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総理大臣のいない国家、それが日本!!(憲法夜話)⑧
なぜ?小泉首相は外相更迭を躊躇したか?
さて、かくのごとく戦前の日本でも「大臣の命令は絶対である」というルールは現実に行われたていたわけだが、なぜ、その常識が今の日本では行なわれなくなったのか?
そして、どうすれば、これを正常化できるのか?
この問題は様々な角度から議論されるべきだし、もちろんそうするつもりであるが、まず現行の憲法と直接関係するところから述べていきたい。
田中外相更迭事件では田中外相に対して外務省の官僚たちは徹底的に反抗した。
これはまさに反逆と言ってもいい大罪である。
だがその一方で、その田中外相が今度は小泉総理大臣の指示に従わずに「暴走」する事態がしばしあった。
つまり、田中外相は小泉総理大臣に対して重大な反逆を行っていることになるわけだ。
ところが、その反逆者たる田中外相を小泉首相はなかなか更迭できなかった。
これもまた、憲政の常道(デモクラシーのルール)から考えれば、まことに由々しき事態である。
だが、憲法の条文をつぶさに検討してみると、これは田中外相ひとりの問題、あるいは小泉総理大臣ひとりの問題ではないことがわかる。
つまり、これは現行の憲法そのものに大きな欠陥があるからこそ起こった問題なのである。
というのも、今の憲法の規定に従うかぎり、内閣総理大臣というのは自分より部下であるはずのヒラ大臣たちを反逆の罪で簡単に首が切れない仕組みになっているからである。
小泉首相は結果的には田中外相の首を切ったわけだが、本当ならもっと早く彼女を更迭すべきだったという意見が根強い。
しかし、それがなかなかできなかったのは、小泉首相が優柔不断であったり、田中外務大臣に対する支持率が高かったというだけではなかった。
憲法のシステム上、できないのである。
首相の解任権というのは、きわめて制限されたものになっているからだ。
日本における総理大臣の地位というのは、戦前の憲法の頃から奇妙奇天烈テケレッツのパであった。
そもそも明治憲法には、内閣総理大臣という単語そのものが一つもなかった。
内閣総理大臣の規定がない憲法!!
これはまるでアメリカの憲法に大統領に関する規定が欠落しているようなものだ。
「こんな憲法は欠陥憲法だ」と誰もが騒ぐに違いない。
ところが、明治憲法はまさにその「欠陥憲法」であったのである。
つづく
【参考文献】『日本国憲法の問題点』小室直樹著 (集英社)