エンジニア組織の立ち上げから「高負荷」なシステムの安定稼働まで。TVerの技術戦略を牽引する/CTO 田中インタビュー
2015年に始まった民放公式テレビ配信サービス「TVer」は、順調にアプリダウンロード数・再生数が伸長し、MUB(月間ユニークブラウザ数)も2023年8月時点で3,000万を超え過去最高記録を更新する等、急成長を遂げています。
システム開発の面では、事業の拡大に伴いエンジニア組織の内製化を2021年に開始。その現場をCTOとして積極的にリードしてきたのが、今回のインタビューに登場する田中です。
本記事では、エンジニア組織の立ち上げストーリーから、TVerのエンジニアとして働く魅力。さらに、中長期の展望について聞きました。
■プロフィール
執行役員CTO・メディアソリューション事業本部長:田中 謙一郎
2000年に株式会社バスキュールへ入社。テクニカルディレクター / プロデューサーとして多数のデジタル広告のクリエイティブ案件に携わり、カンヌライオンズで金賞等、国内外で100以上の広告賞を受賞。
2021年4月、TVerに参画し、2022年よりCTO。2023年4月からはデータの利活用を強化するメディアソリューション事業本部の本部長も兼務している。
2度の新設分割と1回の事業吸収でTVerへ
──まずは、これまでのご経歴について教えてください。
私のインターネット業界のキャリアは、2000年に株式会社バスキュールへ入社し、テクニカルディレクターとしてサーバー構築やテクニカルディレクション(エンジニアに企画を実現するためにディレクションする業務)に携わったことが始まりです。
以後、プロデューサーとして様々なデジタル広告案件を、技術面や制作進行を中心にリードしていました。
そこから転機が訪れたのは、2012年頃。当時人気のクリスマスイベントだった「mixiXmas」というmixiアプリで、イブの夜の24時ちょうどに全国ネットでCM連動企画を実施したことをきっかけに、注力の場がテレビに移ったのです。
参加型テレビ番組企画を実施する共通プラットフォームを開発し、いくつもの放送局と参加型テレビ番組を実施していました。
2015年にはバスキュールと日本テレビが合弁会社「HAROiD」を設立し、私はその会社で副社長に就任することとなりました。
そこで開発したのがHAROiDプラットフォームで、現在の「TVer ID」や「TVer Media Platform」の前身システムです。
──その後、TVer参画までにどのような経緯があったのでしょうか?
新設分割と事業吸収を繰り返したのでやや複雑ですが、下記のような経緯がありました。
2019年8月:
HAROiDのID・データ事業を分離しTVer社の100%子会社として株式会社YourCastが設立され、取締役COOに就任
2021年4月:
TVer Technologies(2020年にYourCastから社名変更)のIDデータ事業の一部と技術組織をTVerが吸収し、執行役員に就任
2022年7月:
CTOに就任
こうした流れの中で、バスキュールからHAROiD、HAROiDからYourCast、そして現在はCTOとしてTVerに所属することとなりました。
2023年4月からは、メディアソリューション事業本部の本部長も兼務しています。
約10名のメンバーからスタートしたエンジニア組織。今後目指すは100名規模へ
──2021年にTVerに参画して以降、TVerではどのような役割を担ってきたのでしょうか?
以前は外部パートナーに開発と運用を委託していたので、社内にエンジニアがいませんでした。
そうした中で「TVer ID」をスタートするにあたり、「YourTV ID」というIDプラットフォームをベースにすることが決定したんです。これはTVer Technologies社が放送のDXを推進する目的で、HAROiDのときから開発運用していたものです。
さらに、サービスのグロースに重要な基幹システムであるCMSや、高負荷に耐える必要のあるフロント向けAPIをリプレイスする必要もありました。
それらを実現するために、TVer Technologiesからシステムやデータとともに、十数名のエンジニアをTVerに吸収することになったんです。
その頃のTVerは社員もまだ30名程度で、開発組織がないところに十数名の技術オリエンテッドな組織が乗り込んできたので、企業文化の違いやコミュニケーションの課題が色々と発生していました。
──課題はどのようにして乗り越えたのでしょうか?
コロナ禍でTVerもフルリモート勤務体制であった中、TVerサービスのことをほとんど知らない技術組織が加わることとなりました。そのため、まずは使っている言葉の違いから理解し合う必要があったんです。
そこで私はほぼ全てのSlackチャネルに参加して、すべてのスレッドを流し読み、必要であれば(必要以上に)でしゃばって、コミュニケーションが円滑になることを心がけていました。
とくに、システム開発に関する考え方の差は大きかったですね。開発ベンダーに委託するのと社内に開発チームがいるのとでは大きく異なり、要件定義のやり方から変更する必要がありました。
「まず最初にお互いの理解を深める」ということが満足にできないまま、リリーススケジュールが決まっている中で素早くアウトプットを出さなければならないというプレッシャーもあり、最終的にリリーススケジュールを変更したことは、悔いが残っています。
──それから約2年半が経ち、体制もかなり整備されたのではないでしょうか。
リニューアルを経験したことで、部署(タスク)間の連携やコミュニケーションはスムーズになりました。ただ、技術組織の体制がまだまだ足りていません。
PdMや開発ディレクターのほかに、約20名のエンジニアで開発・運用保守をしていますが、3,000万MUBを超えるTVerであれば、100名規模の体制であってもおかしくありません。
──ただ、エンジニアの数が単純に増えれば良いという話でもありませんよね。
事業フェーズの時々で必要とされるスキルも変わってきますし、何より文化形成ができていないとエンジニアが増えた時にうまく回らないと思うんですよね。
それもあって今はリードエンジニアと対話をしながら、TVerのバリューをどうエンジニア組織に落とし込んでいくかを検討しています。
少数精鋭で「高負荷システム」を安定稼働させる醍醐味
──TVerのエンジニアならではの魅力を教えてください。
TVerという巨大なサービスを、たった数十人のエンジニアで現場を回している。その様子を私は見てほしいなと思っているんです。
民放の公式テレビ配信サービスなので、放送番組とTVerは連動しています。つまり、日々何かしら視聴率が跳ね上がるようなイベントがあるわけです。
そうした状況が頻発する高負荷なシステム環境下で、エンジニアはどのような仕組みを準備して効率よく回しているのか。しかも少数精鋭で。
──やはりそれは、各エンジニアの専門性の高さが重要ですか?
