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うみのふちでまつふたり(屋久島にて)


ふぉん ふぉん……
海辺を巡る光の帯のした
 
砂浜にふたりは座っていた
しずかに
決してじゃまにならぬように
 
(……1度の産卵で100個以上の卵を産み……砂浜では人間による卵の捕獲が……多くはカニ、キツネ、鳥などに襲われ……)
 
闇の中からひびき寄せる
波の音が耳を奥まで洗う
そして あたたかな囁きが
 
いともかしこき海の主たち
今宵この地で 卵を産む
 
(……三畳紀末に湿地帯に生息していた種の子孫……約1億1000万年前頃に現在の姿になったと考えられており……)
 
砂浜にふたりは座っていた
ぴったりひとつにまとまって
 
 
ふぉん ふぉん……
灯台の明かりに露わにされ 
また隠され
 
寄せては返す 密かな囁き
指から指へ伝えあっていた
 
(……衛星で追跡したところ、太平洋を横断して7000キロに渡って移動し……)
 
誰が見ていたのだろう
46億年の縁で
ふたりがひとつにまとまって
 
ただ待って
待って
待っていたのを
 
 
 
 


屋久島3日目の夜はウミガメ観察会に参加した。
永田浜。宿からは逆側にあたり、Rが夜に一生懸命、島半周レンタカーを走らせてくれた。
 
海辺の小屋で、スタッフによるインストラクション。
海から上がってきたウミガメが一度で穴掘りに成功すれば産卵の様子が観察できるというのだが、「失敗したようです」とのアナウンスがあった。
それでも2度目の穴掘りを観察できるという。20人ちょっとだろうか、暗い浜辺に出た。
明かりはほぼなく、灯台の光だけが周期的に光の帯を振り回していた。
 
ウミガメが次の穴掘り場を定めるまで、私たちは砂浜に座って、静かにしていた。
私とRは一団の最後方で静かに手を握り合い、互いにしか聞こえぬ声で囁きあっていた。
「ウミガメがあんなにがんばっていた時に私たちときたら……」とは後にRが言ったことである。
 
よきときに、スタッフが私たちをウミガメの背後に導いた。
大きな甲羅の母ガメが、一心不乱に穴を掘っていた。
スタッフの赤いライトが密かな奮闘を照らし出す。
――ごめんね。大事なときに興味本位でやってきて。ごめんね、と思ってればいいってもんじゃない、と思ってればいいってもんじゃないけど……
 
見ているうちにどんどん、ウミガメは穴を深くしていった。
可動域の限られた、平たい足で、卵を産む穴を掘っていた。
ただ、己のやるべきことをやっていた。
 
観察会の終了時間になり、私たちはそろそろと砂浜を後にした。
「来てよかった」とR。
ウミガメの大きな仕事を垣間見ることができたこと。
そして、夜の暗い海を前に、二人で静かな時を共に過ごせたこと……

旅行後のアンケート御礼でいただいた写真


(前半の詩もどきのカッコ内は、↓の文章を改変しています)
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3563.html
 

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