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何もかもがわからないままでも、見るしかない宮﨑駿新作「君たちはどう生きるか」見た

君たちはどう生きるか/2023年製作の映画
鑑賞:2023.7.15 記事公開:2023.7.16
監督・原作・脚本:宮﨑駿

ツイッターのタイムラインが鑑賞報告で賑やかなのでネタバレの前の劇場へ。何もわからないものを見るというのは貴重な機会なので楽しみ。
宮崎駿作品は大体鑑賞済み。好みとしては、狂気のヴィジュアルが展開されるので「崖の上のポニョ」。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  ネタバレあります ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「風立ちぬ」での有終の美が素晴らしかったので、何がくるか予想もつかないまま開幕。
初めは、正面から扱うことを避けていた「戦争」をついにやるのかなと思ったけど、そういうわけでもなかった。

個人的な受け取りとして、「風立ちぬ」はアニメーション作家宮崎駿の総まとめで、今作「君はどう生きるか」は宮崎駿個人の、もっと言えば宮崎駿の元になった駿少年の総決算のように受け取った。
表現はポニョに近く、駿少年の目線で捉えた世界が目くるめくアニメーション世界として展開しているのかな。と。
これまで、ジブリの作家として宮崎駿個人としての呪い?側?エゴ?のような縛り付けていたものを、ここまでで爽快に葬り去ったあと、大芸術家宮﨑駿としての作品がもうひと花咲くのではないかと思わずにいられない。
また、今作に関してはジブリ=鈴木氏は手綱をにぎっておらず、「最後だし好きにやっていいよ」と企画はもちろん宣伝や公開の仕方までご本人の意向で運営されているように思う。作家の作る表現作品なので結果を興行収益の高低だけで価値づける必要もないけど、今作はちょっと楽しみ。もし、過去いち収益が出たら、今までの鈴木敏夫さんの考えは違ってたってことにもなりかねないので。

作品としては、物事の価値付けがなされていなかったのは面白かった。今起きていることが、いいことなのか悪いことなのか。青ザギは嘘つきだけど敵か味方かははっきりとしない。それは何についてもそうで、一見恐ろしい生き物もだからと言って悪いものとして描かれていないし、音楽も良し悪しが伝わるような使い方がされていなかったように思う。
結局は物語と始まりで何が変わったかわかりづらいし、いいエンディングなのかもわからない。それでも作品は、真人を通して観客の中に何かは植えつけてい多様にも思う。多分それは「俺はこういう風に生きた、君たちはどう生きるか」というところではないかと受け取った。

それにしても、セキセイインコたちの悪夢感がたまらなくイイ。可愛いのか怖いのか、残酷なのか間抜けなのか。画面に所狭しとひしめき合い、丸い目玉をキョロキョロとさせ件を持って見張りも厳しいが、鍋を被っただけで気づかなかったりもする。

7人の老婆たちやお墓の主、あそこは地獄なのか異次元なのか。答えがあるかはわからないが、あれこれ想像を披露し合うのは楽しそう。家人が、アオサギは鈴木敏夫だって言ってた。そんなに単純なものでも無いだろうと口ではいったが、聞いてからそれ以外考えられないくらいハマっている。アオサギは鈴木敏夫だ。
キャスティングはすごく豪華。アオサギが菅田将暉だったのは意外。火野正平もクレジットされてたけど何の役だったんだろう。若い日にはピンと来ないだろうけど、宮﨑駿の世代に人気があるのは頷ける。

宮﨑駿はモチーフとして風や波、船や飛行機、をずっと扱い続けてるなと思った。それは、原初的な人間の営み、産業革命(飛行機も凧や工芸作品的だし)以前の人の暮らしが見えるのは面白い。宮﨑駿の映画で、パソコンや携帯をいじっている人を見かけた事はないのは、わざわざ排除してるのかそもそも頭にないのかは興味深い。
パソコンを使わない事で産まれる時間や作業はどんなものかしらと想像するのも面白い。
ただ宮﨑駿の場合、誰かが代わりにパソコンを使っているという事態が発生するのも面白い。今回宣伝もしてないパンフレットもないというのは、案外そういう現代の過度に商業至上主義な世の中に抵抗したかったのではないかとも思う。

死への距離感みたいなものも過去作品とは感触が違う捉え方をしているように見えて面白い。直接的に「いつか確実に来る死」について描かれていたと思うけど、見ていて怖かったり考えたくないとは思わなかったので、後悔のない人生を送ったのかと思う。もしくは、後悔も含めて人生を受け入れたということか。

価値付けがされていないので、何を受け取ってイイかわからない作品。子供は見ても楽しくは無いだろうし、あんまりジブリとしては嬉しく無いだろうけど、作って頂いてありがたい。子供も年をとったら面白く見れるんだから、今面白くなくてもいいと思う。

関連感想

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