”推し”に会えない、ライブができない。苦境に立たされたライブアイドルシーンで光るアイドル3組
文/南波一海
なんばかずみ●『ハロプロ スッペシャ〜ル』『ヒロインたちのうた』(ともに音楽出版社)発売中。レーベル・PENGUIN DISCの主宰も務める。
この度の新型コロナウィルスの影響下で、ライブを主戦場としてきたアイドルを巡る状況は刻々と変化している。
首都圏全体での外出自粛の要請があった3月下旬からの得も言われぬ緊張感、街に人気がない非日常の風景を思い起こすと、この原稿を書いている7月上旬はだいぶ緩やかになったのだなと感じている。少しずつではあるけれど、感染防止策を講じた上で会場に観客を入れてイベントを行なう流れが見えるようになってきた。
年度の変わり目である4月は本来、アイドルシーンにおいても様々な変化が見られる時期なのだが、ステイホーム期間に突入したため、すっぽりと抜け落ちてしまったこの春の混乱のなかで予定が大きく変わってしまった人はもちろん大勢いて、新たにスタートラインに立ったものの人前に出られず、表立った動きはオンラインで見せることしかできないというケースがいくつか見られた(同時に解散が無期限延期になるところもあれば、ラストライブを行なわないまま解散するところもあった……)。
というわけで、ここでは春にオンラインで気になった存在、そしてこの夏にライブをたくさん見れたらいいなと思う3組をピックアップしていきたい。
FRUN FRIN FRIENDSはまさに上記のパターンが当てはまる。4月から活動が始まり、7月5日が初ステージとなった。
メンバーの宇佐蔵べにとなゆたあくのふたりは、あヴぁんだんどというグループのオリジナルメンバーだった。あヴぁんだんどは2014年夏にデビューし、メンバーの無邪気な魅力と先進的でポップな楽曲で躍進したが、メンバー編成がめまぐるしく変化し、運営サイドも変わり、グループ名が英語表記のavandonedになったりと様々な変化を余儀なくされ、今年の2月に惜しまれつつもその歴史に幕を閉じた。
なゆたは2016年3月にグループを脱退し、その後、名義をいくつも変えながらソロやユニットで活動した。一方の宇佐蔵は最初から最後までグループを牽引し続けた。一時、ふたりの間には溝もあったようだが(宇佐蔵自身「5メートルくらいの壁があった」と話していた)、4年前に枝分かれした人生が再びこうして交差するのだがら運命とは数奇なものだなと思う。
このユニットは、初期あヴぁんだんどの楽曲を手掛けていたteoremaa、中期以降の楽曲の軸だったつるうちはながそれぞれオリジナル曲を寄せているのも大きなポイント。メンバーも作家陣も少し前にはおよそ考えられなかった組み合わせが実現していて、FRUN FRIN FRIENDSはあくまで別ユニットではあるものの、あヴぁんだんど/avandonedが繋いだ新たな世界線が見られるという事実には胸が熱くなる。
NELNもこの春にデビューした新グループ。現時点では客前でのライブはまだ行なっていない。4月からいきなり12カ月連続リリースを敢行するという思い切りのよさで、数々のミュージックビデオを世に送り出してきた映像作家の森岡千織がプロデュースで関わっていることもあり、映像コンテンツにもかなり力が入っている点も非常に頼もしい。
活動の場がオンラインしかないというここ数カ月の特異な状況のなかで、しっかりと楽曲を作ってミュージックビデオも用意するというのは間違いなく正攻法であり、同時に、コロナ禍で収益の見通しが立てにくい現状を考えるとチャレンジングでもある。これまでリリースされた3曲はどれもいいが、個人的には「ノンフィクション」の抑制の効いた曲調とカラフルで刹那的なミュージックビデオ映像がお気に入り。
足浮梨ナコは中学3年生のシンガーソングライター。ギターを初めて手にしたのが昨年の冬という新星だ。デビュー日は定かではないが、僕がタワーレコードでやっている配信番組「南波一海のアイドル三十六房」に自作の音源を送ってくれて、5月の配信で流したことから局所的に知られる存在となった。足浮梨ナコとして初めて人前でライブを行なったのは7月4日。
足浮のYouTubeチャンネル「足浮梨ナコoffisyaru」(なんという表記!)にはいくつものオリジナル音源がアップロードされている。
「俺、一生少年説」は、全盛期はとうに過ぎ、いつか孤独死を迎えることを悟っている独身中年男性が、アイドルと出会ったことで二度目の青春を生きるというプロセスを描いたもの。
「熟年夫婦」は、今晩は子供が家に帰ってこないので夫婦二人きりで過ごせるからさてどうなる、という心の読み合いを夫と妻の視点それぞれから描いたものだ。こうした中年のリアリティーが綴られた歌を14才の中学生が歌っている、という事実にやられてしまっている人が続出している。
プリミティヴでナンセンスな言語センスが爆発する「Let'sダンゴムシ」のようなダンスナンバー(?)もあり、次にどんな曲が繰り出されるのかが最も楽しみな存在。
ただ、いずれも録音やミックスがかなりラフで、才能と情熱が技術を越えてしまっている状態。ライブではまるで違った魅力を発揮しているので、これがうまくパッケージされれば一気に広がるかもしれない。
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