不登校の欠片
今でも忘れられない思いがある。
うちの息子はあまり笑わない。小さいときはにこにこ笑う優しい男の子だった。
もともと新しい場所や環境が苦手な子だった。
それが小学校2年生で学校に行くのがしんどくなった。はじめての男の先生。うちの子には合わなかった。
毎日泣きながら学校に行く。仕事の関係で朝早く送ることしかできず、その先生しかいない教室に子どもを置いてくる。
私も泣きながら職場までの車をとばす。
好きなものを食べさせようとしたり、好きなゲームを買ってあげようとしたり、行きたいところに連れていこうとしたり、でもそんなものは彼には意味がなかった。
全部、「今はいらない」とこたえた。
彼は少しずつ成長して、1年経つ頃には一人で学校へ行くようになった。
ただ、話さなくなった、笑わなくなった。何かをあきらめた。誰よりも早く大人になった。
今でもその時のガラスの欠片が私の心にある。彼の顔色を気にしてしまう。少しでも気になることがあると心の欠片が騒ぎ出す。
彼も高校1年生。そろそろ信じてあげないといけない。
でもあの時の彼を抱きしめてあげることはできない。