金木犀とメテオラ
北海道にある中高一貫校を舞台に話は回る。
学年成績2トップの二人。成績だけでなく、それぞれがずば抜けた容姿だったり、性格だったり、ピアノの演奏スキルだったりを持って傍目からはスバ抜けて恵まれた人生に写っている。しかし、それそれにはその年代が持つ葛藤、境遇、劣等感がありつつも、それを自身に抑え込んで生活をしている。この苦しさはその年齢だからこそ持ち得るものであり、そこから一段上がることで、見えるようになる。まさに大人への階段。
12歳の章で、それぞれの葛藤を描き17歳の章で、そこからいかにステップアップするかが、話の見せ場。同じクラスにいながら、お互いに距離を縮める事なく過ごしてきた二人が、学園生活最後の行事でまさに子ども同士がヒソヒソ話をするような距離で会話を行う。これは奥沢のステップアップの描写であり、こののち宮田のステップアップが描かれる。
中高一貫であるが故に、友人たちも気心が知れている。それぞれの性格をそのまま理解し、差し出す手が優しい。こうした軽快なところも読んでいて心地よい。たまに、ヒヤリとする描写が出てくるが、そこを追い詰めてダークに染めてゆかないところもいい。
最後の書き下ろしは、友人の目から見たサイドストーリー。時期を想像するとまだまだトンネルの中にいる二人の秘密を知ってしまう。その二人が短距離を走り抜けてゴールする。どちらが勝った、負けたではない。それぞれが全力で前に進むことを暗示するところが良かった。
前作の「天龍院亜希子の日記」にもあったが、人を思う気持ちは、それが見えているいないとは関係なく、人の背中を、自分の背中をそっと押してくれるものだ、と言うメッセージを感じる。
この著者の本はどれも、人の葛藤や焦燥を書き表しながらも、読み手をダークサイドに導かないかき方をされているのがすごく良かった。読み終わって人に勧めたくなるお話でした。