ユダヤ人の受難のパワー(なぜロスチャイルド家が誕生したのか?)⑥
ローマ法王が接見
ナポレオンが敗北し、王制が復活して反動の時代がくると、昔ながらの反ユダヤの動きも息を吹き返してきた。
せっかくユダヤ人に認められた平等の権限も、国によっては白紙撤回されてしまう。
このときロスチャイルド一族はナポレオン戦争の間に築いた巨大な財力を武器に戦いを挑んだ。(アーヘン会議)
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この会議で勝って神聖同盟の銀行の地位を確保したロスチャイルド家はオーストリア帝国に大々的に融資して貴族に叙せられたが、王家ハプスブルグ家のオーストリア帝国はヨーロッパで最もしきたりにうるさいところで、ユダヤ人が貴族になり、紋章をいただくなどということはそれこそ破格の出来事だった。
一般のユダヤ人にはまだ市民権さえなく、賎民としてうめいていた時代である。
帝国では公的職業に就くことができないのはもちろん、結婚するにも特別許可を求めなければならないし、外国籍ユダヤ人は短期滞在しか許されなかった。
このためロスチャイルド家はウィーン進出を躊躇していたのだが、アーヘン会議以降、同家が実質的に神聖同盟諸国の銀行になったことでオーストリア側から特別に滞在許可を出すと言ってきた。
ウィーンに向かったのは次男のサロモンである。
ユダヤ人は不動産を取得できないという法律のために当初はホテル住まいをしなければならなかったけれども、愛想のいいサロモンはホテルを借り切って豪華なパーティーを行ってたちまち社交界に溶け込み、最後には土地所有の権利を獲得して帝国最大の地主になる。
1832年にはイタリアでもっとも大変なことが起きた。
ナポリに駐在するようになった四男カールは、ローマ法王庁に治安維持の軍隊のための費用を融資してグレゴリウス16世から勲章を受け、その手にキスをした。
この接見は当時の社会に大きな衝撃を与えた。
ユダヤ人が改宗もせず、法王に親しく謁見を許されたことは、これまでの常識から考えて素っ頓狂な事件だったのである。
反ユダヤの先頭に立っていたカトリック教会がこうした変化をみせたのは、1830年の7月革命後のフランスでユダヤ教徒がキリスト教徒と平等に扱われるべきだとの提案が行われるなど、ユダヤ人の権利回復がヨーロッパ各地で一段と進んでいたことも影響していたかもしれない。
だが、ロスチャイルド家が国家財政をも左右する財力で、ユダヤ人に対する差別をなくそうと努力を重ねていたことも確かだった。
何事につけ慇懃なイギリスにはユダヤ人を身分的に差別する特別な法律はなかったが、実際には一般市民と隔てる厚い壁があった。
すべての公職に就くにあたって「キリスト教徒の真の信仰に誓って」と宣誓しなければならなかったのだ。
この宣誓は大学での学位取得や選挙への立候補にまで必要とされていたために、ユダヤ人は大学に入ることさえできなかった。
金融王ネイサンは金融街シティでこそ大物とみなされていたが、財界の外での影響力は限られていた。
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その怒りが爆発したことがある。
1820年代のことだが、ネイサンの甥ベンジャミン・ゴムベルツがロンドンの保険会社に入社しようとして、ユダヤ人であるために断られた。
ネイサンは早速アライアンス火災生命保険、アライアンス海上火災の二つの保険会社を創設(後に合併)、ゴムベルツをその経営者にして、当時、寡占体制にあった保険会社に激しく競争をいどんで派手なしっぺ返しをしたのだ。
このアライアンスは今でもロスチャイルド家が筆頭株主であり、ヨーロッパ最大の保険会社にまで成長している。
ネイサンの息子ライオネルは、ユダヤ人に対する差別が我慢ならず、1847年、敢然と壁に挑んだ。
資格が無いのにロンドンの金融街シティから立候補し、当選したのだ。
このときは伝統的な貴族達の反対のために議席に座ることはできなかったが、ライオネルはひるまず11年間に渡って戦い続ける。
1858年、ついに下院で宣誓の自由、すなわちキリスト教徒のように新約聖書ではなく旧約聖書でも宣誓していいという変更を獲得して議員になった。
下院議員になってからライオネルは一度も演説をせず、議員活動をしなかった。
彼としてはユダヤ人を阻む下院の宣誓のしきたりを粉砕しただけで、ひとまず鉾をおさめ他のである。
だがロスチャイルド家の差別撤廃の戦いは息子に引き継がれ、イギリス上院はそれから27年後の1885年に、初めてユダヤ人のナサニエルを貴族とし、議員として認めた。
その宣誓にはヘブライ語の旧約聖書が使用された。
・・つづく・・
次の記事(ポグロムへの復讐)
【関連記事】『ロスチャイルドって一体何者?』(有料)
【参考文献】『ロスチャイルド家』横山三四郎(講談社現代新書)
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