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【連載】ノスタルジア大図鑑#13|死語供養短歌② 「聖子ちゃんカット」

ご無沙汰しております! 
本日は約4ヶ月ぶりのご登場!
時代とともに消えゆく「死語」をテーマに短歌を詠み、時勢を眺める。
歌人・笹 公人(ささ・きみひと)さんの「死語供養短歌」のコーナーです。

今回の死語は……「聖子ちゃんカット」!
(え? なにそれ美味しいのって言わないで〜!)


第1回はこちら↓



第2回:「聖子ちゃんカット」


<短歌①>

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聖子ちゃんカットの群れはまぼろしか 炎暑の竹下通りを過ぎる

笹 公人



今回のテーマは、髪型に関する死語である。
ヘアスタイルに関する死語でもっとも有名なのは、「聖子ちゃんカット」ではないだろうか。

聖子ちゃんカットとは、スーパーアイドル・松田聖子が、デビュー時の1980年から1981年末までの約2年間していた髪型の通称である。
1980年に松田聖子がデビューするやいなや、その人気が発端となり、一般の女性、女子中高生の間で爆発的に流行し、「聖子ちゃんカット」という通称が定着したのだという。

1980年当時、私は幼稚園児だったが、通っていた幼稚園の担任の先生が聖子ちゃんカットだったことはよく覚えている。
たしか他のクラスの先生も聖子ちゃんカットで、初老の副園長先生以外、園にいる成人女性は全員聖子ちゃんカットだったと記憶している。これを読んだ若い人は、「大袈裟な。そんなの聖子ちゃんカットの園じゃないか!」と信じられないかもしれないが、おそらく当時撮影された女子学生の集合写真を調べれば、8割以上の女子が聖子ちゃんカットにしていることが確認されるだろう。いつかNHKのドキュメンタリー番組で調査してほしい。

一般女性のみならず、1982年にデビューした小泉今日子、堀ちえみ、早見優、松本伊代ら「花の82年組」と呼ばれる人気アイドルたちも、軒並み聖子ちゃんカットでレコードデビューを飾っているので、その影響力の大きさにあらためて驚かされる。

掲出歌は、原宿の竹下通りを歩いていた時に、聖子ちゃんカットの群れを見たような気がしたという歌である。
単なる見間違いだったのか、あるいは、何かの拍子に数十年前の竹下通りの残像を見てしまったのか、解釈は読者のご想像におまかせします。


<短歌②>

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UFOにさらわれたという老人がテクノカットになりて還りぬ

笹 公人



同じ1980年頃、主に男性の間で流行したのがテクノカットである。
テクノカットとは、もみあげを鋭角に剃り整え、襟足を刈り上げたヘアスタイル。

1979年にヘアスタイリストの本多三記夫氏が考案した手法で、
当時大ブレイク中のYMOの3名がこの髪型を愛用していたことで人気に火が付き、流行のヘアスタイルとなった。
ということは、もしかしたら「テクノカット」は「YMOカット」と呼ばれる可能性もあったわけだ。

1980年代後半、私は後追いでYMOの熱狂的ファンになった。時は、イカ天ブーム、バンドブームの真っ只中。
周囲の中学生でYMOのことを知っている者はおらず、その状況に憤った私は、自分で選曲したYMOベストセレクションのカセットテープを友人に貸しては地道にファンを増やす活動に励んでいた。

中学3年の夏休みのある日、筋金入りのYMOファンならテクノカットにすべきだと思い立ち、覚悟を決めて美容院に行った。
しかし、いざ美容師を前にすると、「いまどきテクノカット!? 君、時代遅れだねぇ~」と笑われるのではないかという被害妄想が湧いてきて、「テクノカットにしてください」と言う勇気がどうしても出ず、無言のまま冷や汗をかいていた。

何度か美容師に注文を促されたのだろう。
気がつくと、「髪の毛の先っぽが眉毛に乗っかる感じでお願いします」と間抜けな注文をしている自分がいた。あのとき、予定通りにテクノカットにしていたら、その後の人生は変わっていただろうか……?

