旅行者の朝食
中央アジアから始まった興味から、「犬が星見た」「ウズベキスタン日記」「ロシア日記」ときて、巡り会ったのがこの本。旅行記を探していたが、これはエッセイ。
本のタイトルから、著者が旅行に行った時に食べた朝食が並んでいると思ったら大間違い。これが何かは読んでからのお楽しみ。
著者は、ロシア語会議通訳をされていたかた。存じ上げなかったが有名な方で、それこそソ連崩壊からロシアへと激動の時代に同時通訳として活躍され、また北方領土を取り上げたシンポジウムなどにも参加されている旨が載っている。
通訳者はロシア語だけがわかれば良いのではなく、スピーチには古文を引き合いに出されたり、ラテン語、ギリシャ語の慣用句、有名や詩の一節を原文のまま口にされるとそれをうまく訳さなくてはならない。これはすごい。著者も幼少の頃から東欧ですごされているとはいえ知識豊富。
それを物語るのが、続くエッセイで見てとれる。ウォッカ、ジャガイモ、キャビアなどの食材について書かれた内容が、面白いだけでなく、蘊蓄がたっぷり。そこには膨大な資料を使って調べられたことがわかる内容で、しかもどれも美味しそう。
そう、著者の食べ物に対する関心の高さとその食べっぷりも胸をすく思い。学生の頃食べたスプーンひと匙のお菓子を追い求めて40年。ロシアから中央アジア、かつてイスラム圏であった国々まで、人に会うたびに尋ね似たものがあると聞けば探しに行くというエピソードが載っている。そのお菓子の名前は「ハルヴァ」。イスラムの名前が出ると、途端にその捜索範囲は広がる。かつては大帝国を築いたこともあり、現代の地図にすると数カ国がそこに収まるからだ。
このお菓子は「グレーテルのかまど」でも取り上げられ、妹さんと再現を試みたそうだ。
音楽に準えた章立てで、最初こそ、少し硬めに入るが、後に向かっては軽快なエッセイが続く。食べ物エッセイは多数あるが、ロシア、東欧を中心に歴史と経験から綴られるこの本は、何度でも読み返してニヤついてしまう。
読みかけがあるのにも関わらず、ちょっと開いただけで最後まで読み切ってしまった。このかたの他の本も探しに行かねば。