「ニューヨークで一番うまいピザは、実はニュージャージーにある」ニューヨークタイムズ紙
「東京ディズニーランドは、実は千葉県浦安にある」みたいな話。
話は25年くらい前に遡る。
ニューヨークから現在住むニュージャージー州Millburn(ミルバーン)に引っ越してきたのが約26年前。わが町に隣接するMaplewood(メープルウッド)は、アメリカにしては珍しい駅前商店街がある村(Village)。
Maplewoodの住民は誇りを持って自分たちの住むところを“ヴィレッジ”と呼び、車ではなく徒歩で買い物や食事をするのだった。
小さな可愛い商店街は、映画のロケにも使われていた。
まだ子供のいないわが夫婦も週末にはここで食事を楽しんでいた。
駅から一番遠い商店街の外れに、うらぶれたピザ屋があった。駅前には他にも2軒のピザ屋があり、わが家の行きつけはそのどちらかで、さびれたピザ屋には入ったことがなかった。
そのピザ屋の名前はArturo‘s。外から店内を見ると、週末の夜に行き場のない高校生たちが何時間も暇をつぶす、そんな感じの店だった。
あるときArturo‘sの前を通りかかると、通りの角にある店に車が突っ込み、店内が大破していた。
ただでさえ売れないピザ屋なのに、そんな悲惨な目に遭うとは、と同情した。
それから数ヶ月後、また店の前を通ると、新装開店したArturo‘sに客がたくさん入っていた。
事故から立ち直ろうとする客の同情だけではなかろうと思い、ピザを食べに入った。食べてビックリ🫢うまい!
どうやら店を壊されたオーナー(食べに行ったことはないが、店の前を掃除する彼の顔を今もよく覚えている)が店を売り、新店主が店の名前を変えずに新装開店したのだった。
それからは「うまいピザ屋に生まれ変わったArturo‘s」の常連になった。
ある日突然「日本人の方ですか?」と話しかけられた。
まだ20代の若さで店の新オーナーになったDanくんだった。日本に興味があり、日本語を「独学で勉強している」と彼は言った。
「日本にも行ったことがない」というが、カタコトで話ができるのだった。
Arturo‘sのピザは客の心を掴み、Maplewoodはもちろん、かなり広いエリアでNo. 1ピザ屋へとのし上がった。
お父さんと共同出資で店を購入したDanは料理経験なしから始めて、イタリアに単身修行に行き、店をオープンしたのだった。
小麦粉やオリーブオイルなどはイタリアから輸入し、トマトや野菜などは地元ニュージャージー産を使用していると言った。
ピザのパン生地のうまさが違う。一度食べたら虜になるほど。
Maplewoodの成功から数年後、Danはもう一人の共同オーナーとJersey City(マンハッタンの対岸)に別の店を開いた。
店の名前は「Razza」だがピザはまったく同じ。Jersey Cityはニューヨークに近いので、評判をきいたニューヨークタイムズ紙が店を取材した。
「おお、Danの店がニューヨークタイムズに紹介されてる!」
ニューヨークデビューを飾ったDanは一気に有名人になっていく。
Maplewoodの店はお父さんに代わり共同オーナーとなっていた友人に売り、Danは Jersey Cityの店「Razza」に専念することになった。
毎年特集されるニューヨークタイムズが選ぶ「ニューヨークベスト10ピザ」の上位にランクされる店の常連になる。
Danの快進撃は続き、いつしかRazzaはニューヨークタイムズの「おいしいピザTop3」に選ばれるようになった。
そしてついに
「ニューヨークの一番おいしいピザはニュージャージーにあるって知ってた?」
とまで言われるようになった。
昨年Danはニューヨークタイムズ出版から「The Joy of Pizza」という本を出版している。
彼のピザにかける思いは半端ではなく、生地の仕込みには3日前から取り掛かるそうである。
元のArturo‘sについてもその後のストーリーがあるので、それはまた明日😉