お殿様の草履
むかし、あるえらいお殿様がいました。
お殿様は一年中お城で過ごしていたのでだんだんとあきてきました。
食べるものや寝るところ、欲しいものはなんでも手に入ったのですが、つまらなくなってしまったのです。
そこで、お殿様はお城を抜け出して城下町に出かけることにしました。
しかし、家来たちはお殿様が城下町に行くことに大反対でした。なので、家来たちはお殿様がお城を抜け出さないように寝る時以外はつきっきりでした。
ある夜、お殿様はどうにかお城を抜け出せないか考えました。
そこで、ふとむかしお殿様のおじいさまから何か困った時にあけるようにいわれた箱のことをおもいだしました。
そして、引き出しから箱を取り出しました。
箱の中には、草履が入っていました。
その草履をはいてみると、不思議なことに宙を歩くことができたのです。
「不思議な草履じゃ。しかし、これで城下町に行くことができる!」
次の日も家来たちはお殿様にぴったりとくっついて歩いていました。
しかし、お殿様はあの不思議な草履をはいています。お殿様は頃合いをみて、開いている扉にむかっていきました。
そして、見事に宙を歩いてお城を抜けることができたのです。
驚いたのは家来たちです。
「殿が空を歩いていらっしゃる!どこへ行かれるのですか、殿!」
「ちと、城下で行ってくる。すぐ戻るので心配するな」
お殿様はうきうきしながら宙を歩きました。
ゆっくりと城下へ降りたお殿様でしたが、なんだか城下町の様子がおかしかったのです。
人の気配がなくて静まりかえっていました。
「おかしいの。城下とはにぎわいがある町と聞いていたのだが」
お殿様は町の様子がきいなったので、こっそりと近くのそば屋をのぞいてみました。
すると、そこには、空腹で今にも倒れそうな主人がいました。
「どうしたのじゃ!何があった?」
お殿様は主人を抱きかかえて聞きました。
「お、お殿様。じつは、今年は米の収穫も少なく、日照り続きで野菜もろくにとれない始末。とうとう町に食べ物がなくなったのです」
主人は力なく話しました。
「なんじゃと!ぬぬ、少し待っておれ」
そういってお殿様は、宙を走って、お城に戻りました。
そして、すぐに家来たちを集めました。
「よく聞け!いま、城下の民は飢えに苦しいでおる!わしと家来たちの最低限の食料を残し、残りの水と食料をただちに城下へ持っていく!意見は許さん!」
お殿様のあまりの迫力に家来たちはすぐにしたくをしました。
お殿様も草履をはいて荷物運びを手伝いました。
このお殿様の行動のおかげで城下町がまたにぎやかになっていきました。
城下町では、空からお殿様がくるとみんなが笑顔になるのでした。