BOOK DIGGER #002 山崎まどか
002. 山崎まどか
Thema パーティガールの告白
『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』
ジェイ・マキナニー著 宮本美智子訳
(新潮文庫)
『THE DUD AVOCADO』
Elaine Dundy
(NEW YORK REVIEW BOOKS)
『人工シルクの女の子』
イルムガルト・コイン
(関西大学出版部)
「どうでもいいけど、こういうのって冗談じゃないわよね。あたし、信じられない」
いい出だしだな、これだけで好きだなと思えるジェイ・マキナニーの長編第3作目。アリスンという20歳の女の子が主人公で、彼女はニューヨークで演劇学校に通っている。でも彼女の生き甲斐は芸術よりもパーティで、パーティにはドラッグとセックスが付き物だ。名前からして“アリスン”(※註1)な訳だけど「エルヴィス・コステロだーいすき」で友達と「悲しきパーティ・ガール」を歌ったりする。原文は当時に流行ったヴァレー・ガール的な口調が取り入れられていて、それを宮本美智子さんが80年代のギャル語で翻訳していて、ちょっと前ならば恥ずかしかったけど、一回りして今だと新鮮だし、何より遊び人の子っぽくていい。
私はパーティ・ガールが主人公の小説が好きだ。一人称で綴られているとなおいい。頭からっぽだと人に信じられているような女の子の“中身”がちゃんと彼女自身の言葉で語られているとグッと来る。パーティ・ガールだけが知っている刹那的な陶酔感や、夜明け前の悲しみを私にその言葉で教えてほしい。
パーティ・ガールといえば『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリーだけど、あれはヒロインの一人称小説ではないので、同じ年に出版されたエレーヌ・ダンディの未訳の小説を推したい。50年代、自由を求めてパリにやって来た21歳のサリー・ジェイの物語。登場場面、午前中にイヴニングドレスを着ているところからしてパーティ・ガールだが、それは洗濯屋から他の服が戻ってこなかったから。既婚者やアーティストと関係を持ったり、危険な演劇青年に恋をしてパスポートを奪われ、危うく売春婦に身を落としかけたり。ナイーヴなアメリカ娘の冒険を綴る、弾けるような文体に恋をして、グルーチョ・マルクスは著者にファンレターを送った。
ワイマール共和国のパーティ・ガールを描いた『人工シルクの女の子』の一人称は離れ業。ドレスや毛皮やご馳走、都市生活で様々な“キラメキ”に触れて、キラメキそのものになりたいとパパ活に励むドリス。港区女子の実態もこれくらいの名作小説になって然るべきだ。毛皮のコートを盗んで地方都市からベルリンにやって来た彼女の目を通して語られる、この街の描写が素晴らしい。彼女は輝くものや都市の興奮を目で追って、カメラのようになる。まるであの美しいドキュメンタリー映画『伯林-大都会交響曲』(註2)のようだ。
※註1:「Alison」はエルヴィス・コステロの代表曲のひとつ。
※註2:ドイツの前衛映画監督ヴァルター・ルットマンによる、1927年製作のベルリンの都市ドキュメンタリー。
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