もし私が映像作家であったならば、その時の体験を元にした「テクノカット、下から見るか?横から見るか?」という映像作品を撮るだろう。そんな苦い思い出もあり、テレビなどで堂々とテクノカットにしているオードリーの春日氏を見ると、あの夏の甘美な修羅場を思い出してしまうとともに、何か負い目を感じてしまうのである。

掲出歌の老人は、本当に宇宙人にテクノカットにされたのか、あるいは、「UFOにさらわれた」というのは作り話で、少しでも未来感を出すために自力でテクノカットにしたのか、このあたりは読者のご想像におまかせしたい。



<短歌③>

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真知子巻きの老女グループ暗闇で「あれ? 違うの?」とざわめいており

笹 公人



髪型ではないが、髪型周辺の死語として外せないのは「真知子巻き」である。

「真知子巻き」とは、ストールやショールを頭から首にかけて巻きつけるファッションのこと。
昭和28年(1953年)に大ヒットした映画「君の名は」(菊田一夫原作)で、
岸惠子演じる主人公・真知子のスタイルから、当時、若い女性の間で大流行したという。

掲出歌は、2016年の大ヒットアニメ「君の名は。」(新海誠監督)を菊田一夫の「君の名は」と勘違いして観に来た老婦人グループを描いた妄想短歌である。老婦人グループを霊と思って読んでもいいかもしれない。

だが、実際ある歌会で、若手が「君の名は。」のオマージュ短歌を出した時、老婦人が、若い頃に「真知子巻き」をしていたというエピソードを熱っぽく語りだしたことがあった。

もちろん岸惠子の方の「君の名は」と勘違いしていたのである。
「この歌の『君の名は。』は、岸惠子の方ではなく、新海誠監督のアニメの方ですよ」と言おうかと思ったが、想い出話に水を差すようで無粋にも思われ、無難な評をしてその場を凌いだ。同じタイトルの映画が二度大ヒットしたことで起きた珍現象であった。

流行は繰り返すと言われるが、「聖子ちゃんカット」や「テクノカット」、「真知子巻き」が再び流行る日は訪れるのだろうか。


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さて、YouTube「笹公人チャンネル」ではじまりました、こちらの番組。

「死語短歌の世界」
出演:笹 公人、ゴウヒデキ(放送作家)、小泉宏美(トゥーヴァージンズ編集部)

当番組企画の入選作品をnoteでもご紹介します。
選評は動画をご覧くださいね!


第1回 「死語短歌の世界」入選作品

ナウイって盛んに言ってた亡き兄の遺品になったチョッキ着てみる   

壮太
窓際の席に座ったアベックのダリの時計を盗む計画  

夏野あゆぬ


第2回 「死語短歌の世界」入選作品

ぶら下がり健康器をまだ持っているぐらい長生きしてりゃ健康

たろりずむ
「私はコレで会社を辞めました」「私もコレで」指切りげんまん

具志川具志男

「死語短歌」は常時募集中! 投稿宛先はこちらです↓

<「死語短歌」作品宛先>
jojounokimyounabouken@gmail.com  

奮ってご投稿ください!
よろしく哀愁☆

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【著者プロフィール】
笹 公人(ささ・きみひと)
歌人。1975年東京都生まれ。
未来短歌会」選者。現代歌人協会理事。「牧水・短歌甲子園」審査員。大正大学客員准教授。歌集に、NHK Eテレにて連続ドラマ化された『念力家族』(朝日新聞出版)、『念力図鑑』(幻冬舎)、『抒情の奇妙な冒険』(早川書房)、『念力ろまん』(書肆侃侃房)、バラエティ作品集『念力姫』(KKベストセラーズ)、『念力レストラン』(春陽堂書店)、エッセイ集『ハナモゲラ和歌の誘惑』(小学館)、絵本『ヘンなあさ』(岩﨑書店)、『念力恋愛』(幻冬舎)、朱川湊人との共著『遊星ハグルマ装置』(日本経済新聞出版社)、和田誠との共著『連句遊戯』(白水社)、和田誠、俵万智、矢吹申彦との共著『連句日和』(自由国民社)、編著『王仁三郎歌集』(出口王仁三郎・著)など多数。

●Web:http://www.uchu-young.net/sasa/
●Twitter:@sasashihan

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バナーイラスト:しのだまなこ


「日本全国キーホルダーぶらり旅」を含む、個性豊かな執筆陣による合同連載「ノスタルジア大図鑑」はこちらから↓




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