投げつけてくる
それもアツアツのだ
アツアツにするまでタイムラグがあるが
トースターの前で
泣きながら待っている
そしてひとたびアツアツにすると
鍋つかみで素早く取り出し
周りに小さい子などがいないか確認して
思いっきり投げつけてくる
そして
まるで「許されない恋みたいだ」と弟は言う
博士は言った
「花束を投げつけておくれ私の心臓に」