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映画のチカラ
音楽をやっている尊敬すべき人と話したら、ほぼ映画と本をよく読んでいる。
映画は2時間で他人の人生の疑似体験ができる最高の娯楽。
本はこの世にあるすべてのジャンルを網羅した記録。
僕の高校ははっきり言ってランクの低い工業高校だった。
授業もガヤガヤ騒いでいた奴らが多数。
僕もお世辞にも勉強はできないので同類といえば同類なのだが、それでも電車の中でも平気で騒ぐ彼らに嫌悪感を持っていた。
そんな時、学年の全員で映画を観に行くことになった。
映画タイトルは『ブレイブハート』
メル・ギブソン主演でアカデミー賞も取っている名作である。
僕は凄く嫌だった。
1人で見に行く予定の映画だったからだ。
静かに座っておくこともできない人種と映画を観なければいけないなんて拷問に等しい。
上映前、会場は生徒の喋りでお祭り騒ぎ。
プロ野球の応援団ぐらいうるさい。
そして映画が始まった。
アイルランドの髭男が現れたら「ギャハハハハハ!おっさんやー!」
女が出てきたら「女やー!脱げー!ヤれー!」
僕は本当にキレそうになっていた。
ところが主人公のウォレスの奥さんが殺されて単身イングランド軍を倒すシーンになると、全員が黙った。
スクリーンから静かなるウォレスの怒りが伝わったのだ。
映画が完全に観客を飲み込んだ瞬間だった。
木の槍を使い数千のイングランド軍を退け勝利したシーンは僕もウォレスコールをしそうになった。
アイルランドの独立戦争に観客も参加していた。
我々も共にイングランドと闘っているような錯覚すら覚えた。
映画が終了して映画館を出るとき、全員の顔つきが変わっていた。
ヘラヘラしている奴なんてほとんどいない。
アイルランドの為に戦う男の顔になっていた。
僕は映画を観る前は、映画はアホに理解できるものではないと思っていた。
しかし、優れた作品はそんなものは軽く凌駕する。
ブレイブハートは史実通りの内容ではなく、ほぼメル・ギブソンの創作というぐらいの内容らしいのだがそんなことはどうでもいい。
今までで一番良かった映画はなに?という質問があったら僕は「高校生の時に映画館で観たブレイブハート」と答える。
あの瞬間を越える映画の素晴らしさと会場の一体感はその後味わったことがない。
ラストシーンは思い出すだけで今でも涙が出そうになる。
映画もたぶんライヴなんだろうと思う。
スクリーンのデカさ、空間、音響、観客の有無も全部合わせて映画なのだ。
家で本当の感動は味わえない。
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