ユダヤ人の受難のパワー(なぜロスチャイルド家は誕生したのか?)最終章
新時代のアラブとイスラエル
イスラエルとアラブの戦いは1973年の10月の第四次中東戦争以降、キャンプデービッド合意でエジプトとイスラエルが和解したこともあって全面戦争は回避されている。
とくに冷戦後はパレスチナ解放闘争の後ろ盾だった共産圏諸国が消滅し、また湾岸戦争でアラブ陣営が分裂したことからユダヤ国家の存続に有利になったと見られた。
こうしたイスラエルを巡る新しい国際情勢の中で1993年9月、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)との間でパレスチナ暫定自治協定が結ばれ、イスラエル建国以来のパレスチナ人とユダヤ人の憎しみ合いに終止符を打とうとした。
1994年度のノーベル平和賞がアラファトPLO議長とラビン・イスラエル首相、ペレス同外相の三人に贈られたのはこの決断に対する褒賞である。
中東和平の前進を受けて、イスラエルは中東自由貿易経済圏構想を打ち出した。
アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、ハーヴァード大学などの学者グループがまとめたこの構想は、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの東地中海地域を、敵対のない自由貿易経済圏に変えることを呼びかけたもので、計画が軌道に乗ったらこれを順次エジプト、レバノン、シリア、サウジアラビアなどに広げて行くことも提案した。
この構想を下敷きにアメリカ、ヨーロッパ諸国、日本などの支援国と中東・北アフリカ諸国は94年11月、モロッコで経済会議を開催して「中東・北アフリカ地域に人、もの、金が自由に往来できる経済共同体を創る」と謳ったカサブランカ宣言を採択した。
同宣言はまた中東開発銀行の創設や常設事務局(モロッコ)の設置も決め、中東改造計画が単なる机上論ではなく、具体化のため巨額の資金の投入と手間を惜しまないという決意を明らかにした。
またイスラエルは経済発展の起爆剤として、死海とアカバ湾を結ぶ長さ100キロメートルの運河掘削など150件ものプロジェクトを提案してた。
死海は海面より394メートルも低く、近年はヨルダン川からの取水のために年々、水量が減ってきている。
ここに海水を引いて発電を行い、淡水化して灌漑にも利用しようとする工事は“現代のピラミッド”の建設ともいうべき大規模な事業になることが予想される。
19世紀にその資力を駆使して何度か平和の確保に動いたように、平和と建設はロスチャイルド家の得意とするところだ。
まして今回はイスラエルの存続を恒久的なものとするためのものである。
カサブランカ経済会議に2000人もの政財界人が参加したと伝えられるところをみると、パリとロンドンのロスチャイルド銀行、その傘下の企業群はなんらかの形ですでに出動しているものと思われる。
だがその一方で、中東ではイスラム原理主義勢力が急速にその影響を広げている。
イスラエルとアラファト議長が暫定自治で急ぎ妥協した背景には、PLOの組織が、さらに過激な闘争方針を掲げる原理主義組織ハマスに侵食され始めたことに対する懸念があったとみられる。
イスラム原理主義者はPLOのようなパレスチナ人の祖国回復のみを願う民族主義者ではなく、宗教と政治を一体とする祭政一致のイスラム国を目指している。
コーランに基づいた祭政一致の政治は西欧的な宗教分離の政治体制を否定しており、必然的に既成の政治と激突する。
そして、いずれは隣接するヨーロッパとの文明の衝突が避けられなくなることが予想される。
ユダヤ人の夢を実現したかに見えたイスラエル建国は、アラブとイスラエルの果てしない争いを誘発して、今日もなお完全には収まる気配をみせていない。
ロスチャイルド家はこれまで見てきたように二世紀以上にわたってユダヤ人の権利回復と安住の地の建設のために努力してきたが、その戦いはまだ道半ばなのかもしれない。
ユダヤ問題は中東に舞台を移してなおも世界を揺るがそうとしており、そのど真ん中にロスチャイルド一族は込まれているのである。
・・おしまい・・
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【参考文献】『ロスチャイルド家』横山三四郎(講談社現代新書)
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