
おろしや国酔夢譚
最後まで読み切った。
最初はフィクションの小説のつもりで読み始めていたのだが、この大黒屋光太夫は実在の人物で、これも実話だということに驚いた。つまり、この長い10年にも及ぶ物語は本当にいた人物の経験談であり、旅行記ということ。
1782年つまり江戸時代。日本でも船による商売は盛んになっているが、海外との貿易は国策として長崎でのみ。が、北前船など日本国内を回って商いをすると大きな利益を生むこともあって、北から南、南から北へと物資を運んでいた。日本近海といっても、航海は天候次第、しかも自力自走ではなく風をつかんでの航海はリスクも大きい。光太夫が乗った船も伊勢を出てからなんと北海道よりも北にあるアリューシャン列島の小島まで流されてしまう。
と、ここまでが前回。
ここから、帰国を願い出るためはるばる、その頃都であったサンクトベテルブルクまで往復する。その期間10年。流れ着いた仲間たちも最初は十七人いたが結局日本に帰り着いたのは二人だけ。それだけ厳しい自然と慣れない土地で明日もわからぬ生活は心身にこたえる。
この本8章立てなのだけれど、エカテリーナ2世に謁見するのはなんと7章になってから。漂流からこれだけ書くことができるのは、ロシア側にその記録が残っていたから。それに比べ帰国後の二人の記録は取り調べののちほとんどない。常に国境を他国と接し侵略されたり、南下政策で攻めて行ったりを繰り返している国とは全然違っている。
これまでロシアに関する本を読んで思うのは、ものすごい秘密主義と物凄い親切さが混ざり合っているところ。人と協力し合わなければ、厳しい自然の中で暮らして行くことは困難だからとても親身になってくれる。米原万里さんの本に出てくる人々は皆そうした描写がある。しかしその広大な国土を維持するためにとった社会体制は極端な統制が必要だった。故に「おそロシア」と言われるような表現も出てくる。
10年もの間、心折ることなく、帰国を夢見て過ごしたこの人たちは帰国後の様を見て、自分の国でありながら、以前のように思い、考えながら暮らすことはできなくなっている。これは現代でいう宇宙旅行に相当するのかもしれない。
1791年11月1日に、大黒屋光太夫がエカテリーナの茶会に招かれ紅茶を飲んだのが日本最初の紅茶を飲んだことにちなんで11月1日は紅茶の日になっているとのこと。
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