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お湯に感じる幸せ ブータン日記4
5日目には首都から北西部のガサ県に移動。スタート地点のある地域である。バスで朝出発して到着は夜と1日がかり。直線距離にすると200kmほどと、さほど離れていないのだが、さすがは山岳国家だ。平地の道はほとんどない。曲がりくねった峠道の連続で、道幅がとても狭い。大型バスで通行するだけでも難しいのに、路面が凹凸だらけである。車酔いでぐったりしている選手もちらほらいた。
滞在することになったのは、標高2,500mほどの山深い地域。貸し別荘地の並ぶ小さな村だった。ここでレースまでの4日間を過ごす。
宿泊していた1軒家では、ガスが使えなかった。蛇口をひねったところでお湯は出ない。シャワーをしようと思うと選択肢はない。屋外で水を浴びるだけだ。
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日中はそれでも構わないのだが、日没を迎えると高所で冷え込み、さすがに裸体になるのはきつい。そんな事情を察してか、大会側が気を遣って、別の選択肢を用意してくれた。
現地スタッフが炊事場で大きな鍋にお湯を沸かす。そこまでバケツを持っていくと、なみなみと注いでくれた。
行きはよいよい、帰りは怖い。雨で濡れた草地を歩いて帰らねばならない日もあるのだ。けっこうな重量のお湯を運んでいる。それも沸騰した熱々である。何度ももらいに行くのが億劫で、大量に入れてもらったのが裏目に出た。とても重い。
足を滑らせ、自分の体にかけた日には大惨事が待っている。熱湯風呂でリアクションを取るというのは、日本のバラエティー番組のお家芸だろうが、ブータンでそんな伝統を披露したくはない。
100mもない距離をゆっくり慎重に戻り、貴重なお湯に水を加える。かさ増しして、使うためだ。
お湯で汗を流すというのは、たいへんに贅沢なことなのだ。
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暖かさはそのまま幸せにつながっている。
近くに温泉があり、スタッフに行き方を教えてもらい、走っていく。ブルーシートの屋根と木製の柱という簡易的なつくりの温泉だった。ここで至福のひとときを過ごす。
弛緩しきっていると、地元のおじさんも入ってきた。つたない英語で世間話が始まる。僕たちが入っている湯壺しかなかったのだが、以前は7カ所ほどあった教えてもらう。土砂災害が起きて、ほかの温泉はすべてやられてしまったという。唯一残っている湯壺も、土砂をどかして再開したそうだ。かつてあった脱衣所や建物も流されてしまった。簡易的なつくりなのは自然災害の名残りであった。
昔は起こらなかった土砂災害だといい、氷河湖の決壊が原因のようだ。というような話だったが、すべてを正しく聞き取れていたのか自信がない。
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寺院巡り、レースに関する注意事項やコース説明のミーティング、休養日をはさんで、いよいよ大会初日を迎える。ブータンに来て、すでに8日間になる。200kmのレースはスタートに至る道のりも長いのだ。
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