テレビメディアに寄り添う専門性の高さが重要です。テレビというメディアを扱う以上は、ノウハウ化できない、ドキュメント化できないものが多くありますから。
なので、技術的な専門性ばかりを追いかけてもダメで、サービスや事業をよく知る必要があります。より幅の広い視野が必要になりますね。
例えば「どのようなドラマが流行るか?」「バラエティ番組のゲストは、今なら誰の場合にアクセスが増えるか?」というのは、もはや人間が感覚で判断する部分が大きいわけです。
AIの活用によって改善されるところがあるかもしれないのですが、ミスが事故に繋がる可能性は避けないといけないと考えています。
もちろん、それをお金の力で解決することは簡単です。サーバーを普段の10倍用意して構えることは、やろうと思えばできます。しかしTVerのエンジニアは、それを最終手段としています。
「自身の技術と経験、知識をベースに予想を立てながら解決すること」を第一義としているんです。常にアクセスが大量にあるのが当たり前の世界で仕事をしているので、やや特殊なのかもしれませんが、そのような現場をこれから入社する方には見てもらいたいですね。
──技術スタックに関心がある候補者も多いと思うので、ぜひ教えてください。
サービスプロダクト本部では、バックエンドシステムで「Go」を使用しています。高負荷にも耐えられますし、何よりコードがシンプルですよね。
TVerに吸収される前からGoをメインとした組織でしたが、技術組織が拡大するなかでコードレビューをしやすい仕様はありがたいです。
広告事業本部の広告関連ソリューションの開発では、それこそ組織がゼロスタートだったことから、確実に経験豊かなエンジニアを確保できるJavaを選んでいます。
要するに、適材適所の技術スタックを利用するべきだと考えているだけです。
──TVerは新しい技術を使うことに積極的なのでしょうか?
何のためらいもありませんよ。むしろ「新しいものはどんどん使おう」「提案して!」が私の口癖です。私のバックグラウンドはシステム開発のキャリアでなく、デジタル広告のインタラクティブコンテンツやソーシャルアプリを作ることのほうが多かったんですよね。
つまり、フロントもバックエンドも公開期間が数ヶ月のものを次々に開発してはローンチして、キャンペーンが終了したらクローズしてきたわけです。
また、その案件ごとに必要な技術スタックは違います。ただし、広告案件であってもナショナルクライアントのキャンペーンでしたし、テレビ番組連動案件も絶対に落とせない生放送番組であったことからシステムダウンすることは、絶対にできません。
そういった経験を私がしているので、気軽に新しい技術を試せる風土を現場に提供できるのだと思います。
──技術を追求したいエンジニアにとって、魅力的ですね。
その代わり「テストコードをちゃんと書いてね」と徹底しています。毎日デプロイしても良いからテストだけは必ず通すんだぞと。
でも……モダンなインターネットサービス事業者であれば、当たり前にどこでもやっていることだと思います。その当たり前をTVerでも徹底しているんです。
最近はエンジニア組織も徐々に大きくなっているので、CTOとして技術選定のガイドラインを作成しています。技術スタック、開発環境、開発プロセスのルール化ですね。品質を守りながらいかに効率化できるかを追求しています。
いずれにしても、必要なことであれば新しい技術にもどんどんチャレンジしていってほしいですね。
TVerは“挑戦者”として、これからの業界をリードする
──採用強化中とのことですが、面接ではどのような点を意識していますか?
私が担当するのは最終面接になるので、技術力というよりはコミュニケーション能力に重きを置くようにしています。やはりリモートワークが前提になると思うので、1を聞いて10を理解できなくとも、理解のために10の質問ができるコミュニケーションができるかどうかは大切です。
加えて、TVerのエンジニア組織は、今の段階では少数精鋭でサービスを支えている状況なので、自ら課題を発見・設定し、解決していけることも重要だと考えています。要するに巻き込まれるのでなく、巻き込んでいってくれる志向の組織にしたいんです。
──技術的にも業界的にも変化が大きい時代です。今後の対応としては、どのようなことを考えていますか?
私は、TVerこそがテレビを良い意味で変えていく立場にあると考えています。そのためバリューでも「挑戦者」や「プロフェッショナル」という言葉を掲げているわけです。
TVerは無料で使えるサービスであるため、今後もMUBは増え続けると予想しています。現在はサービスが急成長している段階なので、エンジニアはいかに安定した品質で、効率的に運用できるかが求められます。いわば、次のチャレンジに向けた助走期間と言えるでしょう。
その先にはTVerが業界をドラスティック(劇的)に変えていくフェーズがあると考えています。その時に向けて、一緒に挑戦していける仲間を私たちは募集しています。
テレビの新しい未来、形をともに作っていきましょう!
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