クリストファー・ノーラン監督作、アカデミー賞7部門受賞と話題しかない!「オッペンハイマー」見た。
Oppenheimer / 2023年
鑑賞:2024.19.29、記事公開:2024.4.20
監督・脚本:クリストファー・ノーラン
ノーランの新作なので何はともあれIMAX鑑賞は決定。ただタイミングが合わないうちにコナンが始まって諦めかけてたけど間に合った。
予告は「フェリオサ」、「ゴジラxコング 新たなる帝国」、「猿の惑星/キングダム」、「クワイエット・プレイス:DAY 1」、「デッドプール&ウルヴァリン」と中学生の自分なら興奮して朝まで寝られなくなるようなタイトルが目白押しで、「オッペンハイマー」が始まった時びっくりした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ネタバレあり!※ ※ ※ ※ ※ ※
凄い人生追体験映画か?
全然調べてなかったけど、大きな題材としては完全にアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーさんの伝記。もちろん原爆開発は大きな比重を占めるけど、それも含め学者が背負う名声と責任にフォーカスされた感じ。
見どころとしては、「それまで人類が経験したことのない想像を絶する大量破壊兵器を生み出すことの葛藤」というようなものの片鱗を擬似体験できるだと思う。これはこの映画でしかできない体験だと思う。過去作でいうとダンケルク的なアプローチだと思った。トム・ハーディの戦闘機のシーンは長回しと音が生っぽいこともあって、まるで一緒に戦闘機に乗っているような緊張感だった。
映画としての楽しみもそういう体験感だと思う。戦闘機や「ゼログラビティ」の宇宙空間サバイバルのようにアトラクション的体験感ではなく、社会的責任や職場の人間・愛人関係の葛藤などあんまり嬉しくない体験なのは面白い。アメリカでは興行成績もよかったみたい。ホラー映画もそうだけど、嫌な経験をエンタメとして楽しむ人間の嗜好というのは面白い。
豪華で新顔なキャスト陣
今作は次々と現れるスターたちにうっとりするのも楽しい。ラミ・マレックはちょっと突然でびっくりした。良かったのはデイン・デハーン君。久しぶりに見たような気がするけど、凄いハマった存在感で良かった。鋭い目つきが容赦無い感じで君こんな適性あったのか。と。フローレンス・ピュー様は声を聞くだけで嬉しくなってしまうけど、今作の聴聞会でのシーンはかなり笑った。よくあんなシーン思いついたな。ノーランにあんな変態な感性があったとは思わなくてびっくりした。
クレジットで確認出来なかったけど、大統領ってゲイリー・オールドマンかな?そうは見えなかったけど、ゲイリーオールドマンだから何があってもおかしくはない。
メインのエミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.もちゃんとその年代の人ぽく見えて凄い。
キリアン・マーフィーは初めて見た「28日後…」から思い起こすとこんなところまで来たのかと感慨深い。
「苦悩」や「葛藤」と言葉にすると簡単だけど、そこを説明ではなく絵と音楽と芝居で見せてくる本作は役者力も見所の一つ。エミリー・ブラントのキャラクターも明確な性格づけをされておらず彼女なりの葛藤が伝わってきてよかった。
テネットで初参加のエリザベス・デビッキ様のお姿が拝見できるかと思ったら出てなくて残念。そもそも引き続きのキャストは少なかった。メインどころではマイケル・ケイン枠で3作目のケネス・ブラナーくらいかな。
いつもの中二病映画では無かったしアクションシーンがないから、佇まいや存在感重視だとこんな感じになるのかな?
クリストファー・ノーラン監督ありがとう!
チャレンジとしては、3時間のほとんどのシーンが会話議論状況で構成したのは凄いとおもう。トリッキー過ぎたテネットの反動だろうか。この題材で楽しい要素はなく緊張感の続くお話を3時間集中させる物語力は、ちょっと別次元に行っちゃってる気がする。
クリストファー・ノーラン監督の“核心を持って映画表現の先頭を走り続ける”ようなスタイルも面白い。未知の領域なのでどこに向かっているかは判らないけれど、力強く元気に作品を作り続けて頂いているのでありがたい。
お話的には、戦後になってマンハッタン計画中のオッペンハイマーの背信を審査する過程として、彼の業績を俯瞰して追って行くことで、葛藤を追体験するような感じ。
登場人物が多くて誰が誰だかわからなくなる問題は、早々に諦めた。そこはもうしょうがない。何と無くで。
その延長でミステリー要素として、彼がスパイだったかどうか問題が、いまいち把握できなかった。というか、「シーツをしまえ(だっけな?)」はミスリード要素でよかったのかな?
原作は是非読みたい。
ウィキでオッペンハイマーの項目を読んでおくくらいはしたほうがよかったかも。それと、ロバート・ダウニー・Jr.演ずるルイス・ストローズさんも。ストローズはオッペンハイマーにと対峙して状況を仕掛ける側なので、人柄と立場、目的が分かると映画全体が掴みやすい思う。
ラストシーンってなんだったの?
最後のアインシュタインとのシーンはどういう意味だったんだろう。
ルイス・ストローズが自分の悪口を言いふらしてると誤解した場面ではあるけど実際は……
というところだけど、オッペンハイマーは「核反応によって世界が滅ぶ可能性を握り潰して計画を進めた」とアインシュタインに告白した。ということだろうか。あまりの出来事にアインシュタインはルイス・ストローズどころでは無かった。と。
相変わらず斬新な音楽
音楽は今回ハンス・ジマーじゃ無かったみたい。テネットからのルドウィグ・ゴランソンさん。けれど、相変わらず面白い使い方で斬新だった。題材上、行動や出来事にポジティブやネガティブというような価値観の方向付けはできなかったと思う。劇中で起こることが良いことだったのか悪いことだったのか。映画サイドは誘導しない。そのための音楽だったと思う。ダークナイトのジョーカーのテーマから、不快感をとったような、主張はしてこないけど緊張感を煽るような音楽。心地よいシーンはないのでメロディらしいメロディもあんまり無かったんじゃないだろうか。
例のアレ
原爆については、やはり当時の世界情勢や個々の立場など事情が重なり合って起こったことで、原爆そのものを周辺事情から切り離して言及する意味はないように思う。それは最近の“戦争”に対しても。原爆も戦争もやりたくてやる人はいないんだと思う。けれど、国益のようなものを預かる立場の人が、その責任を全うしようとするときの選択肢の一つとしてあるんだろう。「戦争は悪い」だから「戦争反対」で解決はできてこなかった。きっかけや理由が「戦争」の悪さにあるわけではないので。
多分そういうようなことを考えるきっかけになるように撮られたのが今作「オッペンハイマー」だったんじゃないかと思う。
2024年現在のロシアを見ると、当時ソビエトだけが核開発に成功していたらどうなっていたか興味深い。