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#4イギリスのランニング:10000m選手権(Night of the 10,000m PB's)

昨年は田澤廉、そして今年は相澤晃と葛西潤が参加したのがロンドンで行われているNight of the 10,000m PB'sという大会だ。特に今年は各国のオリンピック代表の座をつかむのに重要な試合となり、男子の最終レースは14カ国から39人が出走した。この大会は2013年にHighgte Harriersというクラブチームによって始められた大会で、現在ではイギリス選手権も兼ねる大規模なイベントとなっている。さらに陸上ファンでなくとも楽しめるようにトラック内のフィールドにはボルダリングの壁や、マジックショーなども開催されている。この記事を通して大会の雰囲気やオリンピックの1万メートル観戦を少しでも楽しめたら幸いだ。


大会運営

この大会の一番の特徴は入場料が無料だということだ。チケットの予約の必要もなく当日の2時から10時まで誰でもふらっと立ち寄ることができる。これはそもそも観戦するための席がないという事が大きいが、だからといって大会運営に手が抜かれているわけではない。むしろ一般的な有料な陸上の大会と比べて、会場設営のために多くのテントや柵が使われるのでそれなりの資金と労力が必要になる。これを主に支えるのが以下の4つだ:

  1.  大会のメインスポンサー: オン (On)

  2.  ロンドン市からの資金

  3. イギリス陸連

  4. 数百人に及ぶボランティア

  1. オンは世界各地でレベルの高い地域ベースの大会をスポンサーしており、ロンドンの他にもウィーン、パリ、メルボルン、東京(7月に開催されるMDC東京)で大会運営に関わっている。当日はフィールド内にオンの特設販売ブースや、その他にも観客が応援用のプラカードを作れる場所などが設置されていた。また選手を応援するためのカウベルや扇子のようなものも観客に配っていた。

  2. この大会はParliament Hillというロンドン中心部からバスで30分ほどの場所で開催され、昨年行われた大規模な陸上競技場の改修工事の費用もロンドン市が負担した。タータンが最新式のものに取り替えられ、照明もより燃費の良いものに置き換えられた。Hampstead Heath という起伏に富んだ大きい公園に隣接しており、ロンドンを綺麗に見渡せる数少ない場所の一つでもある。

  3. イギリス選手権を兼ねているので陸連も大会運営に大きく関わる。審判や試合の中継などは陸連が主体となって進められている。

  4. 主催するHighgate Harriers  というチームから100人を超えるボランティアが前日・当日・翌日と参加する。観客用のバリケードの設置から管理、ゴミ拾い、大会受付、ビールの販売などはすべてこのボランティアによって行われている。

チームメイトの人がドローンで撮った写真

大会の見どころと雰囲気

当日は一万mの試合が男子が6組、女子が3組開催され、参加標準はそれぞれ32分と37分ほどになる。時間が過ぎると共に組の設定ペースがあげられるため、最初の方は速い市民ランナーが出場していたのが、最終組になる頃にはオリンピックに出場するような選手が走っている。

スタートライン付近の様子

また7時頃になると800mの試合がU14,U16,U18,U20の年齢で男女それぞれ一組ずつ設けられる。正確な数はわからないが、数千人はいる観客の前で走れる貴重な機会だろう。

午後7時頃に800mを観戦する人々

この大会を多くの人が楽しめる一番大きい理由は近くから選手を観戦することができるためだ。スタートラインから100m地点までを除いて観客は4レーン目から観戦できる。つまり選手には3レーンしか与えられないが、一万mの試合でスタート直後を除いて3レーン目より端を選手が走ることはないので問題にはならない。自分が見たり聞いた限りでは観客による選手の妨害は全く無かったので安全面でも問題はまったくない。

Youtube からレースのライブ配信も行われている

さらに100〜200m、300〜370m付近まではテントがトラック上に建てられるので観客の声援がよく届く。自身が観戦したことのある大会の中では一番声援が大きい大会で、参加した多くの選手も同じことをインタビューなどで語っていた。この陸上競技場はスタンド・観戦用の席がないためテントが選手のための風よけ代わりにもなる。

テントの下で観戦する人たち

またトラック内側のフィールドとトラックの外レーンは橋で繋がれているので、試合中も場所を移動しながらの観戦が可能になる。この建築も前日に工事現場の足場のようなものを使って組み立てられていた。

トラックの外側からフィールドに橋で移動できる

一般的な陸上の大会とは違いビールの販売も盛んに行われる。これは大会運営の収益になるだけでなく、サッカーや野球の観戦と似た楽しみ方を熱烈なファンも、そうでない人も陸上競技で味わうことができる。食事はフードトラックが8つほど来ていて、どれも長い列ができていた。

写真中央あたりの電光掲示板の右に見える塔はボルダリングの壁

試合と試合の間にはトラック上でダンス、一輪車漕ぎ、火をくぐるスタントマンなどのパフォーマンスが行われる。この間に選手たちは流しを入れ、スタートラインに並ぶ。

ハードルをくぐるスタントマン

大会の雰囲気をまとめると、延岡ゴールデンゲームズに祭りと日本選手権を合体させたようなものだろう。日本ではTWOLAPSがMDCという中距離種目が中心の大会を開催しており、ゆくゆくはNight of the 10k PB'sのような競技力が高いだけでなく観戦も楽しい大会を目指している。

*記事が思ったより長くなったので大会当日の日本人選手たちの試合運び、パリオリンピック1万m出場権に大きく関ったヨーロッパ選手権の結果と世界ランキングの変動をもう一つの記事にまとめました。
ぜひ読んでみてください。

*サムネイルと2枚目の写真はHighgate Harriers のウェブサイトから引用しています


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